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第二章・喪われし魂の救済を求めて、最期まで心を焦がしてやまなかった彼と。
2-9・陽だまり
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僕に突き刺さった朝比奈のものは、ますます質量を増しながら僕の中を行き来している。さながら僕は杭打たれる吸血鬼だ。硬くなった肉の杭が腹の奥まで届くたび、内臓を引っ掻き回される感触に低い呻きが漏れる。
「っ、あ、朝比奈っ……! くそ、くそっ、なん、なんだよ、オマエぇっ……!」
「ごめん、ごめんっ……神母坂、死ぬなよっ、神母坂、っく、あ……っ!」
「うぁあっ!? は、ちょっ、待て、離せ、って……んあぁっ!」
「やだ。嫌だっ。離したら神母坂、死んじゃうじゃんっ……離すもんか、絶対、今度は、離すもんか!」
何やら感極まって叫び出す朝比奈だが、僕としてはそれどころではない。どうにか身を引き剥がそうとしても、死に物狂いの朝比奈の腕はほどけない。苦しい。呼吸が止まりそうだ。別段力強そうにも見えないこいつのどこにこんな馬力が潜んでいたのか、まったくもって計算違いだ。
こいつがいったい何をもって僕の死を確信しているのか、僕にはわからない。あの屋上から見渡した群衆の中に、朝比奈の姿がなかったのも確認済みだ。けれど間違いなく言えることとして、このまま朝比奈の滅茶苦茶を許していたら、僕はおよそ僕の望みとはかけ離れた方法で、死ぬ。
「かふっ……わ、わかった、わかったから! 死なない、死なないから僕は!」
「本当だな!? 手ぇ離した途端どっかから飛び降りるとかナシだからな!?」
「わかったわかった! って言うか、この状況で無理だろそれは、物理的に!」
「物理的? ……あ」
不本意ながらもぞりと腰を動かしてやると、朝比奈も僕の言いたいことがわかったようだ。つまり肉と肉とで繋がり合っているこの状況、手を離したからと言って僕が即座にどこかに行けるわけがない。非常に不本意ではあるが。
朝比奈の腕が僅かに緩んだ。思わずほう、と息を吐く。だがその息を塞ぐかのように、朝比奈の唇が僕のそれに重ねられた。
「んう……っ!」
「……っは、神母坂……好き、好きだ……」
「……っ、あさ、ひな……っ」
「ここにいてよ……いなくならないでよ、オレの、オレの……そばにいてよ……っ!」
くそ。くそ。なんで今になってそんなこと言うんだ。なんで今になって、そんな顔するんだ。冷笑する理性とは裏腹に、体と心はさっきから火照ってやまない。
だって朝比奈が、僕のことをまっすぐ見るんだ。
あのとき誤魔化した告白を、今度は臆さず僕に告げるんだ。
「んぁっ……! や、そこやだっ」
「ふは……っ、神母坂、気持ちい? 神母坂も気持ちいい?」
「や、嫌だって、うぁっ、はぁんっ」
置き去りにしていた肉体の感触が、ここに来てようやく僕の尾を捕まえてしまったようだ。ただの排泄器官でしかないはずの場所を熱いもので擦られて、痺れるような快感が腹の奥を突き抜ける。あの潤滑剤のせいだろうか、それとも朝比奈の必死さのせいだろうか。穿たれた孔がぬちゅぬちゅと音を立て、出入りする朝比奈自身をきゅんと絞めつけている。
朝比奈の腕が、胸が、肌の感触が。他人の体温を直に肌同士で注がれることが、こんなに心を揺さぶるなんて知らなかった。
僕に誤算があったとすれば、きっとそのせいだ。
「あ、やっ、いく、も、朝比奈、あさひな……っ」
「っ、く、オレ、も、神母坂……透夜、とーや……っ!」
「あっ、あ、あ、あぁっ……! ……っ!!」
高い声を垂れ流しながら、半ば無意識に朝比奈の体にしがみつく。朝比奈が一瞬、体をぶるりと震わせて静止した。放出された体温が、じんわりと僕の中に広がっていく。
その熱を感じながら達する瞬間、僕はなんだか不覚にも、陽だまりの中にいるような温かさを覚えてしまった。
「っ、あ、朝比奈っ……! くそ、くそっ、なん、なんだよ、オマエぇっ……!」
「ごめん、ごめんっ……神母坂、死ぬなよっ、神母坂、っく、あ……っ!」
「うぁあっ!? は、ちょっ、待て、離せ、って……んあぁっ!」
「やだ。嫌だっ。離したら神母坂、死んじゃうじゃんっ……離すもんか、絶対、今度は、離すもんか!」
何やら感極まって叫び出す朝比奈だが、僕としてはそれどころではない。どうにか身を引き剥がそうとしても、死に物狂いの朝比奈の腕はほどけない。苦しい。呼吸が止まりそうだ。別段力強そうにも見えないこいつのどこにこんな馬力が潜んでいたのか、まったくもって計算違いだ。
こいつがいったい何をもって僕の死を確信しているのか、僕にはわからない。あの屋上から見渡した群衆の中に、朝比奈の姿がなかったのも確認済みだ。けれど間違いなく言えることとして、このまま朝比奈の滅茶苦茶を許していたら、僕はおよそ僕の望みとはかけ離れた方法で、死ぬ。
「かふっ……わ、わかった、わかったから! 死なない、死なないから僕は!」
「本当だな!? 手ぇ離した途端どっかから飛び降りるとかナシだからな!?」
「わかったわかった! って言うか、この状況で無理だろそれは、物理的に!」
「物理的? ……あ」
不本意ながらもぞりと腰を動かしてやると、朝比奈も僕の言いたいことがわかったようだ。つまり肉と肉とで繋がり合っているこの状況、手を離したからと言って僕が即座にどこかに行けるわけがない。非常に不本意ではあるが。
朝比奈の腕が僅かに緩んだ。思わずほう、と息を吐く。だがその息を塞ぐかのように、朝比奈の唇が僕のそれに重ねられた。
「んう……っ!」
「……っは、神母坂……好き、好きだ……」
「……っ、あさ、ひな……っ」
「ここにいてよ……いなくならないでよ、オレの、オレの……そばにいてよ……っ!」
くそ。くそ。なんで今になってそんなこと言うんだ。なんで今になって、そんな顔するんだ。冷笑する理性とは裏腹に、体と心はさっきから火照ってやまない。
だって朝比奈が、僕のことをまっすぐ見るんだ。
あのとき誤魔化した告白を、今度は臆さず僕に告げるんだ。
「んぁっ……! や、そこやだっ」
「ふは……っ、神母坂、気持ちい? 神母坂も気持ちいい?」
「や、嫌だって、うぁっ、はぁんっ」
置き去りにしていた肉体の感触が、ここに来てようやく僕の尾を捕まえてしまったようだ。ただの排泄器官でしかないはずの場所を熱いもので擦られて、痺れるような快感が腹の奥を突き抜ける。あの潤滑剤のせいだろうか、それとも朝比奈の必死さのせいだろうか。穿たれた孔がぬちゅぬちゅと音を立て、出入りする朝比奈自身をきゅんと絞めつけている。
朝比奈の腕が、胸が、肌の感触が。他人の体温を直に肌同士で注がれることが、こんなに心を揺さぶるなんて知らなかった。
僕に誤算があったとすれば、きっとそのせいだ。
「あ、やっ、いく、も、朝比奈、あさひな……っ」
「っ、く、オレ、も、神母坂……透夜、とーや……っ!」
「あっ、あ、あ、あぁっ……! ……っ!!」
高い声を垂れ流しながら、半ば無意識に朝比奈の体にしがみつく。朝比奈が一瞬、体をぶるりと震わせて静止した。放出された体温が、じんわりと僕の中に広がっていく。
その熱を感じながら達する瞬間、僕はなんだか不覚にも、陽だまりの中にいるような温かさを覚えてしまった。
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