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196・エピローグ入りにも手紙書きがち
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前略。今はどことも知れない遠い空の下にいる、俺こと煤ヶ谷鍮太郎の母ちゃん様へ。
俺、彼氏ができました。
どこか遠いところで、カーテンの開く音が聞こえた。朝の光がまぶたを透かして目に届く。まどろみから俺を引き上げようとするまぶしさに、つぶったままの目をより強く閉じる。
「おはようございます、チュー太郎様」
耳に届いた優しい声は、早くも執事モードへの変身を完了済みだ。まるで昨日の夜にあったアレやコレやなんて、俺の見た夢だったかとすら思ってしまうくらいに。
まあ、いつものことなんだけど。アレソレの翌朝にジルコンが、私情一切抜きの執事モードで朝を迎えるなんてことは。仕事にそういうのを持ち込むのはよくないと思ってるのか、それとも多少はこいつなりの照れ隠しも入っているのか。いい加減慣れた光景とはいえ、寂しさを全く感じないと言えば嘘になる。
「朝食の準備ができております。お早めに食堂までお越しくださいませ」
「んぅー……もう、ちょっと……」
「本日の演習パートナーはルビーノとなっております。準備には万全を期しておくべきかと存じます」
「んえぇー……」
うっすらと目を開けて、声の主を見上げた。日射しを受けてキラキラを背負うジルコンは、慇懃無礼なほどの完璧な微笑みで俺を揺り起こしている。ふと、ちょっとだけ反抗してみたくなった。真っ白な軍服の袖をくいくいと引いて、寄ってきた耳元にそっと囁く。
「なあ。今日は二人でサボりってのもアリじゃね? ベッドの上で一日中、的な」
「は?」
「いいじゃん、たまには。俺まだ、ちょっと……し足りないっていうか、さ」
「……」
言って誘うように目を閉じる。ジルコンの息遣いが、一瞬だけ揺らいだ。おっ、と思う暇もあらばこそ。俺の首根っこをジルコンがわし掴み、ネズミでもつまみ上げるかのように持ち上げる。
「わぁっ!?」
「足りない、か。昨日散々啼かせてやったと言うのに、あれでもまだ足りないとは。いい度胸だな」
「お前キレてんのそっちかよ!? いやそれはなんていうか言葉のあやって言うか、嘘嘘足りてるめっちゃ満たされた!! 」
「当然だ。さっさと支度を済ませろ」
「ふぇーい……」
ちぇ。色仕掛け大失敗。恋人のかわいいおねだりに、こんなキレ方することある? なんて、ぶつくさ言いながらも着替えを済ませる。相変わらず部屋を出もせずに待っていたジルコンに、んじゃ行こう、と声をかけようとした瞬間。ばってん紐の首元が、ジルコンの手でぐいっと引き寄せられた。
「わっ……んぅっ!?」
口づけと同時に、柔らかい舌がぬるりと口内に入り込む。息をもつかせない深いキスは、きっかり十秒俺を蹂躙してから、細い糸を引いて離れていった。
「……ふぁ」
呆然と立ち尽くす俺を見下ろして、ジルコンはさっきまでとは打って変わった、意地悪で傲慢な微笑みを向ける。
「ご褒美だ。今夜は可愛がってやる。足りないなんてくだらん虚言が、二度と出てこないくらいにな」
「ふぐっ……!」
一瞬で顔面が茹だった。う、嬉しいような恐ろしいような。手の甲で口元を隠す俺に向かって、ジルコンは心底おかしそうに、ククッと声を上げて笑った。
俺、彼氏ができました。
どこか遠いところで、カーテンの開く音が聞こえた。朝の光がまぶたを透かして目に届く。まどろみから俺を引き上げようとするまぶしさに、つぶったままの目をより強く閉じる。
「おはようございます、チュー太郎様」
耳に届いた優しい声は、早くも執事モードへの変身を完了済みだ。まるで昨日の夜にあったアレやコレやなんて、俺の見た夢だったかとすら思ってしまうくらいに。
まあ、いつものことなんだけど。アレソレの翌朝にジルコンが、私情一切抜きの執事モードで朝を迎えるなんてことは。仕事にそういうのを持ち込むのはよくないと思ってるのか、それとも多少はこいつなりの照れ隠しも入っているのか。いい加減慣れた光景とはいえ、寂しさを全く感じないと言えば嘘になる。
「朝食の準備ができております。お早めに食堂までお越しくださいませ」
「んぅー……もう、ちょっと……」
「本日の演習パートナーはルビーノとなっております。準備には万全を期しておくべきかと存じます」
「んえぇー……」
うっすらと目を開けて、声の主を見上げた。日射しを受けてキラキラを背負うジルコンは、慇懃無礼なほどの完璧な微笑みで俺を揺り起こしている。ふと、ちょっとだけ反抗してみたくなった。真っ白な軍服の袖をくいくいと引いて、寄ってきた耳元にそっと囁く。
「なあ。今日は二人でサボりってのもアリじゃね? ベッドの上で一日中、的な」
「は?」
「いいじゃん、たまには。俺まだ、ちょっと……し足りないっていうか、さ」
「……」
言って誘うように目を閉じる。ジルコンの息遣いが、一瞬だけ揺らいだ。おっ、と思う暇もあらばこそ。俺の首根っこをジルコンがわし掴み、ネズミでもつまみ上げるかのように持ち上げる。
「わぁっ!?」
「足りない、か。昨日散々啼かせてやったと言うのに、あれでもまだ足りないとは。いい度胸だな」
「お前キレてんのそっちかよ!? いやそれはなんていうか言葉のあやって言うか、嘘嘘足りてるめっちゃ満たされた!! 」
「当然だ。さっさと支度を済ませろ」
「ふぇーい……」
ちぇ。色仕掛け大失敗。恋人のかわいいおねだりに、こんなキレ方することある? なんて、ぶつくさ言いながらも着替えを済ませる。相変わらず部屋を出もせずに待っていたジルコンに、んじゃ行こう、と声をかけようとした瞬間。ばってん紐の首元が、ジルコンの手でぐいっと引き寄せられた。
「わっ……んぅっ!?」
口づけと同時に、柔らかい舌がぬるりと口内に入り込む。息をもつかせない深いキスは、きっかり十秒俺を蹂躙してから、細い糸を引いて離れていった。
「……ふぁ」
呆然と立ち尽くす俺を見下ろして、ジルコンはさっきまでとは打って変わった、意地悪で傲慢な微笑みを向ける。
「ご褒美だ。今夜は可愛がってやる。足りないなんてくだらん虚言が、二度と出てこないくらいにな」
「ふぐっ……!」
一瞬で顔面が茹だった。う、嬉しいような恐ろしいような。手の甲で口元を隠す俺に向かって、ジルコンは心底おかしそうに、ククッと声を上げて笑った。
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