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187・敗けた者、勝った者
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「……はあーあ」
照れ照れとジルコンを見つめる俺の耳に、わざとらしく盛大なため息が届く。ハッと我に返った。石の床に片膝を立てたフォルコが、俺たちに呆れたような視線を投げている。
「てめえらがイチャつくために決闘仕掛けたわけじゃねえんだぞ。真剣勝負を乳繰り合いのダシにしやがって、この色惚けどもが」
「うぐっ」
至極真っ当な物言いにダメージを受ける俺とは裏腹に、ジルコンは眉一つ動かさず平然とうそぶく。
「そもそもこうなることがわかりきっていながら、こいつを賭けに持ち出したのはそちら側だろう。ダシにされる程度の仕合いしか成し得なかった自分を呪え」
「……ハッ。言ってくれるぜ」
「だが覆うべくもなき事実です。そうでしょう、フォルコ様」
追い打ちをかけたのは、意外にもフォルコの身を支えるエイグルだった。一瞬、フォルコは何かを言い返そうとして、だがそのまま気まずそうに目を逸らす。
「ああクソ、わーってるよ、お前の言いたいことぐれーよ。これでようやくお前も身に滲みただろ、やっぱり自分が里長継ぐべきだったって」
「いいえ。我らが扶翼すべき里長は、フォルコ様ただひとりを置いて他にありません。同様に、私が仕えるべきただひとりの主も」
「……」
諭すようなエイグルの言葉に、フォルコは真横を向いたまま唇を尖らせる。さっきまでの凶暴さはどこへやら、なんだか拗ねた子供みたいだ。エイグルもたぶん似たようなことを思ってるんだろう。わずかに口元からこぼれた苦笑を、すぐに引き締めて続きを告げる。
「しかし。だからこそ先刻のごとき醜態は、今日を限りとして頂く。そのためにまずは更なる修行と、より広い修文に努める必要があります」
「げ」
顔を引きつらせるフォルコをさて置いて、エイグルはジルコンに向き直った。それから折り目正しく翼をたたみ、深々と一礼する。
「此度の決闘は、我が主の敗北に終わりました。これまでの数々の非礼、心よりお詫び申し上げる」
「ああ。再三繰り返すようだが、こちらとしては貴殿らと事を構えるのは決して本意ではない。同じ地にて境を接するもの同士、相容れるとまでは叶わなくとも、共に泰平で在ることを望んでいる」
「……感謝いたします」
顔を上げざまちらりと見えた瞳は、だいぶ複雑そうな色を浮かべていた。当たり前か。けれど今まで俺たちに向けていたような、あからさまな敵意の色は見当たらない。これがフォルコの言っていた、翼人の掟、ってやつなんだろうか。
舞台から降りた二人が、他の翼人たちに迎えられるのを見送って。舞台脇でただただ口を開けていたコラルに、ジルコンが顎をしゃくってみせる。
「では、立会人、コラル殿。勝敗の言明を」
「へ? あ、そう、そうだ、そうですぅ!」
コラルはいそいそと舞台に上がり、満面の笑みで高々と片手を掲げる。
「今回の決闘の勝者は、エーデルシュタイン王国第十王子。ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン! 殿! ですぅ!」
全員の注目、そして自然と沸き起こった拍手が、ジルコンと、抱き上げられたままの俺を包んだ。
……今さらながらコレ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
照れ照れとジルコンを見つめる俺の耳に、わざとらしく盛大なため息が届く。ハッと我に返った。石の床に片膝を立てたフォルコが、俺たちに呆れたような視線を投げている。
「てめえらがイチャつくために決闘仕掛けたわけじゃねえんだぞ。真剣勝負を乳繰り合いのダシにしやがって、この色惚けどもが」
「うぐっ」
至極真っ当な物言いにダメージを受ける俺とは裏腹に、ジルコンは眉一つ動かさず平然とうそぶく。
「そもそもこうなることがわかりきっていながら、こいつを賭けに持ち出したのはそちら側だろう。ダシにされる程度の仕合いしか成し得なかった自分を呪え」
「……ハッ。言ってくれるぜ」
「だが覆うべくもなき事実です。そうでしょう、フォルコ様」
追い打ちをかけたのは、意外にもフォルコの身を支えるエイグルだった。一瞬、フォルコは何かを言い返そうとして、だがそのまま気まずそうに目を逸らす。
「ああクソ、わーってるよ、お前の言いたいことぐれーよ。これでようやくお前も身に滲みただろ、やっぱり自分が里長継ぐべきだったって」
「いいえ。我らが扶翼すべき里長は、フォルコ様ただひとりを置いて他にありません。同様に、私が仕えるべきただひとりの主も」
「……」
諭すようなエイグルの言葉に、フォルコは真横を向いたまま唇を尖らせる。さっきまでの凶暴さはどこへやら、なんだか拗ねた子供みたいだ。エイグルもたぶん似たようなことを思ってるんだろう。わずかに口元からこぼれた苦笑を、すぐに引き締めて続きを告げる。
「しかし。だからこそ先刻のごとき醜態は、今日を限りとして頂く。そのためにまずは更なる修行と、より広い修文に努める必要があります」
「げ」
顔を引きつらせるフォルコをさて置いて、エイグルはジルコンに向き直った。それから折り目正しく翼をたたみ、深々と一礼する。
「此度の決闘は、我が主の敗北に終わりました。これまでの数々の非礼、心よりお詫び申し上げる」
「ああ。再三繰り返すようだが、こちらとしては貴殿らと事を構えるのは決して本意ではない。同じ地にて境を接するもの同士、相容れるとまでは叶わなくとも、共に泰平で在ることを望んでいる」
「……感謝いたします」
顔を上げざまちらりと見えた瞳は、だいぶ複雑そうな色を浮かべていた。当たり前か。けれど今まで俺たちに向けていたような、あからさまな敵意の色は見当たらない。これがフォルコの言っていた、翼人の掟、ってやつなんだろうか。
舞台から降りた二人が、他の翼人たちに迎えられるのを見送って。舞台脇でただただ口を開けていたコラルに、ジルコンが顎をしゃくってみせる。
「では、立会人、コラル殿。勝敗の言明を」
「へ? あ、そう、そうだ、そうですぅ!」
コラルはいそいそと舞台に上がり、満面の笑みで高々と片手を掲げる。
「今回の決闘の勝者は、エーデルシュタイン王国第十王子。ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン! 殿! ですぅ!」
全員の注目、そして自然と沸き起こった拍手が、ジルコンと、抱き上げられたままの俺を包んだ。
……今さらながらコレ、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。
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