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166・火の玉正論ストレート
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ほんの一瞬、何か言いたげな間を置いたあと。サフィールはすっと元の真顔に戻る。
「……いや、俺のことはいい。ともかく俺自身がそう考えているからこそ、余計に解せない。貴方のその感情は俺から見れば、物語や叙事詩に聞くところの恋愛そのものだ。いったい何を引け目に感じることがある?」
「ぅえ……や、だって……」
「ああ、それとも。もしや貴方は誰彼かまわず、他人といれば常にそういう感情を抱くのか? ならば貴方自身が自分を信じられないのも道理ではあるが」
「それは、……ない……多分、ないけど」
はっきりそう言い切れないのが悲しいところではある。なんせイケメンに優しくされて男でもいっかってなってしまったのが俺って奴だ。それでも俺が今、ジルコンに対して抱いているこの気持ちは、他の誰かに散々感じてきた瞬間的なドキーン! とは全然違う。それだけは断言できる。
「ならばなぜ恥じる。愛に綺麗も邪道もないだろう。それが倫理にもとるものでもないならなおさらだ」
「や、そりゃ……言葉の上ではそうかもしんないけど、現実的にさぁ」
「現実と言うならば、貴方のその心情こそ紛れもない現実のはずだ。そこから目を逸らし続けるのは単純に、不毛ではないのか?」
「ぐ……せ、正論パンチやめろよマジで……てかなんなんだよ、さっきからめっちゃ詰めるじゃん……」
「詰めもするだろう。俺から見れば今の貴方は、年月に磨かれた貴重な鋼玉を、価値もわからず打ち捨てようとしている愚か者だ」
盛大にふうっとため息をついてから、サフィールはきょろきょろと辺りを見回した。何かよからぬことでも考えているようだ。望遠鏡に目を止め、ひとり合点したかのように頷くと、妙に白々しい笑顔で手を叩く。
「ああ、しかし、そうだな。確かに俺が詰問するまでもなかったかもしれないな。なんせジルコンは引く手数多の男前だ、貴方が何を思おうが本質的にはどうでもいい」
「え」
「ともあれ貴方がそう言うなら、俺としても遠慮は要らないな。今度の星見にジルコンを呼ぶとしよう。彼に焦がれる姫君たちが、きっと勇んで」
「! や、やめっ……!」
勝手に声が出た。衝動的に手を伸ばし、青い軍服の裾を強く引く。
理性ではもちろん、これがサフィールの挑発だってわかってる。こんな下手な演技に騙されるほどアホじゃねーわ、なんてことすら考えている。でも頭をかすめたリアルな想像は、まともな思考を焼き切って、俺の体を動かしていた。
サフィールがちょっと驚いたように目を見開く。それからすがりつくように裾を握る俺を、最初の頃と同じくらい優しい瞳で見下ろした。
「そう思うなら、答えはわかりきっているはずだろう。何も隠すなとまでは言わない。ただ、恥じるな」
「……っ」
「その感情を抱ける貴方を……俺は、羨ましく思う」
最後の方は、ほとんど聞き取れないくらいの小声になっていた。
僅かに首を縦に振る俺を見届けてから、サフィールはふいと視線を逸らした。
「……いや、俺のことはいい。ともかく俺自身がそう考えているからこそ、余計に解せない。貴方のその感情は俺から見れば、物語や叙事詩に聞くところの恋愛そのものだ。いったい何を引け目に感じることがある?」
「ぅえ……や、だって……」
「ああ、それとも。もしや貴方は誰彼かまわず、他人といれば常にそういう感情を抱くのか? ならば貴方自身が自分を信じられないのも道理ではあるが」
「それは、……ない……多分、ないけど」
はっきりそう言い切れないのが悲しいところではある。なんせイケメンに優しくされて男でもいっかってなってしまったのが俺って奴だ。それでも俺が今、ジルコンに対して抱いているこの気持ちは、他の誰かに散々感じてきた瞬間的なドキーン! とは全然違う。それだけは断言できる。
「ならばなぜ恥じる。愛に綺麗も邪道もないだろう。それが倫理にもとるものでもないならなおさらだ」
「や、そりゃ……言葉の上ではそうかもしんないけど、現実的にさぁ」
「現実と言うならば、貴方のその心情こそ紛れもない現実のはずだ。そこから目を逸らし続けるのは単純に、不毛ではないのか?」
「ぐ……せ、正論パンチやめろよマジで……てかなんなんだよ、さっきからめっちゃ詰めるじゃん……」
「詰めもするだろう。俺から見れば今の貴方は、年月に磨かれた貴重な鋼玉を、価値もわからず打ち捨てようとしている愚か者だ」
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「ああ、しかし、そうだな。確かに俺が詰問するまでもなかったかもしれないな。なんせジルコンは引く手数多の男前だ、貴方が何を思おうが本質的にはどうでもいい」
「え」
「ともあれ貴方がそう言うなら、俺としても遠慮は要らないな。今度の星見にジルコンを呼ぶとしよう。彼に焦がれる姫君たちが、きっと勇んで」
「! や、やめっ……!」
勝手に声が出た。衝動的に手を伸ばし、青い軍服の裾を強く引く。
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サフィールがちょっと驚いたように目を見開く。それからすがりつくように裾を握る俺を、最初の頃と同じくらい優しい瞳で見下ろした。
「そう思うなら、答えはわかりきっているはずだろう。何も隠すなとまでは言わない。ただ、恥じるな」
「……っ」
「その感情を抱ける貴方を……俺は、羨ましく思う」
最後の方は、ほとんど聞き取れないくらいの小声になっていた。
僅かに首を縦に振る俺を見届けてから、サフィールはふいと視線を逸らした。
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