165 / 200
163・わたしのIはなんのアイ
しおりを挟む
城壁の一角から飛び出した、円形の物見塔。長いらせん階段を上った先の屋上には、城下町を見下ろす展望台がある。中天を過ぎてなお強烈な日が当たるその場所に、サフィールは俺を連れてやってきていた。
塔と言っても高さ自体はそれほどでもない。現代の建物と比べたら、5、6階建ての駅ビル程度だろうか。けれどそもそもこの世界では、二階建て以上の家すら珍しい。周囲の平坦さと比べれば、この高さでもちょっとしたもんだ。
胸の高さにある手すりから、身を乗り出して下界を見渡す。三角屋根の家々と、その向こうにはきらめく海。反対側には濃い緑の森が広がっている。ほー、と声を漏らしながら眺めていると、後ろからサフィールが声をかけてきた。
「良い施設だろう。過去軍事用として使われていた場所だが、現在は日によって一般市民にも開放している」
「んー、いいねえ、絶景絶景。あ、この望遠鏡は星見る用?」
「そうだ。以前の星見会でも使ったものだな」
「あー、アメティスタ呼んでたやつね」
「ああ。そう言えばあの時はなぜか、途中で全員が居眠りをしてしまったのだったな。アメティスタにも申し訳ないことをした」
「……おー」
こいつ、気づいてないのかよ。そこはさすがに不自然だと思おう? まあ、今さら余計なことを言って、彼らの関係にヒビが入るのも困るので黙っておく。
「んで……話って、何」
「……ああ」
大事そうに望遠鏡を撫でていたサフィールが、手を離して俺の方を向く。途端に空気がピリッと張り詰めるのを感じた。思わず背筋を伸ばした俺に、サフィールは眉間にしわを寄せて問いかけた。
「率直に問おう。貴方はジルコンを……エーデルシュタイン王国第十王子ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン殿下を、愛しているのか」
「あぃっ……!?」
その言葉を聞いた瞬間、膝の力がかくんと抜けた。あい。あい? ……愛!? え、マジで!? そんなん少女漫画と恋愛ゲームの中にしか存在しない言葉じゃん!? いやでもすっかり忘れてたけど、そういやそうだこれ恋愛ゲームだ!!
崩れ落ちそうな体を手すりに預けつつ、サフィールの顔をまじまじと見やる。彼の表情にてらいや冗談は見当たらず、むしろ真面目すぎるほど真面目に俺の様子をじっと観察している。マジか。……マジか。
「えっと……その愛は、親愛の愛とか、友愛の愛とかではなく」
「当然、恋愛の愛だ」
「……デスヨネ」
うん、逃亡失敗。よろよろと立ち上がり、必死で頭を巡らせる。おふざけで終わらせることも、やろうとおもえばできなくはない。なにしろ相手はこのサフィールだ。テキトーな言葉遊びでケムに巻くのも簡単そうな気はする。けど……だけど。
視線は下に向けたまま、どうにか姿勢を正した。
「……正直、その……俺今まで愛だの恋だのに縁がなさすぎてさ。いまだによくわかってないっつーか、お前の考える恋愛……的なサムシングとは食い違ってる可能性大なんだけど、それでもいい?」
「ああ。現時点での貴方の、素直な思いを聞かせてほしい」
頷くサフィールは真摯な表情を崩さない。最低限、笑われるとか馬鹿にされることはなさそうだ。ちょっと安心。
塔と言っても高さ自体はそれほどでもない。現代の建物と比べたら、5、6階建ての駅ビル程度だろうか。けれどそもそもこの世界では、二階建て以上の家すら珍しい。周囲の平坦さと比べれば、この高さでもちょっとしたもんだ。
胸の高さにある手すりから、身を乗り出して下界を見渡す。三角屋根の家々と、その向こうにはきらめく海。反対側には濃い緑の森が広がっている。ほー、と声を漏らしながら眺めていると、後ろからサフィールが声をかけてきた。
「良い施設だろう。過去軍事用として使われていた場所だが、現在は日によって一般市民にも開放している」
「んー、いいねえ、絶景絶景。あ、この望遠鏡は星見る用?」
「そうだ。以前の星見会でも使ったものだな」
「あー、アメティスタ呼んでたやつね」
「ああ。そう言えばあの時はなぜか、途中で全員が居眠りをしてしまったのだったな。アメティスタにも申し訳ないことをした」
「……おー」
こいつ、気づいてないのかよ。そこはさすがに不自然だと思おう? まあ、今さら余計なことを言って、彼らの関係にヒビが入るのも困るので黙っておく。
「んで……話って、何」
「……ああ」
大事そうに望遠鏡を撫でていたサフィールが、手を離して俺の方を向く。途端に空気がピリッと張り詰めるのを感じた。思わず背筋を伸ばした俺に、サフィールは眉間にしわを寄せて問いかけた。
「率直に問おう。貴方はジルコンを……エーデルシュタイン王国第十王子ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン殿下を、愛しているのか」
「あぃっ……!?」
その言葉を聞いた瞬間、膝の力がかくんと抜けた。あい。あい? ……愛!? え、マジで!? そんなん少女漫画と恋愛ゲームの中にしか存在しない言葉じゃん!? いやでもすっかり忘れてたけど、そういやそうだこれ恋愛ゲームだ!!
崩れ落ちそうな体を手すりに預けつつ、サフィールの顔をまじまじと見やる。彼の表情にてらいや冗談は見当たらず、むしろ真面目すぎるほど真面目に俺の様子をじっと観察している。マジか。……マジか。
「えっと……その愛は、親愛の愛とか、友愛の愛とかではなく」
「当然、恋愛の愛だ」
「……デスヨネ」
うん、逃亡失敗。よろよろと立ち上がり、必死で頭を巡らせる。おふざけで終わらせることも、やろうとおもえばできなくはない。なにしろ相手はこのサフィールだ。テキトーな言葉遊びでケムに巻くのも簡単そうな気はする。けど……だけど。
視線は下に向けたまま、どうにか姿勢を正した。
「……正直、その……俺今まで愛だの恋だのに縁がなさすぎてさ。いまだによくわかってないっつーか、お前の考える恋愛……的なサムシングとは食い違ってる可能性大なんだけど、それでもいい?」
「ああ。現時点での貴方の、素直な思いを聞かせてほしい」
頷くサフィールは真摯な表情を崩さない。最低限、笑われるとか馬鹿にされることはなさそうだ。ちょっと安心。
1
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された
まほりろ
BL
【完結済み】闇属性の兄を救うため、光属性のボクの魔力を全部上げた。魔力かなくなった事を知った父(陛下)に、王子の身分を剥奪され侯爵領に送られた。ボクは兄上を救えたから別にいいんだけど。
なぜか侯爵領まで一緒についてきた兄上に「一緒のベッドで寝たい」と言われ、人恋しいのかな? と思いベッドに招き入れたらベッドに組敷かれてしまって……。
元闇属性の溺愛執着系攻め×元光属性鈍感美少年受け。兄×弟ですが血のつながりはありません。
*→キス程度の描写有り、***→性的な描写有り。
「男性妊娠」タグを追加しました。このタグは後日談のみです。苦手な方は後日談は読まず、本編のみ読んでください。
※ムーンライトノベルズとアルファポリスにも投稿してます。
ムーンライトノベルズ、日間ランキング1位、週間ランキング1位、月間ランキング2位になった作品です。
アルファポリスBLランキング1位になった作品です。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
※表紙イラストは「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様がイラストを描いてくださいました。製作者の許可を得て表紙イラストとして使わせて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/08
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々
慎
BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。
※シリーズごとに章で分けています。
※タイトル変えました。
トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。
ファンタジー含みます。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる