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162・それでも城は廻っている

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 エーデルシュタイン王国第十王子ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタインが、黄銅の灯士を賭けて翼人族と決闘を行う。
 そのニュースは王城内のみならず、この国、ひいては近隣国まで駆け巡った。

 フォルコの思惑通り、城の上層は即座にこの提案を受け入れた。エーデルシュタインの名にかけて、必ず勝利するように、とのお達しを伴って。ってことは万一ジルコンが負けたら、耀燈騎士団の立場がますます隅に追いやられるのみならず、彼自身の地位すらも危うくなるってわけだ。俺たちにそう報告するジルコンの表情は、だが何の気負いもなくいっそ淡々としていた。代わりに腹を立てる俺たちを、たしなめる余裕すら見せたくらいだ。

 国民の反応は様々だった。翼人に対して憤る者。ジルコンを心配する者、逆に彼ならやってくれるといきり立つ者。いかにジルコンが好かれているとはいえ、ことは国益に直結する問題だ。短慮だと責める声、黄銅の灯士を引き渡せば良かったという声も、決して無視できるような数ではない。そこは俺の意志も考慮してくれよ、と文句を言いたいところではあるけれど、えてして世論ってのはそういうもんだ。

 とにかく、有事に揺れ動く世界ではあるけれど──それでも、決闘を行う当事者はジルコンただひとり。執事業を休んで修行に励む彼を応援しつつ、それまでの短い期間、俺が実際に取れる行動は普段と同じ。
 つまりいつも通り……いやいつもよりもっと気合いを入れて、騎士サマたちとの演習をこなすことだ。



 宝石のオブジェを中央に据えた、いつもの中庭演習場。今週のパートナー・サフィールに向かって芝生の上で手をかざし、俺は魔力制御の演習に勤しんでいた。

「……よし。本日の演習はここまで。集中を解いても構わない」
「……っぷぇー! っし、たぁ……」

 大きく息を吐いて体の力を抜いた。俺の周りに集まっていた青い光が、手を離した風船のように虚空へと逃げていく。肩で息をしながらそれを見送った。あー、きれい。
 数ある演習の中でも、この授業にはいまだにどうも慣れない。俺が暮らしていた現代日本には、魔力なんてまるっきり存在しないからだろうか。水の中で息をする方法を習っているかのような、なんとも言えない奇妙な感覚に陥ってしまう。
 コリをほぐそうとじじくさく首を回す俺に、サフィールはいつも通り無言で背を向けた。相変わらず全然デレない奴。こいつはミマの最推しな分、俺との親愛度はゼロだからだからしょうがないけど。そのまま回廊の方へ二、三歩歩きかけて、そこでふと彼は足を止める。

「? 何、忘れ物?」
「いや。ああ、忘れ物と言えば忘れ物の類かもしれない」

 言いながら振り返るサフィールは、なんだかずいぶん複雑そうな顔をしている。困っているかのような、なんかちょっと嫌そうな、それでも、あくまで真剣な顔だ。

「え、な、なに」
「……貴方に少し、話がある。城の……そうだな、展望台まで向かおうか」
「え?」

 唐突な提案に、やや腰が引ける。何、ここに来て新イベント? 気づかないうちに親愛度上がっちゃってた? や、それはないってわかってるけど。
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