155 / 200
153・ままならないのが人生だ
しおりを挟む
夜の空気に、沈黙が落ちる。焚き火がはぜるパチパチという音が、冷えた風を縫うようにして流れてくる。
ショックの度合いはどうやら、俺よりも言った当人であるミマの方が大きいようだった。速いまばたきを繰り返し、青ざめた顔で視線をさまよわせる彼は、俺が見てきたいじわる傲慢僕様な彼とは大違いだ。なんとなく見ていられなくて目を逸らす。自分の口から出てしまった言葉に、ミマがこんなにも動揺している理由は、俺にも少しはわかる。自分が愛した、人生とまで言い切った世界を、彼は無意識のうちに自分の現実から切り落としてしまった。
話の代わりに、耳を澄ました。カーテン一枚隔てたような遠くから、みんなの声が聞こえる。コラルとランジンが楽しげにじゃれる声。ジルコンたちが控えめに談笑する声。耳慣れた、俺たちのよく知っている、遠くて近い声。
「ほんとはさあ」
自分でも驚くほど、気後れなくするりと言葉が出てきた。
「わかってんじゃねーの、お前も」
「……何が」
「二次元なのか三次元なのか、そのへん俺にはもうよくわかんねーけどさ。とにかく今俺たちの目の前にあるものが、今の俺たちにとっての人生で……そんで人生ってのは、数字に従うとは限らない、いつでもなかなかままならないもんだって」
「知ったふうな口、ききやがって……」
「それに、ほら。親愛度が全部じゃないって、現に生き証人がいるわけじゃん?」
「あ?」
荒んだ返事を投げるミマに対して、向こうの方を指差してみせる。指の先には、飽きずに望遠鏡を覗いてはしゃぐピンク玉の姿。
「コラル? が、どうしたんだよ」
「お前。あいつの親愛度、一切上げてないだろ」
「……っ」
図星を刺されたようにミマが顔を歪めた。やっぱりな。今までの態度からしても、ミマがコラルを攻略してるはずないと踏んでみたんだが、どうやら当たりだったらしい。
「なのにあんなに一途にお前を慕ってるわけですよ。泣ける話だと思わん? 数字じゃ計れない愛ですよ、これは」
「……迷惑な話だよ。じゃあ課金石食うのやめろって」
「そ、そう言ってやるなよなー。それもこれも含めてあいつの人生っていうか、生き様なんだからさぁ」
「……ふん」
椅子の上で足を組み直し、ミマは軽くため息をついた。
「不覚だな。まさかお前みたいなクソガキに、人生がどうとか説教されるなんて思わなかった」
「ク、クソガキ……ってかお前いくつなんだよマジで」
「前世の年齢なんて、今の僕に関係なくない?」
「それはそうだけど……」
しれっとうそぶきながらも、ミマの視線はコラルに向いたままだ。さっきまでの動揺はもう見えない。こういう立ち直りの早さは、呆れるような尊敬できるような。
ショックの度合いはどうやら、俺よりも言った当人であるミマの方が大きいようだった。速いまばたきを繰り返し、青ざめた顔で視線をさまよわせる彼は、俺が見てきたいじわる傲慢僕様な彼とは大違いだ。なんとなく見ていられなくて目を逸らす。自分の口から出てしまった言葉に、ミマがこんなにも動揺している理由は、俺にも少しはわかる。自分が愛した、人生とまで言い切った世界を、彼は無意識のうちに自分の現実から切り落としてしまった。
話の代わりに、耳を澄ました。カーテン一枚隔てたような遠くから、みんなの声が聞こえる。コラルとランジンが楽しげにじゃれる声。ジルコンたちが控えめに談笑する声。耳慣れた、俺たちのよく知っている、遠くて近い声。
「ほんとはさあ」
自分でも驚くほど、気後れなくするりと言葉が出てきた。
「わかってんじゃねーの、お前も」
「……何が」
「二次元なのか三次元なのか、そのへん俺にはもうよくわかんねーけどさ。とにかく今俺たちの目の前にあるものが、今の俺たちにとっての人生で……そんで人生ってのは、数字に従うとは限らない、いつでもなかなかままならないもんだって」
「知ったふうな口、ききやがって……」
「それに、ほら。親愛度が全部じゃないって、現に生き証人がいるわけじゃん?」
「あ?」
荒んだ返事を投げるミマに対して、向こうの方を指差してみせる。指の先には、飽きずに望遠鏡を覗いてはしゃぐピンク玉の姿。
「コラル? が、どうしたんだよ」
「お前。あいつの親愛度、一切上げてないだろ」
「……っ」
図星を刺されたようにミマが顔を歪めた。やっぱりな。今までの態度からしても、ミマがコラルを攻略してるはずないと踏んでみたんだが、どうやら当たりだったらしい。
「なのにあんなに一途にお前を慕ってるわけですよ。泣ける話だと思わん? 数字じゃ計れない愛ですよ、これは」
「……迷惑な話だよ。じゃあ課金石食うのやめろって」
「そ、そう言ってやるなよなー。それもこれも含めてあいつの人生っていうか、生き様なんだからさぁ」
「……ふん」
椅子の上で足を組み直し、ミマは軽くため息をついた。
「不覚だな。まさかお前みたいなクソガキに、人生がどうとか説教されるなんて思わなかった」
「ク、クソガキ……ってかお前いくつなんだよマジで」
「前世の年齢なんて、今の僕に関係なくない?」
「それはそうだけど……」
しれっとうそぶきながらも、ミマの視線はコラルに向いたままだ。さっきまでの動揺はもう見えない。こういう立ち直りの早さは、呆れるような尊敬できるような。
1
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
強制悪役令息と4人の聖騎士ー乙女ハーレムエンドー
チョコミント
BL
落ちこぼれ魔法使いと4人の聖騎士とのハーレム物語が始まる。
生まれてから病院から出た事がない少年は生涯を終えた。
生まれ変わったら人並みの幸せを夢見て…
そして生前友人にもらってやっていた乙女ゲームの悪役双子の兄に転生していた。
死亡フラグはハーレムエンドだけだし悪い事をしなきゃ大丈夫だと思っていた。
まさか無意識に悪事を誘発してしまう強制悪役の呪いにかかっているなんて…
それになんでヒロインの個性である共魔術が使えるんですか?
魔力階級が全てを決める魔法の世界で4人の攻略キャラクターである最上級魔法使いの聖戦士達にポンコツ魔法使いが愛されています。
「俺なんてほっといてヒロインに構ってあげてください」
執着溺愛騎士達からは逃げられない。
性描写ページには※があります。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる