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144・陽射しに紛れ込ませるように

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 目の前に落ちた前髪の間から、ちらりとジルコンの瞳を見やる。

「……なんかさー。俺今から恥ずかしいこと言うんで、半分聞き流すつもりで聞いてほしいんすけど」
「ほう?」
「俺さ。全身全霊をかけて何かに取り組むとか、他人と仲良くするために頑張るとか、やった努力がやっただけ返ってくるとか、そういう経験って、今まで生きてきた中で一回もなかったのよ。こっちに来てからのが全部で、どれもこれも初めてのことでさ」
「ふむ」
「だから……その。キラキラとかイケメンハーレムとかそんなん以前に、このゲームが……この世界が、今、けっこう好きで。……大事だなーって、思ってんすよ。うん」
「……なるほど」
「うあ、恥ずかしいなやっぱこれ思ってた以上に。まーつーわけで単純に、好きなものに嫌われるのは悲しいし、好きなものを好きなやつ同士なら、できるだけ仲良くしたいなって、仲良くなれるかなって、思ってたりするんよね。あーでもミマっていわゆる同担拒否っぽいしなー、やっぱ単純か? そんな上手くいかないか、普通?」
「いや」

 ふっと笑ったジルコンが、重ねた手に視線を落とす。薄く灯った魔力の光はもうずいぶんと彼に馴染んで、代わりに窓から差し込む朝日が、無骨な手の輪郭をほの白く透かしている。

「お前のそういうところが、俺は好きだ」
「…………へ?」
「ああ、傷も塞がってきたな。そろそろ演習場へ向かう頃合いだ」
「お……ぁ、うん……?」

 ジルコンがすっと手を離した。言葉の意味がうまく飲み込めないまま、促されて俺も立ち上がる。今なにかすごいセリフを聞かされた気がする。素直に受け取ればそういう意味にしか取れないけど、あのジルコンが素直にそんなこと言うか? てか、もしそういう意味だとしたら、なんでこいつこんな平気な顔してんの? なんかこう、持って回った皮肉とかじゃないのか? いや、でも……

「何をしている。ここは片付けるぞ、さっさと支度を始めろ」
「あ、ハイ……うん、はい」

 まったくもって普段通りの態度を崩さないジルコンに、片手でしっしっと追い出されながら。
 混迷を極めた俺の思考は、いつも通りの弱腰なゴールに辿り着こうとしていた。
 ──保留で。



 んなわけで。
 ジルコンのトリックフラワーに対しては逃げ道バクシンの選択肢を取ってしまった俺だが、目下の課題、翼人族との会談の日は刻一刻と間近に迫っている。
 期限まで、あと数日。じりじりと相手の出方を予測するだけの日々の中、俺は俺に今できるひとつの妙案を思いついた。
 つっても実は、根っから俺の案ってわけじゃない。発想の源は、ミマ。もちろんミマが俺に相談を持ちかけるなんて天地がひっくり返ってもあるはずないので、ミマはミマでも俺が勝手に覗き見たミマだ。俺が監禁されてる間に、ミマがジルコンに提案していたピクニック。このところの色々で有耶無耶になってしまっていたそれを、ちょっとだけ発展させて開催しようというのだ。
 人の心を結束させ、絆を深める幻の儀式。前世の俺にはとんと縁がなかった、仮に誘われたとしても恐れおののいて近寄れもしなかっただろう禁足の宴。そんなものを今から俺は始めようとしている。よりにもよって、この俺が。

 すなわち、今後に向けた耀燈騎士団決起集会兼親睦会。
 ──お花見BBQである。
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