転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ！

１３９・あんたん死すべし慈悲はない

　陽当たりのいい食堂には、朝の爽やかな日差しが大窓から差し込んでいる。こんな気持ちのいい朝っぱらから俺は、何が悲しくてミマと直接対決なんかしなきゃならないんだ。なんて、心の中で愚痴を言ってもしょうがない。
　ジルコンの背中が見えなくなった後、少しして。
　あらかた食べ終わった朝食を前に、無表情のミマが再び口を開いた。

「……ずいぶん、都合のいい展開してるよね」
「え？」
「君にとってだよ。さらわれてフェードアウトするだけのはずだった怪鳥が、アプデで攻略キャラに化けるなんてさ」
「や、まあ、それは、運営のテコ入れがいい方に響いたっつーか、でもこれはこれで俺にとっては色々と大変っつーか」
「今までだってそうだ。親愛度が低いはずのキャラに肩入れされたり、イベントの本筋が捻じ曲げられたり、まるで君の方が真の主人公だったんじゃないかって思うようなことばかり。リアルだったら炎上してるよ。運営の贔屓だ、寵愛だってね」

　俺のごにょごにょした言い分は、ミマにはまるで聞こえていないようだ。そこまで言ったところで視線を窓の外に移し、ぽつりと呟く。

「なんでなんだよ」

　手元のフォークをぐっと握り締めたミマに、俺の内心に緊張が走る。に、刃傷沙汰だけは勘弁な？

「ずるいだろ、こんなの」
「え？」
「サービス開始当初からプレイし続けて、毎回天井行くレベルで重課金して、ずっとコンテンツを支えてきた、宝石騎士が人生の全てだった僕をよそに、無課金で、ニワカで、DD誰でも大好きミーハー野郎のお前が優遇されるなんて」
「う、ぐ」
「お前だって他人事なら理不尽だって思うだろ？　課金のことは置いとくとしても、こんなキャラ愛も、コンテンツへの思い入れもないニワカ野郎に、どうしてこんなに追い風が吹くんだ、ってさ」
「そ、それは……」

　確かにミマの主張には、オタクとして反論できないものがある。無課金だしキャラのこともよく知らないけど無料単発でダイアちゃんSSR引いちゃいました～なんて、SNSとかで見せびらかされたら俺だって腹は立つ。俺は重課金と呼べるほどの課金はしたことないけど、自分が天井まで課金してたならきっとなおさらだろう。
　それでも引いた側の立場から言わせてもらえば、別に悪意があってやってるわけじゃないのだ。無料単発だって運営の施策だし、それで高レアを引けたらもちろん嬉しい。誰かに自慢したくなるのは当然の心理だ。それに、偶然の出会いからそのキャラ自体を好きになることだってある。根本的なことを言えば今どきのソシャゲには、ガチャ結果をシェアするボタンまでついてるのだ。神引きを拡散するのはむしろ正しい使い方。後ろ暗いことなんて何もない。
　けど、ミマみたいに人生のすべてとまで言い切る人の前で、堂々とその理論を主張できるかっつったら……少なくとも俺には、できない。
　それはたぶん、善悪や正誤とは離れたところで。オタクとしての割り切れない性質、その仲間意識から来る共感のせいだ。