転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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133・星降る夜を漕ぐ

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「なんだろうな。そりゃ客観的に見ればめちゃくちゃなことやられてるし、俺だってあのクソババアって思ったことは一度や二度じゃないけど……うーん」
「……恨んだりは、していないのか」
「恨む……うーん、どうだろ。わかんねえけど、とりあえず生まれてから十数年は一緒に生きてた相手だし、いいのも悪いのも微妙なのも全部含めて、いろんな思い出をいっぱい共有してたわけですよ。だからかもしんねーけど、そういう人だって部分も含めて、今でも別に俺は嫌いじゃないっつーか」
「嫌いじゃ、ない?」

 静かに相槌を打ってくれていたジルコンの声音が、ここに来て初めてわずかに歪む。

「あー、やっぱそうなりますよねー。だよなあ、普通」
「……率直に言わせてもらえば、理解はできないな。俗に、子は何があっても親を慕うしかないとか言うが、お前のもその類の刷り込みじゃないのか」
「うーん……どっちかって言うと、親だからとかなんとかじゃなくて、なんつーのかな、人間として? そばにいたら迷惑、や、そばにいたから迷惑だったけど、傍から見てりゃ面白いっつーか。あと何より、正直俺自身もある意味同類と言うか……どっかで間違ったら同じことやらかしそうなのは否定できない、ので」
「……クッ。それはそうだな」
「そこはちょっとくらいフォローしてくれてもよくない?」

 情けない声で突っ込んで、また空を見上げる。星と星の間に浮かぶ母ちゃんの顔は、相変わらずぼんやりうっすらしたイメージでしかない。薄情な息子だろうか。でもその点互い様だ。

「まあ……うん。個人的には、それでもいっかなーって」
「何がだ」
「世間的ないい悪いじゃなくて、好きとか嫌いとかの感情については、自分の思うまんまにしてても。理屈つける必要も別になくない? 的な考え、俺としては」
「……」

 また黙ってしまったジルコンと俺の間を、草むらから聞こえる虫の声が埋める。あーやっぱ、言わなくてもいいこと言っちまったかな。若干の後悔を覚え始めた、そのとき。

「……そうか。そうだな」

 頷いたジルコンの声は、なんだかやけに優しかった。俺の話だけじゃなくて、何かもっと大きなことに納得が行った、とでも言うような雰囲気だ。なんとなく、気持ちがすっと軽くなる。別に隠してたわけでも後ろ暗いことがあるんでもないのに、秘密をひとつ共有できたみたいな気分だ。
 あるいは俺は、嬉しいのかもしれない。ジルコンにわかってもらえたのが。人に、それも……俺自身、なんだかんだ言って大切だなって思えるようになった相手に、自分をちょっとだけ理解してもらえたってことが。
 ジルコンの腕が、手綱を握ったまま俺を包む。後ろから抱きしめられているみたいな体勢で、白馬に乗った俺たちはゆっくりと夜を往く。
 やがて街道の先に、街灯りの城下町が見えてきた頃。

「本当に、面白い男だ」

 俺の頭上でジルコンが、ほんのかすかな声で呟いた。
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