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125・嘲・おぼえていますか

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 俺の混乱とアメティスタのユルいしゃべりをよそに、ジルコンは警戒をまったく緩めようとしない。当たり前だ。当たり前だけど俺としては、なんかこの状況はよろしくない気がする。アメティスタの言葉に乗っかるみたいでアレだけど、だって二人は、仲間なのだ。仲間同士が争うなんてそんな悲しいことないですわ、って。どこの聖女キャラだよって感じのクサい言い回しだけど、でも、実際、そうなのだ。

「あの……えっと、ジルコン!」
「なんだ」
「えーっと、とりあえず、俺は何もされてない。いや誘拐はされたんだけど、手荒なこととかエッチなイベントとかは何一つ起こらなかったって言うか」
「は?」

 手は剣の柄に置いたまま、ジルコンはちらりと俺を見る。一瞬だけ向けられた呆れた視線が、痛くもあり懐かしくもあり。いやいや、こんなとこで感慨にふけってる場合じゃない。

「あ、そう、預言! 預言があったんだよ、俺がピンチだって! な、アメティスタ!」
「んー? そうだったっけぇ?」
「おいちょっと!!」
「灯士くんに懸想した哀れな僕が、彼を我が物にせんと監禁事件を起こしちゃいました。とか言ってみたらどうする、ジルくん? くふふぅ♪」
「はあぁ!?」

 挑発めいた物言いに、ジルコンの眉間に深いしわが刻まれる。柄を握る手にも力がこもり、今にも剣が抜き放たれそうだ。一触即発! なんでそういうことするの!

「預言、だと?」

 ジルコンは不快感を丸出しにしながらも、一応は俺の言葉を拾ってくれたようだ。

「お前の戯言に取り合うつもりはないが、預言となれば聞き捨てはならんな。言ってみろ」
「えー? 信じてくれないのぉ? アメにゃんかなしー」
「黙れ。言え」
「どっちぃ? まぁいいや、預言? えーっとねぇ」

 全然悲しくなさそうに言ってから、アメティスタは朗々と詠じ始める。さっきまでの軽さとは打って変わった、重厚で深遠な預言の言葉を。

「──昏き翼が、天に満つ。
 太陽の帳は剥ぎ取られ、舵なき小舟は夜波に呑まれるばかり。
 黄銅の耀燈は輝きを喪い、遂には地に墜ちて砕け散るだろう。
 だが。
 ひとつの灯がただひとつの灯に成り果て、総べての輝石を宿して燃え上がるとき。
 夜をかき崩す猛き陽は、今一度昇って夜を照らすだろう──」
「……なるほど」

 ジルコンは苦々しい顔で吐き捨てた。改めて聞き直した俺の背にも、ゾクリと寒いものが走る。初めて聞かされた時には突然のポエム調に頭がついていかなかったのと、誘拐されたてのパニックもあってあんまり頭に入ってなかった。でもこうしてじっくり聞いてみると、確かにこの預言は俺のピンチを歌っているみたいだ。黄銅の耀燈、ってのが俺のことなら、地に墜ちて砕けたあとに残るただひとつの灯ってのが、つまりミマか。問題はこの、昏き翼ってやつだけど──

「あっ……」

 唐突に、記憶の底から蘇る。ミマが初めて本性を現したときに、俺に向かって投げたセリフが。
 
──主人公じぶんと騎士様たちの他に、主人公の恋路を邪魔するライバルがいるんだ。
──ま、あんまり不評だったもんだから、途中でそいつ怪鳥にさらわれて出てこなくなるんだけど──

「あぇええ……!?」

 思わず頭を抱えてうめく。昏き翼、って……もしかして、そういうこと!?
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