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107・戦い終わって

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 かくして。
 魔犬皇帝の呪いは打ち砕かれ、闘技場には平和が訪れた。
 だが。
 預言に詠われた言葉の通り、闇は未だ夜の中にその身を潜め、捲土重来の一手を狙い澄ましている。
 我々は恒久の平和を手にできたのか。それともこれが束の間の休息に過ぎないのか。今はまだ、わからない。
 確かなことは、ひとつだけ──
 この国には、闇を照らす耀燈ランプがふたつ在る。



「……なぁるほどねえ」

 激闘を演じた闘技場から、ようやく寮の自室に戻って。
 帰り道でもらった号外を、ソファに寝転がりながら俺は読んでいた。試合終了からみんなが帰るまでのあの短時間で、よくもまあこんなふうに綺麗な記事にまとめられるもんだ。続編の可能性を匂わせているのも、またトパシオらしいと言うかなんと言うか。けど地味に、闇を照らすランプとやらにしっかり俺もカウントされてるのは、結構嬉しかったり。
 ま、なんだかんだでうまく収まったもんだと思う。今後はジルコン……ディアマンテ殿下の監視の目もあるし、何よりあいつの銭ゲバ部分こと『魔犬皇帝』は、衆目監視の中でばっちり浄化されてしまった。今後はどこぞの炎上系みたいな、過激なことはだんだんやりづらくなっていくだろう。ざまあ……じゃなかった、よきかなよきかな。
 なんて。悦に浸っている俺を引き戻すかのように。不意に、ノックの音が部屋に響いた。

「はい?」
「……失礼して、よろしいでしょうか」
「ジルコン? どぞー」
「……」

 ドアを開いて入ってきたジルコンは、まず俺に向かって深々と頭を下げる。なんだなんだ。いつもの執事モード、にしては表情が妙に深刻だ。え、またしても俺なんかやっちゃいました?
 思わずソファから起き上がる。ジルコンはほんのわずかに目を細めながら、俺の全身を見回している。

「……お体は、大事ありませんか」
「体? ああ、全然ぜんぜん、ほら」

 ラジオ体操みたく手足を曲げ伸ばして見せる。念のため闘技場の医務室でも見てもらったけれど、特に重大そうなことは言われなかった。試合見てテンション上がったらしい医者が、ミマにばっか話しかけてたのが気になるっちゃ気になるけど。まあ、筋肉痛にも似た痛みは残っているものの、この程度ならルビーノとの演習の方がよっぽど辛いくらいだ。
 少し安心したように眉間をほどいて、ジルコンはふっと息を吐いた。ドアの脇に姿勢よく立ち尽くしたまま、俺のいるソファには近づこうとしない。

「何よりでございます。……本当に、何よりです」
「う、うん。え、なんか、どしたん」
「此度の私の失態。我が守護すべき灯士様に害を為したこと、心よりお詫び申し上げます」
「え……」

 硬い口調での謝罪に、一瞬、返す言葉を失った。流れる沈黙の間も、ジルコンは頭を上げようとしない。な、なんだよ。なんでそんなこの世の終わりみたいな顔してんだよ、お前。
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