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91・輝きの雌雄

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 宵闇に、高らかな鐘の音が鳴り渡る。
 同時に闘技場の明かりが一斉に消えた。ざわついていた客席が、引き波のように静まり返っていく。完全な静寂。一拍置いて、場内に涼やかな声が響いた。

『新時代。
 宝石の輝きはあまねく大地に満ち溢れ、人は富み、獣は殖え、草花はより鮮やかに生命を咲き誇った。
 闇は、照らされつつある。
 人は温かな耀燈ランプのもとに、静けき安らぎの夜を取り戻しつつある。
 だが──
 遠く瞬く夜空の星が、光の等級で序列づけられるように。悠久を経た妙なる貴石が、カラットの大小で値を分けるように。
 いずれまばゆき耀燈ランプの炎が、その輝きに雌雄を決するとしたら──
 それは、今夜!
 絆を持ち寄る耀燈ランプたちの集う、この戦いを置いて他にない!!』

 ──おおおおおっ!!

 魔法で増幅されたトパシオの口上に、満員の闘技場が地面ごと揺れる。観客の熱狂が、歓声が、薄暗い選手入場口の空気までもをびりびりと震わせる。
 渡されたランプの持ち手を、すがるように両手で握りしめた。いくつものアクアマリンで飾り立てられた、水色の炎を宿すランプは、しかし俺の手には何の反応も示さない。当たり前だ。外見こそそれらしく仕立ててあるものの、このランプはシェードを水色に塗っただけの普通のランプ。特別な力なんて何もないし、それどころか散りばめたアクアマリンには、持つ者の魔力を吸い取る呪符まで仕込まれているらしい。対戦中に魔法を使っても、深刻なケガを負わせないための安全装置だそうだ。放棄したら失格になることも事前に言い含められている。正直そんな装置なんてなくても、俺がまともな魔法を使える気はしないけど。

「いよいよ……ですね」

 剣の柄に触れながらランジンが呟く。その剣ももちろん真剣ではなく、銀メッキを施しただけの木剣だ。とは言え重さとサイズ感はそれなりで、演習中に持たせてもらったけど、俺の腕力じゃ振り抜いて止めることすら難しかった。本気でぶん殴ったら骨の一本ぐらいは普通に折れるだろう。向こうが使うものにしたってそれは同じことだ。
 声もなく頷いた俺の顔を、ランジンが横目でちらりと見やる。

「緊張、してますか」
「そりゃ……してるよ、ガッチガチだよ。お前は平気なん?」
「どうでしょう。おれも……今日に限っては、そうですね、少しだけ」
「だよなー……」

 対面の、四角い入場口に視線を送る。ミマとジルコンはそこにいるはずだ。明暗差で中は見えないけど、なんとなく奥のあたりから、敵意のこもった気配が漂ってきている。……ような気がする。うう。

「とにかく、頑張りましょう。おれが……この身に代えても、あなたを守りますから」
「お、おおぅ……」

 さらりと言われたイケメン台詞にちょっとたじろいだ。思えばゲーム開始直後あたりは、みんなも俺にこういうこと言ってくれてたっけ。また聞けて嬉しいような、自分の現状を思い知らされて悲しいような。ただ……手放しにドキーン! できなかったのは、たぶん、今抱えている不安と憂鬱が重すぎるせいだろう。
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