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80・一難去ったか去らないか
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「ああ、それよりも、肝心なことをお話してませんでしたね」
「肝心なこと?」
「おれとあなたが、コンビで闘技場に出るって話です」
「あーそう、それ! 何なのそれ、どういうことなん?」
食いつく俺の隣のベンチに、ランジンは再び腰を下ろした。
「えっと……まず、おれの出ている闘技場には、シングルマッチとタッグマッチ、二つの試合形式があるんです。おれは普段シングルにしか出ないんですが、さっきコラルさまから、あなたが試合に出たがっていると聞かされて……それが」
「俺とのタッグマッチ、ってことか。でもなんでコラルがそんなこと」
「わかりません。おれとしては、その……おれとの親交を深めたいあまりに、あなたが無理に強いたものだと思い込んでいたんですが……」
「あー……いや、違うよ、違うけど」
視線を逸らして頬を掻く。もちろん俺は関与なんかしてないが、それでもなんとなくわかった。たぶん俺の意志とは別に、デフォルトのストーリーがそういうことになっているのだ。なんせ俺は主人公=ミマにとってのお邪魔ライバル、ミマの視点からすれば都合の悪いことは全部俺のせい。実情がどうであれとりあえずそういうことにしておけば、騎士サマたちとのイベントもスムーズに進むってわけだ。ちくしょう。
「まあ、それはともかく。んで、お前はそれに乗り気じゃない、と」
「はい。命のやりとりまでは行かないとは言え、何が起こるかもわからない真剣勝負ですから、その……まだきちんと信頼関係を築けていない相手と組むのは、さすがに……」
「あー、ハイ。なるほどねー……なるほどね」
ごもっとも。一理ある。でもはっきり言われてしまうと若干切なくなるのは否めない。ミマとの会話でも思ったけど、そこまで嫌がらなくてもいいじゃないの。沸き上がる悲しい笑みをぐっと押さえて、ランジンに向けた表情を緩める。
「ま、じゃ、ランジンが無理なら全然、そんなの断ってくれていいよ。つーかぶっちゃけ俺も困るよ、俺そんな人前で戦える気ぃしねーもん。人質だなんだって話も、ちゃんと誤解だってわかったんだしさ」
「そう、ですね。一度トパシオに相談してみます。あの……本当に、色々とご迷惑をおかけして、すみませんでした」
「いやいや。ランジンがわかってくれたなら、全然」
深く頭を下げたランジンに、俺は余裕ぶって両手を振った。懐の深いお兄さんと思ってくれたら万々歳だ、とかちょいとせせこましいことを考えつつ。
その日のごたごたは、そんな感じで幕を下ろした。その他にいつもと違うことがあったとすれば、ジルコンの出してきた夕食が作り置きのコールドポークとピクルスだったことぐらいだ。まージルコンもこれで王子サマの身、忙しけりゃそういうこともあるだろう。つーことでそこまでが木曜日。
更なる事件が起こったのは、次の日──演習ターンの締めくくり、金曜日の夕方のことだった。
「肝心なこと?」
「おれとあなたが、コンビで闘技場に出るって話です」
「あーそう、それ! 何なのそれ、どういうことなん?」
食いつく俺の隣のベンチに、ランジンは再び腰を下ろした。
「えっと……まず、おれの出ている闘技場には、シングルマッチとタッグマッチ、二つの試合形式があるんです。おれは普段シングルにしか出ないんですが、さっきコラルさまから、あなたが試合に出たがっていると聞かされて……それが」
「俺とのタッグマッチ、ってことか。でもなんでコラルがそんなこと」
「わかりません。おれとしては、その……おれとの親交を深めたいあまりに、あなたが無理に強いたものだと思い込んでいたんですが……」
「あー……いや、違うよ、違うけど」
視線を逸らして頬を掻く。もちろん俺は関与なんかしてないが、それでもなんとなくわかった。たぶん俺の意志とは別に、デフォルトのストーリーがそういうことになっているのだ。なんせ俺は主人公=ミマにとってのお邪魔ライバル、ミマの視点からすれば都合の悪いことは全部俺のせい。実情がどうであれとりあえずそういうことにしておけば、騎士サマたちとのイベントもスムーズに進むってわけだ。ちくしょう。
「まあ、それはともかく。んで、お前はそれに乗り気じゃない、と」
「はい。命のやりとりまでは行かないとは言え、何が起こるかもわからない真剣勝負ですから、その……まだきちんと信頼関係を築けていない相手と組むのは、さすがに……」
「あー、ハイ。なるほどねー……なるほどね」
ごもっとも。一理ある。でもはっきり言われてしまうと若干切なくなるのは否めない。ミマとの会話でも思ったけど、そこまで嫌がらなくてもいいじゃないの。沸き上がる悲しい笑みをぐっと押さえて、ランジンに向けた表情を緩める。
「ま、じゃ、ランジンが無理なら全然、そんなの断ってくれていいよ。つーかぶっちゃけ俺も困るよ、俺そんな人前で戦える気ぃしねーもん。人質だなんだって話も、ちゃんと誤解だってわかったんだしさ」
「そう、ですね。一度トパシオに相談してみます。あの……本当に、色々とご迷惑をおかけして、すみませんでした」
「いやいや。ランジンがわかってくれたなら、全然」
深く頭を下げたランジンに、俺は余裕ぶって両手を振った。懐の深いお兄さんと思ってくれたら万々歳だ、とかちょいとせせこましいことを考えつつ。
その日のごたごたは、そんな感じで幕を下ろした。その他にいつもと違うことがあったとすれば、ジルコンの出してきた夕食が作り置きのコールドポークとピクルスだったことぐらいだ。まージルコンもこれで王子サマの身、忙しけりゃそういうこともあるだろう。つーことでそこまでが木曜日。
更なる事件が起こったのは、次の日──演習ターンの締めくくり、金曜日の夕方のことだった。
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