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75・ダンガンピンク
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「トパシオの性格面についてはひとまず置いておいて……とにかく、おれが彼に感謝してることだけは確かです。彼の存在がなければ、おれには到底、あんな額のお金なんて集められなかった」
「あ、それ。なあ、そのお金って何? 稼がなきゃいけない事情があるってのは、トパシオも言ってたけど」
「それは……」
海の色をした青碧の瞳が、ちらりと俺に視線を移す。反射的にドキッとした直後、ランジンは小さくため息を吐いた。
「……あなたに話すのは、ちょっと……」
「えっ」
「ごめんなさい、こんなことを言ってしまうのは心苦しいんですが……おれの中にまだちょっと、あなたを信頼しきれてない部分があって」
「えっ!?」
思わず声が跳ね上がる。しまった、これ絶対親愛度足りてねえ! うわ嘘、このイベント一回失敗したら終わりなやつですか!?
「すみません、やめますね、こんな暗い話。それじゃ、今日のところは……」
「あっ待って! ちょっと待ってワンモアチャンス!!」
勝手に話をたたみにかかるランジンに、焦って駆け寄ろうとした刹那。中庭を囲む植え込みの陰から、何かが飛び出してくるのがちらりと見えた。
「ちょああああッ!! ミマサマばんざあああーいッッ!!!」
「へっ? うごァッ!?」
視界に飛び込んだピンクの物体が、俺の顎下に直撃する。脳が揺れる。世界がぐるりと回る。ぼやけた景色がモノクロになって、ふーっと意識が消えていく。
「だっ、大丈夫ですか、チュー太郎さん!? と……コ、コラルさま!? どうして……!?」
慌てふためくランジンの声が、どこか遠くの方で消えていった。
「……んな! なんてひどい……ランジン様は、それでいいんですか!?」
聞き覚えのある甲高い声が、フェードインで耳に入ってくる。あれ、誰だ。この声は──ミマ?
ぼやける視界に、二、三度まばたきをくり返す。中庭の面積に切り取られた、青く高い空が目に映った。
「……仕方ない、です。コラルさまが人質に取られている以上、おれには彼に歯向かうすべなんてありません」
「でも!!」
どうやら俺は芝生に寝そべっているらしい。寝そべるというか、倒れているというか。まだ頭がくらくらしている。手足を大の字に伸ばした姿勢のままに、何やら言い合う声がする方へ目を向けた。
話していたのはやっぱり、ミマとランジンだった。その内のミマが、一瞬だけ俺に視線を移し──はっきりと、わざとらしい説明口調で言い放つ。
「ランジン様がハイフェン族の血を引いていて、それを知ったチュー君に脅迫されてるからって! チュー君とランジン様がコンビで闘技場に出なきゃいけなくなるなんて、そんなのどうかしてます!!」
「……は!?」
一気に目が覚めた。待て待て待て、なんだその話!? がばりと上体を起こす。いつの間にか俺の胸元に座っていたコラルが、ころんと地面に転げ落ちる。
ピンク色したシンプルな顔面がにやりと笑うのを、俺は視界の端で確かに捉えた。
「あ、それ。なあ、そのお金って何? 稼がなきゃいけない事情があるってのは、トパシオも言ってたけど」
「それは……」
海の色をした青碧の瞳が、ちらりと俺に視線を移す。反射的にドキッとした直後、ランジンは小さくため息を吐いた。
「……あなたに話すのは、ちょっと……」
「えっ」
「ごめんなさい、こんなことを言ってしまうのは心苦しいんですが……おれの中にまだちょっと、あなたを信頼しきれてない部分があって」
「えっ!?」
思わず声が跳ね上がる。しまった、これ絶対親愛度足りてねえ! うわ嘘、このイベント一回失敗したら終わりなやつですか!?
「すみません、やめますね、こんな暗い話。それじゃ、今日のところは……」
「あっ待って! ちょっと待ってワンモアチャンス!!」
勝手に話をたたみにかかるランジンに、焦って駆け寄ろうとした刹那。中庭を囲む植え込みの陰から、何かが飛び出してくるのがちらりと見えた。
「ちょああああッ!! ミマサマばんざあああーいッッ!!!」
「へっ? うごァッ!?」
視界に飛び込んだピンクの物体が、俺の顎下に直撃する。脳が揺れる。世界がぐるりと回る。ぼやけた景色がモノクロになって、ふーっと意識が消えていく。
「だっ、大丈夫ですか、チュー太郎さん!? と……コ、コラルさま!? どうして……!?」
慌てふためくランジンの声が、どこか遠くの方で消えていった。
「……んな! なんてひどい……ランジン様は、それでいいんですか!?」
聞き覚えのある甲高い声が、フェードインで耳に入ってくる。あれ、誰だ。この声は──ミマ?
ぼやける視界に、二、三度まばたきをくり返す。中庭の面積に切り取られた、青く高い空が目に映った。
「……仕方ない、です。コラルさまが人質に取られている以上、おれには彼に歯向かうすべなんてありません」
「でも!!」
どうやら俺は芝生に寝そべっているらしい。寝そべるというか、倒れているというか。まだ頭がくらくらしている。手足を大の字に伸ばした姿勢のままに、何やら言い合う声がする方へ目を向けた。
話していたのはやっぱり、ミマとランジンだった。その内のミマが、一瞬だけ俺に視線を移し──はっきりと、わざとらしい説明口調で言い放つ。
「ランジン様がハイフェン族の血を引いていて、それを知ったチュー君に脅迫されてるからって! チュー君とランジン様がコンビで闘技場に出なきゃいけなくなるなんて、そんなのどうかしてます!!」
「……は!?」
一気に目が覚めた。待て待て待て、なんだその話!? がばりと上体を起こす。いつの間にか俺の胸元に座っていたコラルが、ころんと地面に転げ落ちる。
ピンク色したシンプルな顔面がにやりと笑うのを、俺は視界の端で確かに捉えた。
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