上 下
69 / 200

67・金剛石強強剣

しおりを挟む
 両手を頭の後ろに回し、前を行くニヤニヤと眺める。行きはあれだけ怖かった山道だけど、今はそれほどでもない。下りの方がより怖いってのもあるんだろうけど。

「やーマジ、いいこと聞いちゃったわー。素直じゃないですにゃージル君は」
「……ハフノンか。いらんことをいらん奴に吹き込みやがって」
「いらん奴って何よ! その言い方はお前、ツンデレにしてもさすがに傷つきますわよ?」
「喜べ、ツンデレのつもりは微塵も無い」
「ぐぬう……!」

 それもツンデレの一環じゃねーのー? ……なんて茶化すには、今の俺にはまだ経験値が足りない。つーかガチで嫌がられてる可能性もないではないし。こういうとき空気読めないで失敗するんだ、俺は。自覚はあるんだ。自重自重。

 崖沿いの道から浜辺へと目を落とす。来るとき見えなかった浜辺には、今は縞模様に昆布が並べられていて、さっきまで一緒に作業していた人たちが、辺りに座り込んで休憩しているのが見えた。中のひとり、顔まではわからないが髪色からしてたぶんハフノンさんが、俺たちに気づいて手を振ってくれる。俺も軽く手を振り返してから、立ち止まりもしないジルコンの後を追いかけた。

「……なんかさー、ジルコンって、こういうとこで育ったんだな。あのお城じゃなくて」
「そうだ。なんだ、意外だったか」
「意外……っちゃ意外だけど、納得っちゃ納得かな」
「ほう?」
「いろいろ腑に落ちたっつーかさ。仲間を大事にするとことか、あと……まあ、いろいろ」
「微妙に含みのある言い方だな」
「いやいやいや、ソンナコトナイヨ」
「まあいい。追求はしないでおいてやる」

 頭に思い浮かんでいたこと……プライバシーがどうとか荒っぽいとこがどうとかは、本人に言ったら怒られるだろうから内緒にしておく。でも、それもこれも含めて今日の出来事は、言ってしまえば俺の、ジルコンに対する解像度をグン上げしてくれるイベントだった。楽しかった。それだけに──いや、だからこそ。

「……なんかちょっと、申し訳なくなってきちゃったな」

 自然とこぼれた小さな独り言を、ジルコンは耳ざとく聞きつける。

「それは、どういう意味だ」
「あ、いや、うーんと」
「言え。隠すな」
「いや、その……ハーレムとか、攻略とか、そういうのが」
「は?」
「なんか……ただのイケメンキラキラ王子様だと思ってたジルコンにも、これまで育ってきた場所があって、家族がいて、大事に思う時間があって……とかさ。そういうのを考えると、今さらだけどなんか、軽々しく攻略ーなんてのに罪悪感を覚えるって言うか、自分が恥ずかしくなってきちゃったって言うか……」
「……お前」

 振り返って足を止めたジルコンの顔を、俺はまっすぐ見られなかった。盛大にため息をつかれたことだけは、気配でわかったけど。

「本っ当に、今さらだな」
「ぐっ」
「だったらどうする。むざむざミマに機会を譲って、廃課金ハーレムを築かせるのか」
「そ、それは……! それは……嫌だけど」
「なら、お前がやるしかないだろう」

 ずい、と一歩、ジルコンが俺に近づく。相変わらずのキラキラが瞳に刺さる。思わず顔を背けた先ですら、光る海のキラキラが目に痛い。

「何度も言うが、気後れするな。そこでお前が退けば、損害を被るのは俺たちなんだぞ」
「う、うー……」
「それに前にも言ったが、ハーレム云々を言えるのは全員がお前に惚れてからの話だろう。今のうちから罪悪感なんて皮算用にも程がある。お前、本当に騎士団の全員が、他ならぬお前に心を寄せると思っているのか? 正気か?」
「しょ……す、少なくともシステム的には可能だろうがよー!」

 あんまりな言い草に抗議の声を上げると、ジルコンは満足そうな笑顔を見せた。

「ほう。多少は覇気が戻ったじゃないか。その意気だ」

 ……ああ、くそ。毎回これで言いくるめられてる気がすんだよなあ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...