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50・気後れするな
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ま、そんなこんなで、泣いても笑っても討伐の日は再びやってくる。
土曜日。ワープで向かった城門前には、先週と同じくジルコン以外の騎士六人、そしてミマがずらりと勢揃いしている。俺に向けたり向けなかったりする視線の色も、おおむね先週と同じだ。ただ一人を除いて。
「こんにちは、チュー太郎」
「お、スマラクト」
広場のオブジェ前から、街路樹の隣から、方々からの無視と冷たい目線が俺に刺さる中でただ一人。緑の軍服に、いつもとちょっと違う宝石つきの眼鏡をかけたスマラクトが、俺に向かって声をかけてきた。
「二回目の討伐ですね。どうですか、少しは慣れてきましたか?」
「あ、あはは、どうだろ……」
笑ってぽりぽりと頬をかく。二回目っつったって経験値的には実質ゼロみたいなもんだよ。だって前回はお前らにガン無視されてたもん……なんて恨み言は、さすがに胸にしまっておく。
「まあ、不安はあって当然でしょうが、お互い精一杯やれることをやっていきましょう。よろしくお願いしますね」
「う、うん。よろしく!」
当たり前の、当たり障りのない一言に、しかし俺の胸は感動でうち震えている。う、嬉しい。久しぶりのまともなコミュニケーションだ。命に代えても守るとか言ってくれてた最初と比べるとだいぶ後退したけど、それでもいい。普通に人として扱ってもらえるだけで十分だ。
「スマラクト。出陣の前にちょっと、回復薬の魔力補正を調節してもらえる?」
「あ、はい。ではね、チュー太郎」
「おー! ありがとな、わざわざ!」
スマラクトはトパシオに呼ばれて去っていく。胸があったかい。顔がにやける。上がった気分のおもむくまま、隣に立つジルコンを肘でつっついた。
「やー、嬉しいなー、ちゃんとよろしくって言ってもらえちった」
「目標が低いことで何よりだ」
「んだよー、嫌味な奴ー。てか考えてみりゃお前さー、こんだけ色々わかってるくせに、前回全然俺に優しくしてくんなかったんだよなー」
「あの時点の俺には、そんな義理もなかったからな」
「うわ、引くわー。人の心無いんか、この冷血野郎……っ」
ねちねち責める俺の背に、不意にゾクリと冷たいものが走った。振り向けば、騎士サマたちの輪の合間を縫って、ミマが俺に凍り付くような視線を投げかけている。
「あ……はは」
顔の筋肉が反射的に、へらっと情けない笑みを作った。突かれりゃ丸まるダンゴムシとしての処世術。だが次の瞬間、俺の背にべちんと衝撃が走る。
「って! ……あ」
「……」
背中を思い切り叩いたのは、ジルコンの手のひらだ。ミマの前だからか執事モードに入った彼は、表情だけは柔和なすまし顔を作っている。けれどその真意は、俺にだけはわかる。今週初めに言われたのと同じこと。
──気後れするな。
「……っ」
まぶたを閉じて軽く頭を振った。再び開いた目で、ミマの視線を真正面から受け止める。
そうだ。負けてたまるか、俺。今はまだ遠いチヤホヤハーレム計画のためにも!
土曜日。ワープで向かった城門前には、先週と同じくジルコン以外の騎士六人、そしてミマがずらりと勢揃いしている。俺に向けたり向けなかったりする視線の色も、おおむね先週と同じだ。ただ一人を除いて。
「こんにちは、チュー太郎」
「お、スマラクト」
広場のオブジェ前から、街路樹の隣から、方々からの無視と冷たい目線が俺に刺さる中でただ一人。緑の軍服に、いつもとちょっと違う宝石つきの眼鏡をかけたスマラクトが、俺に向かって声をかけてきた。
「二回目の討伐ですね。どうですか、少しは慣れてきましたか?」
「あ、あはは、どうだろ……」
笑ってぽりぽりと頬をかく。二回目っつったって経験値的には実質ゼロみたいなもんだよ。だって前回はお前らにガン無視されてたもん……なんて恨み言は、さすがに胸にしまっておく。
「まあ、不安はあって当然でしょうが、お互い精一杯やれることをやっていきましょう。よろしくお願いしますね」
「う、うん。よろしく!」
当たり前の、当たり障りのない一言に、しかし俺の胸は感動でうち震えている。う、嬉しい。久しぶりのまともなコミュニケーションだ。命に代えても守るとか言ってくれてた最初と比べるとだいぶ後退したけど、それでもいい。普通に人として扱ってもらえるだけで十分だ。
「スマラクト。出陣の前にちょっと、回復薬の魔力補正を調節してもらえる?」
「あ、はい。ではね、チュー太郎」
「おー! ありがとな、わざわざ!」
スマラクトはトパシオに呼ばれて去っていく。胸があったかい。顔がにやける。上がった気分のおもむくまま、隣に立つジルコンを肘でつっついた。
「やー、嬉しいなー、ちゃんとよろしくって言ってもらえちった」
「目標が低いことで何よりだ」
「んだよー、嫌味な奴ー。てか考えてみりゃお前さー、こんだけ色々わかってるくせに、前回全然俺に優しくしてくんなかったんだよなー」
「あの時点の俺には、そんな義理もなかったからな」
「うわ、引くわー。人の心無いんか、この冷血野郎……っ」
ねちねち責める俺の背に、不意にゾクリと冷たいものが走った。振り向けば、騎士サマたちの輪の合間を縫って、ミマが俺に凍り付くような視線を投げかけている。
「あ……はは」
顔の筋肉が反射的に、へらっと情けない笑みを作った。突かれりゃ丸まるダンゴムシとしての処世術。だが次の瞬間、俺の背にべちんと衝撃が走る。
「って! ……あ」
「……」
背中を思い切り叩いたのは、ジルコンの手のひらだ。ミマの前だからか執事モードに入った彼は、表情だけは柔和なすまし顔を作っている。けれどその真意は、俺にだけはわかる。今週初めに言われたのと同じこと。
──気後れするな。
「……っ」
まぶたを閉じて軽く頭を振った。再び開いた目で、ミマの視線を真正面から受け止める。
そうだ。負けてたまるか、俺。今はまだ遠いチヤホヤハーレム計画のためにも!
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