51 / 200
49・お野菜たっぷりマクロビディナー
しおりを挟む
「少し、不味いかもな」
「ん?」
いつも通りミマ不在の夕食の席で、椅子の斜め後ろに立つジルコンが唐突に呟いた。テーブルに並んだ夕食に目を向ける。メカジキのバターソテーと、揚げたレンコンが乗ったサラダと、ニンジンやブロッコリーがごろごろ入ったミネストローネ。いつもながら彩りも味も栄養面も完璧だ。不味いことなんかなんもなかったけど。
「いや、美味いけど?」
「阿呆か。俺の飯が美味いのは当たり前だ」
「わあ、自画自賛ー」
呆れた顔で言い切られてしまった。でも豪語するだけの実力はあるんだよな、こいつの場合。ムカつくわー。
「そうじゃない。明日からの話だ」
「あ、なーんだ。……え?」
「お前とスマラクトの親愛度が急激に上昇しているのは、当然ミマも気が付いているはずだ。何らかの手を打ってくるのは確実だろうな」
「うぇ……」
手にしたスプーンを取り落としかける。いや、あれは俺がちょっかいかけようとしたわけじゃなく、俺にとっても予想外の事態で……なんて言い訳、ミマには通用するわけもないだろう。
「やだなー……また親愛度塗り変えられちゃうのかよ」
「否定の余地はないな。事によれば向こうも恋愛イベントを進めてくるかもしれない。一進一退と言えばそれまでだが……ともかく明日の討伐に向けて、できる限りの気構えはしておけよ」
「ううう……」
唸り声を上げつつ、メカジキの切れ端を口に放り込む。食欲をそそるバターの香りが、なんだか急に重たい。数値を超えた想いの力とやらでどうにかできないんだろうか。無理だよなあ。課金アイテムがそんな曖昧なもんに負けたら俺だって怒るよ。返金騒動勃発不可避。
「気構え、ってのはつまり、こないだみたいにみんなにハブられるかもって話だよな」
「そうだな。そもそもスマラクト以外の親愛度は今も底辺のままだ。態度を変える理由もない」
「なんだよー……つーかさー、向こうの親愛度が上がったからって、俺との仲が下がんのおかしくない? なに、お前ら全員彼女できたとたん友達付き合い悪くなるタイプのソレですか?」
我ながら真っ当な俺のツッコミに、しかしジルコンはジト目で息を吐く。
「ハーレムがどうとか言ってた人間が何を抜かすか。お前ら灯士どもの親愛は、友情と呼ぶには邪すぎるだろうが」
「うっ……それ言われたらなんも言えねーけど。でも少なくとも俺はまだ、今はそんな下心見せてるつもりもないですけどー……」
ぶーたれながらもフォークを動かす手は止めない。あ、このレンコンうま。ドレッシングが醤油っぽい風味でイイネ。
「まあ、お前の言い分にも確かに一理はある。ゲームの仕様として俺たちは、親愛度の上下に従って生まれる好感もしくは嫌悪感に抗えない存在だからな」
「ええ……マジで呪いじゃん、そんなん……」
引くとともにちょっと同情してしまった。ハイスぺキラキラ騎士サマたち、実はかわいそうな生き物なのかもしれない。
「あー、でも、そしたら、俺がこんな冷たくされてるのって、つまりはこの世界における自然の摂理みたいなもんなんだな。俺がなんかやらかしたせいとか、ミマがなんか吹き込んだせいとか、そんなんじゃないんだな」
「そういうことだ」
「よかったぁ、いやマジそれは聞けてよかった」
ちょっとだけ心が軽くなる。俺の知らないとこでミマが俺の陰口叩いて、さらに周りみんなそれを信じてるみたいな仕様だったら、さすがの俺も心が折れてたよ。
「……あれ。そしたらつまり逆に、俺がミマの悪い噂を吹き込む余地はあるってことじゃね?」
「……お前……」
「じょ、冗談、冗談やがな」
片手を振ってごまかした。ジルコンは信じられないものを見る目で俺を見ている。な、なんだよ、マジで冗談だって。……やらないよ。マジで。
「ん?」
いつも通りミマ不在の夕食の席で、椅子の斜め後ろに立つジルコンが唐突に呟いた。テーブルに並んだ夕食に目を向ける。メカジキのバターソテーと、揚げたレンコンが乗ったサラダと、ニンジンやブロッコリーがごろごろ入ったミネストローネ。いつもながら彩りも味も栄養面も完璧だ。不味いことなんかなんもなかったけど。
「いや、美味いけど?」
「阿呆か。俺の飯が美味いのは当たり前だ」
「わあ、自画自賛ー」
呆れた顔で言い切られてしまった。でも豪語するだけの実力はあるんだよな、こいつの場合。ムカつくわー。
「そうじゃない。明日からの話だ」
「あ、なーんだ。……え?」
「お前とスマラクトの親愛度が急激に上昇しているのは、当然ミマも気が付いているはずだ。何らかの手を打ってくるのは確実だろうな」
「うぇ……」
手にしたスプーンを取り落としかける。いや、あれは俺がちょっかいかけようとしたわけじゃなく、俺にとっても予想外の事態で……なんて言い訳、ミマには通用するわけもないだろう。
「やだなー……また親愛度塗り変えられちゃうのかよ」
「否定の余地はないな。事によれば向こうも恋愛イベントを進めてくるかもしれない。一進一退と言えばそれまでだが……ともかく明日の討伐に向けて、できる限りの気構えはしておけよ」
「ううう……」
唸り声を上げつつ、メカジキの切れ端を口に放り込む。食欲をそそるバターの香りが、なんだか急に重たい。数値を超えた想いの力とやらでどうにかできないんだろうか。無理だよなあ。課金アイテムがそんな曖昧なもんに負けたら俺だって怒るよ。返金騒動勃発不可避。
「気構え、ってのはつまり、こないだみたいにみんなにハブられるかもって話だよな」
「そうだな。そもそもスマラクト以外の親愛度は今も底辺のままだ。態度を変える理由もない」
「なんだよー……つーかさー、向こうの親愛度が上がったからって、俺との仲が下がんのおかしくない? なに、お前ら全員彼女できたとたん友達付き合い悪くなるタイプのソレですか?」
我ながら真っ当な俺のツッコミに、しかしジルコンはジト目で息を吐く。
「ハーレムがどうとか言ってた人間が何を抜かすか。お前ら灯士どもの親愛は、友情と呼ぶには邪すぎるだろうが」
「うっ……それ言われたらなんも言えねーけど。でも少なくとも俺はまだ、今はそんな下心見せてるつもりもないですけどー……」
ぶーたれながらもフォークを動かす手は止めない。あ、このレンコンうま。ドレッシングが醤油っぽい風味でイイネ。
「まあ、お前の言い分にも確かに一理はある。ゲームの仕様として俺たちは、親愛度の上下に従って生まれる好感もしくは嫌悪感に抗えない存在だからな」
「ええ……マジで呪いじゃん、そんなん……」
引くとともにちょっと同情してしまった。ハイスぺキラキラ騎士サマたち、実はかわいそうな生き物なのかもしれない。
「あー、でも、そしたら、俺がこんな冷たくされてるのって、つまりはこの世界における自然の摂理みたいなもんなんだな。俺がなんかやらかしたせいとか、ミマがなんか吹き込んだせいとか、そんなんじゃないんだな」
「そういうことだ」
「よかったぁ、いやマジそれは聞けてよかった」
ちょっとだけ心が軽くなる。俺の知らないとこでミマが俺の陰口叩いて、さらに周りみんなそれを信じてるみたいな仕様だったら、さすがの俺も心が折れてたよ。
「……あれ。そしたらつまり逆に、俺がミマの悪い噂を吹き込む余地はあるってことじゃね?」
「……お前……」
「じょ、冗談、冗談やがな」
片手を振ってごまかした。ジルコンは信じられないものを見る目で俺を見ている。な、なんだよ、マジで冗談だって。……やらないよ。マジで。
2
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる