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44・ツンツンデレデレツンデレデレ

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「ま、そんなわけで、奴は自分のことを本気で取るに足らない存在だと考えている。当然、自分の基準で簡単なことは、他人にとっては殊更朝飯前だと思い込んでいる」
「め、めいわく……」
「幾度か話はしたのだがな。なにせ耀石騎士団の面々ときたら、どいつもこいつも我が強すぎて、人の話などまるで聞きやしない」
「それお前が言う?」

 至極当然の俺のツッコミに、ジルコンの睨みがじろりと落ちる。キラリと光るダイヤの指輪に、反射的にソファのクッションを構えた。ぼ、暴力反対!

「とにかく、スマラクト=ベリリウムはそういう性質の人間だということだ。明日からそれを念頭に置いて、あまり振り回されることのないように」
「うええぇ……」

 ソファに顔を押し付けてうめき声を上げる。なんだよー。思いっきり振り回されちゃったじゃん。自分が世界で一番の駄目人間みたいな気持ちになってた。いや駄目か駄目じゃないかって言われたら明らかに駄目寄りなんだけど……ハッ、いかんいかん、引きずられるな!

「……あれ? っていうか、ジルコン」
「なんだ」
「もしかして今、俺のこと慰めてくれてる?」

 ふと気がついて問いかける。テンプレツンデレキャラなら必殺の「べ、別に!」を繰り出す絶好の機会だが、しかしジルコンは頬の一つも染めないまま眉を寄せた。

「お前まで自虐の沼に沈まれては面倒この上ないからな。過信も厄介だが過度に自信を無くされるのも、我々の今後にとっては困る」
「……それは、ツンデレ? マジレス? どっち?」
「俺が照れているようにでも見えるか?」
「ですよねー」

 ばったりと顔を伏せる。わかってんよ、お前がそんな優しいやつじゃないってことぐらい。でも、まあ、正直さっきよりは元気出た。なんだかこいつの手の内で踊らされてるみたいで、ちょっと悔しくはあるけど。

「べ、別に、ジルコンのおかげで安心したわけじゃないんだからね! ……でも、ありがと」

 クッションの陰から顔を出し、ちょっとだけ口を尖らせる。渾身のツンデレ演技に、ジルコンは眉間のしわをますます深めた。

「……お前のわけのわからん小芝居は、いたずらに腹立たしいばかりだな」
「なんでよ!! 萌えろよ!!」
「そういうのはアメティスタあたりにやってやれ。気が向けば乗ってもらえるだろうよ」

 確かにあいつはこういうの好きそう。まあ今の俺の親愛度じゃ、俺死んでんのかなってくらい無視されんのが関の山だろうけど。や、下手したらガチで死なされる羽目になるかもしれない。やめとこ。どいつもこいつも曲者揃いの騎士団だけど、怖さで言えば今んとこあいつが一番だ。



 とにかくそんなこんなで、翌日からもスマラクトの授業は続く。

 もちろん俺も頑張った。ジルコンの言葉を胸に刻んで、自分を見失わないようにいっしょうけんめい冷静になろうとした。したにはした、んだが。

「前回は私の力不足で、大変申し訳ありませんでした。魔法分野において扱われる定数尺度の解説が不足していたんですね。こちら、新規に書き起こしたテキストです。……えっ、わからない?」

「理論はひとまず置いておいて、歴史の方面から学んでみましょう。百年戦争における回復魔法の研究と発展については、一般常識としてある程度ご存知かと思いますが……え? あっ……?」

「今日からは少し専門を変えてみましょうか。戦術の勉強です。まず、百年戦争初期に基本中の基本として扱われていた戦術がありますよね? ほら、『靭性を欠いた硬陣は滑石にも劣る』ということわざの元にもなった……知らない? 嘘でしょ……あっ、いえ……」

 連日行われる講義のことごとくについていけない俺と、毎度毎度律儀に新鮮な驚きを見せてくれるスマラクト。
 先に根を上げたのは、俺の方だった。
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