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42・問1/火の魔素fの対消滅魔素とモース検査レベル3における対消滅指数を述べよ
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微妙な空気を味わいつつ、地下へと続く狭い階段を降りる。到着したのは小さな図書室だった。図書室といっても半分物置きみたいになってるみたいで、窓はないし薄暗いしうっすらホコリとカビの匂いがする。今日からここで仕事しろって言われたら百パー辞めろってことだなと思うような場所だが、スマラクトはなぜか妙に安らかな顔で深呼吸している。
「はあ……いつ来ても落ち着きますね、ここは」
「ええ、マジ?」
「はい。私のようなクサレナメクジが棲まうには最適な空間です」
「くされなめくじ……」
フォローの言葉もかけてやれなかったが、スマラクトは特に気にした様子もない。ま、あんまりきらびやかなとこよりこういう場所の方がまだ落ち着くって意味では、俺もこいつと同類だ。
隅に備え付けられている……というよりは放置されている勉強机の席に着く。スマラクトは肩掛けカバンから本を一冊取り出して、俺の前に置いた。隅の一辺が紐で荒く綴じられていて、表紙から手書きだ。え、これ自作?
「スマラクト、これ作ってきてくれたん?」
「はい。愚昧の輩が衒学的な真似をしてしまい慚愧に絶えませんが、せめて理解の一助にでもなればと」
「あ、はい」
何言ってるのかよくわかんねーけど、多分自虐であることだけは伝わった。テキストをぺらぺらとめくる。文字が読めなかったらどうしようかと思ったけど、ちゃんと日本語だ。言語設定が日本語だからね! そもそも国内展開しかしてないゲームだし!
「ありがとー、すげーじゃんあんた。えっと、魔法素子学基礎入門? ふーん、魔法の勉強?」
「ええ。まずは基本中の基本として、私たちが扱う魔法の仕組みから知っていただこうかと」
「へー、面白そうじゃん」
こいつら当たり前みたいに魔法使うからなんかそういうもんかと思ってたけど、ちゃんと俺にも勉強させてくれるんだな。ちょっとわくわく。もしかして演習進めていけば俺も魔法使えちゃったりするのかな。やー、何属性がいいかなー。火? 風? いやいや自然属性は騎士サマたちとかぶる、ここは全てを内包する無属性で決まりかな? なんて。
「……なになに。えー、全ての魔法の基本となる魔法素子、通称魔素の分類は、魔素内に含まれる固有M定数の多寡によって決定される。固有M定数は宝石振動数を基準としたモース検査によって計測される熱量であり、例を挙げれば火の魔素fに含まれる固有M定数は9(8^Mx/nf*j)であるが、この計算式は……うん……?」
読んだはしから言葉が蒸発していく。なにこれ。呪文? こういう呪文を唱えます、って話かな?
恐る恐るスマラクトを見上げる。本を片手の先生スタイルで机の横に立つ彼は、相変わらずの憂鬱そうな、辛気臭い顔をしてため息をついた。
「灯士さん……いえ、世の大半の方々にとっては、常識以前の話ばかりだったでしょうか。とは言え決して馬鹿にしているわけではないのです。愚鈍な私の復習に付き合ってやるつもりで、どうかお許しください」
「いや、あの」
「万が一記憶にない箇所があったとしても、この程度の内容なら犬猫でもすぐに理解できますよね。それを踏まえて、さらに」
「や、ちょっと!」
「?」
勝手に話を進めようとするスマラクトを引き止めて、恐る恐る片手を上げる。
「……ごめん。わかんない。です」
「えっ」
「あの……もっと簡単に言ってください。ミミズに教えるつもりで」
「ええ……???」
スマラクトの頭上に、大きなハテナマークが浮かんでいるのが確かに見えた。相手が俺だからとか関係なしに、どうも本気で困惑しているらしい。うう。頬が熱い。俺が悪いの? 確かに学校でも仕事でもとてもおりこうさん側には入れない人生送ってきたけど。この世界の人たち、マジで全員これわかってんの? ああ、なんか別の意味でメンタル削られる予感。
「はあ……いつ来ても落ち着きますね、ここは」
「ええ、マジ?」
「はい。私のようなクサレナメクジが棲まうには最適な空間です」
「くされなめくじ……」
フォローの言葉もかけてやれなかったが、スマラクトは特に気にした様子もない。ま、あんまりきらびやかなとこよりこういう場所の方がまだ落ち着くって意味では、俺もこいつと同類だ。
隅に備え付けられている……というよりは放置されている勉強机の席に着く。スマラクトは肩掛けカバンから本を一冊取り出して、俺の前に置いた。隅の一辺が紐で荒く綴じられていて、表紙から手書きだ。え、これ自作?
「スマラクト、これ作ってきてくれたん?」
「はい。愚昧の輩が衒学的な真似をしてしまい慚愧に絶えませんが、せめて理解の一助にでもなればと」
「あ、はい」
何言ってるのかよくわかんねーけど、多分自虐であることだけは伝わった。テキストをぺらぺらとめくる。文字が読めなかったらどうしようかと思ったけど、ちゃんと日本語だ。言語設定が日本語だからね! そもそも国内展開しかしてないゲームだし!
「ありがとー、すげーじゃんあんた。えっと、魔法素子学基礎入門? ふーん、魔法の勉強?」
「ええ。まずは基本中の基本として、私たちが扱う魔法の仕組みから知っていただこうかと」
「へー、面白そうじゃん」
こいつら当たり前みたいに魔法使うからなんかそういうもんかと思ってたけど、ちゃんと俺にも勉強させてくれるんだな。ちょっとわくわく。もしかして演習進めていけば俺も魔法使えちゃったりするのかな。やー、何属性がいいかなー。火? 風? いやいや自然属性は騎士サマたちとかぶる、ここは全てを内包する無属性で決まりかな? なんて。
「……なになに。えー、全ての魔法の基本となる魔法素子、通称魔素の分類は、魔素内に含まれる固有M定数の多寡によって決定される。固有M定数は宝石振動数を基準としたモース検査によって計測される熱量であり、例を挙げれば火の魔素fに含まれる固有M定数は9(8^Mx/nf*j)であるが、この計算式は……うん……?」
読んだはしから言葉が蒸発していく。なにこれ。呪文? こういう呪文を唱えます、って話かな?
恐る恐るスマラクトを見上げる。本を片手の先生スタイルで机の横に立つ彼は、相変わらずの憂鬱そうな、辛気臭い顔をしてため息をついた。
「灯士さん……いえ、世の大半の方々にとっては、常識以前の話ばかりだったでしょうか。とは言え決して馬鹿にしているわけではないのです。愚鈍な私の復習に付き合ってやるつもりで、どうかお許しください」
「いや、あの」
「万が一記憶にない箇所があったとしても、この程度の内容なら犬猫でもすぐに理解できますよね。それを踏まえて、さらに」
「や、ちょっと!」
「?」
勝手に話を進めようとするスマラクトを引き止めて、恐る恐る片手を上げる。
「……ごめん。わかんない。です」
「えっ」
「あの……もっと簡単に言ってください。ミミズに教えるつもりで」
「ええ……???」
スマラクトの頭上に、大きなハテナマークが浮かんでいるのが確かに見えた。相手が俺だからとか関係なしに、どうも本気で困惑しているらしい。うう。頬が熱い。俺が悪いの? 確かに学校でも仕事でもとてもおりこうさん側には入れない人生送ってきたけど。この世界の人たち、マジで全員これわかってんの? ああ、なんか別の意味でメンタル削られる予感。
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