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35・魂が叫んでるんだ
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荒縄の合間を器用に縫って、ジルコンの指は俺の肌へとたどり着く。ぞくりと背筋が冷えたのは、その手が氷のように冷たかったから──だけじゃない。その指先が明らかに、俺のその、とある一点を目指して這い寄ってきたからだ。
「は? ……はぁ!? おい、おいまさかっ!!」
「察しがいいな。そのまさかだよ」
一気に全身に怖気が走る。ジルコンの大きな手のひらは、俺の尻を包みこむ位置で狙いを定めている。
「じゅ、じゅじゅじゅじゅ18禁ッッッ!! BANッ!! BANBANBAN~~~ッ!!!」
「映像による行為の描写と、具体的な名称表記を避ければセーフだ」
「そんな無茶苦茶な理屈があるかぁあひゃっ!!」
言葉の途中で声が跳ね上がった。冷えた指が、具体的な名称を出せない部位をぐっと押し込んだからだ。必死に逃れようとじたばたしても、シャクトリムシみたいにぴこぴこすることしかできない。
「やめろ、バカッ! コンプラ違反!! 令和のBLに無理矢理はご法度だってまとめサイトで見ましたけどぉ!?」
「煩い」
「ニギャーッ!!」
ご法度でコンプラな部分の入り口に、ジルコンの指先がほんのちょっとだけ沈んだ。ただそれだけのことで、一瞬で息が止まる。全身の筋肉が硬直して、冷や汗がダラダラ出てくる。エロ漫画でなら百万回見た、そこは入れるとこじゃないよぉ! ってセリフの意味を、俺は今心の底から実感している!
「ひぎぃ……ヤダぁ……」
「なんだ、もう降参か。ハーレムなんてご大層なことを吹くぐらいだから、そういう類の人間なのかと思えば」
「うぅっ、俺もうお嫁に行けない……ふぐっ」
「……クッ。まったく、つくづく面白い音の出る男だな」
わあ出た、「おもしれー男」! 全く嬉しくねえ! 幼児向けサンダルじゃねえんだぞ俺は!
目をつぶって痛みに耐えていると、唐突に、ジルコンの指がすぽっと抜けた。その瞬間にようやく呼吸を取り戻す。酸素を求めてぜーはーぜーはーしている俺を、ジルコンは安楽椅子にふんぞり返りながら見下ろしている。
「理解したか? お前が踏み込もうとしているのはこういう世界だ。この程度で根を上げるくらいなら、早いとこ諦めた方が身のためだぞ」
「う、う……」
「何も不幸になれと言ってるわけじゃない。お前の憧れるキラキラ騎士サマたちだって、一皮剥けばああも駄目人間の集まりなんだ。ままならん現実と折り合いをつけて、慎ましく生きていくのも立派な幸福のひとつだぞ」
「……ッ」
目を見開く。脳裏にさっきの、主人公たるミマの顔が浮かぶ。
ジルコンの言うことも、確かにもっともだ。騎士サマたちの裏の顔に、がっかりしなかったと言うのも嘘になる。キラキラの内側にはプラマイゼロのドロドロが詰まっていて、そういう意味ではもしかしたらこの世界も、俺が生きてた前世の世界とたいして変わらないものなのかもしれない。
だけど俺は、その一言で思い出してしまった。ミマが心底憎たらしい顔で、俺に投げかけたあのセリフを。
──どのみちお前はしょせん悪役。隅っこでつつましく生きていくがいいさ!! あーっはっはっはっは!!
唇を、血が出るくらい強く噛み締める。尻の穴にきゅっと力を入れて、ジルコンの顔を睨み上げる。
「……やだ」
「は?」
「やだ。諦めない。諦めてたまるかってんだ、このセクハラパワハラ兼任王子っ」
「……おい、お前」
「お前らなんかに言われて諦めるなんて死んでもごめんだね!! それに俺は、俺はっ!」
荒縄の痛みもものともせずに、全身全霊を腹に込めてびよんと立ち上がる。ナイス俺の腹筋! 一週間の訓練、無駄じゃなかった! 体はともかく心の中で高らかに拳を振り上げ、雄獅子の如く天に吼える!
「俺はもう!! 男でも女でもどっちでもいいから、とにかく顔のいい他人にチヤホヤされてえんだよおおお!!!」
残響が、石造りの壁に吸い込まれて消える。
あっけに取られたようなジルコンの顎が、肘をついた手の上からずるりと落ちた。
「は? ……はぁ!? おい、おいまさかっ!!」
「察しがいいな。そのまさかだよ」
一気に全身に怖気が走る。ジルコンの大きな手のひらは、俺の尻を包みこむ位置で狙いを定めている。
「じゅ、じゅじゅじゅじゅ18禁ッッッ!! BANッ!! BANBANBAN~~~ッ!!!」
「映像による行為の描写と、具体的な名称表記を避ければセーフだ」
「そんな無茶苦茶な理屈があるかぁあひゃっ!!」
言葉の途中で声が跳ね上がった。冷えた指が、具体的な名称を出せない部位をぐっと押し込んだからだ。必死に逃れようとじたばたしても、シャクトリムシみたいにぴこぴこすることしかできない。
「やめろ、バカッ! コンプラ違反!! 令和のBLに無理矢理はご法度だってまとめサイトで見ましたけどぉ!?」
「煩い」
「ニギャーッ!!」
ご法度でコンプラな部分の入り口に、ジルコンの指先がほんのちょっとだけ沈んだ。ただそれだけのことで、一瞬で息が止まる。全身の筋肉が硬直して、冷や汗がダラダラ出てくる。エロ漫画でなら百万回見た、そこは入れるとこじゃないよぉ! ってセリフの意味を、俺は今心の底から実感している!
「ひぎぃ……ヤダぁ……」
「なんだ、もう降参か。ハーレムなんてご大層なことを吹くぐらいだから、そういう類の人間なのかと思えば」
「うぅっ、俺もうお嫁に行けない……ふぐっ」
「……クッ。まったく、つくづく面白い音の出る男だな」
わあ出た、「おもしれー男」! 全く嬉しくねえ! 幼児向けサンダルじゃねえんだぞ俺は!
目をつぶって痛みに耐えていると、唐突に、ジルコンの指がすぽっと抜けた。その瞬間にようやく呼吸を取り戻す。酸素を求めてぜーはーぜーはーしている俺を、ジルコンは安楽椅子にふんぞり返りながら見下ろしている。
「理解したか? お前が踏み込もうとしているのはこういう世界だ。この程度で根を上げるくらいなら、早いとこ諦めた方が身のためだぞ」
「う、う……」
「何も不幸になれと言ってるわけじゃない。お前の憧れるキラキラ騎士サマたちだって、一皮剥けばああも駄目人間の集まりなんだ。ままならん現実と折り合いをつけて、慎ましく生きていくのも立派な幸福のひとつだぞ」
「……ッ」
目を見開く。脳裏にさっきの、主人公たるミマの顔が浮かぶ。
ジルコンの言うことも、確かにもっともだ。騎士サマたちの裏の顔に、がっかりしなかったと言うのも嘘になる。キラキラの内側にはプラマイゼロのドロドロが詰まっていて、そういう意味ではもしかしたらこの世界も、俺が生きてた前世の世界とたいして変わらないものなのかもしれない。
だけど俺は、その一言で思い出してしまった。ミマが心底憎たらしい顔で、俺に投げかけたあのセリフを。
──どのみちお前はしょせん悪役。隅っこでつつましく生きていくがいいさ!! あーっはっはっはっは!!
唇を、血が出るくらい強く噛み締める。尻の穴にきゅっと力を入れて、ジルコンの顔を睨み上げる。
「……やだ」
「は?」
「やだ。諦めない。諦めてたまるかってんだ、このセクハラパワハラ兼任王子っ」
「……おい、お前」
「お前らなんかに言われて諦めるなんて死んでもごめんだね!! それに俺は、俺はっ!」
荒縄の痛みもものともせずに、全身全霊を腹に込めてびよんと立ち上がる。ナイス俺の腹筋! 一週間の訓練、無駄じゃなかった! 体はともかく心の中で高らかに拳を振り上げ、雄獅子の如く天に吼える!
「俺はもう!! 男でも女でもどっちでもいいから、とにかく顔のいい他人にチヤホヤされてえんだよおおお!!!」
残響が、石造りの壁に吸い込まれて消える。
あっけに取られたようなジルコンの顎が、肘をついた手の上からずるりと落ちた。
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