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31・農業用太さ8ミリ
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「……い。おい、起きろ、チュー太郎」
どこか遠くで、俺を呼ぶ声がする。宝石箱の中のビロードみたいに、低くて綺麗な声だ。聞き覚えがある。でも、俺の記憶にあるこの声は、いつもはもうちょっと優しく俺を呼んでいたような気がする。
うっすらと目を開けた。乱反射するプリズムが視界を埋める。あれ、朝? 俺いつの間にか寝ちゃってたのか。じゃ、前みたいにジルコンがベッドに運んで……ん、でも、ベッドにしてはなんか妙に体の下が固い、というか痛い、ような……?
キラキラと色を変える光の方へ、ぼんやりと目線を向けた。朝とは程遠い薄暗さの中で、誰かと目が合う。知ってる目だ。澄んだ銀色の瞳に、しかしいつもの穏やかさはなく、妙に鋭い光が俺の目を直に刺している。ジルコンじゃ、ない? え、いや、ジルコン!? どっち!?
「ようやくお目覚めか。呑気にも程があるな」
「ふがっ……!?」
跳ね起きた。つもりだった、気持ちの上では。だが俺の体はエビみたいにびちっと跳ねただけで、なぜならばどうやら俺は今、荒縄でぐるぐる巻きにされた状態でベッドの上に置かれているからだ。
「えっ、な、何、なんで!? っていうか、えっ、ジルコン!?」
「ジルコンだよ。双子でも偽王子でもない、正真正銘のな」
「えっ、えっ」
いや、何その口調。何そのキャラ。焦って無意味に辺りを見回す。ベッドサイドの椅子に足を組んでふんぞり返っているこの男は、確かにジルコンだけど俺の知ってるジルコンじゃない。いつでも慇懃無礼なくらい丁寧な、執事キャラのあのジルコンはどこ!?
「……ああ。どうせならこっちでも名乗っておいた方が話が早いか」
ふむ、と口の周りを撫でて、ジルコン(?)は俺の眼前に顔を突き出した。ま、眩しい、いろんな意味で。反射的に目を細める俺の耳に、妙に楽しそうな低い声が届く。
「ジルコン=ラタナキリ。エーデルシュタイン王国における公式名は、ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン」
「ディア……ッ」
一瞬考えてから思い出す。ディアマンテ。オープニングで一回会った、顔の見えない王子の名前だ。
「理解したか? そういうことだ。良かったな、チュー太郎。お前の考察とやら、大当たりだったぞ」
「あっ、やっぱりー? よしゃー……じゃなくて!!」
正直そのネタバラシはどうでもいい(だってバレバレだったし)。今一番の問題は、なんで俺は荒縄で縛られてるのか、ってことだ。
「えっ、なっ、ジルコンがやったの、これ?」
「纒縛のことか? 他に誰がいる」
「……ほどいて?」
「駄目だ」
ダメ元でけなげに頼んでみたが、一瞬でにべもなく却下された。ですよねー。ここでほどいたらそれこそ何のために縛ったんだよって話だし。いや、でもマジなところ、なんでだよ。
「お前」
「わひっ」
俺の疑問をひねり潰すかのごとく、ジルコンが俺の顎を片手でねじ上げる。
「よくもまあ、これまで散々好き勝手言ってくれたな。人の心が無いプログラムだ? 俺がプログラムだとしたら、今のお前も同じだろうが」
「へっ!?」
思いもよらない言葉に意表をつかれた。プログラム。この世界にはおおよそ存在しそうもない単語だが、ジルコンの使い方は俺の知っている世界のそれと一致している。
「な、なんでんなこと……」
「なんだ、その阿呆面は。おおかた所詮ゲームだとたかをくくって、考えなしに口を開いていたんだろう? 人が理解できないと思って、無神経に言いたい放題喚きやがって。お前みたいな輩のことを品性下劣と言うんだ」
「!? ゲームって、し、知って……ッ」
「当たり前だ」
荒縄の端、ちょろりとはみ出た縛り口の部分を、ジルコンは乱暴に持ち上げる。
「ぎゃっ!」
「案内板も、課金周りの管理も俺の管轄なんだぞ。理解していないわけがあるか」
「痛い! ちくちくする! 縄が! 刺さる!!」
「ついでに言えば、お前のような人間が宝石騎士をインストールした理由も見当はついている。おおかた例の美少女ゲーとのコラボ報酬目当てだろ」
「ヴッ」
図星!
頭からさーっと血の気が引いていく。物理的に縛られているせいもあるかもしんないけど。つまりジルコンは、最初から何もかもお見通しだったってことだ。そういう状況だった人間が、俺の言動に対してどういう印象を抱くのか。……想像するまでもない。
どこか遠くで、俺を呼ぶ声がする。宝石箱の中のビロードみたいに、低くて綺麗な声だ。聞き覚えがある。でも、俺の記憶にあるこの声は、いつもはもうちょっと優しく俺を呼んでいたような気がする。
うっすらと目を開けた。乱反射するプリズムが視界を埋める。あれ、朝? 俺いつの間にか寝ちゃってたのか。じゃ、前みたいにジルコンがベッドに運んで……ん、でも、ベッドにしてはなんか妙に体の下が固い、というか痛い、ような……?
キラキラと色を変える光の方へ、ぼんやりと目線を向けた。朝とは程遠い薄暗さの中で、誰かと目が合う。知ってる目だ。澄んだ銀色の瞳に、しかしいつもの穏やかさはなく、妙に鋭い光が俺の目を直に刺している。ジルコンじゃ、ない? え、いや、ジルコン!? どっち!?
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「ふがっ……!?」
跳ね起きた。つもりだった、気持ちの上では。だが俺の体はエビみたいにびちっと跳ねただけで、なぜならばどうやら俺は今、荒縄でぐるぐる巻きにされた状態でベッドの上に置かれているからだ。
「えっ、な、何、なんで!? っていうか、えっ、ジルコン!?」
「ジルコンだよ。双子でも偽王子でもない、正真正銘のな」
「えっ、えっ」
いや、何その口調。何そのキャラ。焦って無意味に辺りを見回す。ベッドサイドの椅子に足を組んでふんぞり返っているこの男は、確かにジルコンだけど俺の知ってるジルコンじゃない。いつでも慇懃無礼なくらい丁寧な、執事キャラのあのジルコンはどこ!?
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ふむ、と口の周りを撫でて、ジルコン(?)は俺の眼前に顔を突き出した。ま、眩しい、いろんな意味で。反射的に目を細める俺の耳に、妙に楽しそうな低い声が届く。
「ジルコン=ラタナキリ。エーデルシュタイン王国における公式名は、ディアマンテ=ジルコニアス=エーデルシュタイン」
「ディア……ッ」
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「理解したか? そういうことだ。良かったな、チュー太郎。お前の考察とやら、大当たりだったぞ」
「あっ、やっぱりー? よしゃー……じゃなくて!!」
正直そのネタバラシはどうでもいい(だってバレバレだったし)。今一番の問題は、なんで俺は荒縄で縛られてるのか、ってことだ。
「えっ、なっ、ジルコンがやったの、これ?」
「纒縛のことか? 他に誰がいる」
「……ほどいて?」
「駄目だ」
ダメ元でけなげに頼んでみたが、一瞬でにべもなく却下された。ですよねー。ここでほどいたらそれこそ何のために縛ったんだよって話だし。いや、でもマジなところ、なんでだよ。
「お前」
「わひっ」
俺の疑問をひねり潰すかのごとく、ジルコンが俺の顎を片手でねじ上げる。
「よくもまあ、これまで散々好き勝手言ってくれたな。人の心が無いプログラムだ? 俺がプログラムだとしたら、今のお前も同じだろうが」
「へっ!?」
思いもよらない言葉に意表をつかれた。プログラム。この世界にはおおよそ存在しそうもない単語だが、ジルコンの使い方は俺の知っている世界のそれと一致している。
「な、なんでんなこと……」
「なんだ、その阿呆面は。おおかた所詮ゲームだとたかをくくって、考えなしに口を開いていたんだろう? 人が理解できないと思って、無神経に言いたい放題喚きやがって。お前みたいな輩のことを品性下劣と言うんだ」
「!? ゲームって、し、知って……ッ」
「当たり前だ」
荒縄の端、ちょろりとはみ出た縛り口の部分を、ジルコンは乱暴に持ち上げる。
「ぎゃっ!」
「案内板も、課金周りの管理も俺の管轄なんだぞ。理解していないわけがあるか」
「痛い! ちくちくする! 縄が! 刺さる!!」
「ついでに言えば、お前のような人間が宝石騎士をインストールした理由も見当はついている。おおかた例の美少女ゲーとのコラボ報酬目当てだろ」
「ヴッ」
図星!
頭からさーっと血の気が引いていく。物理的に縛られているせいもあるかもしんないけど。つまりジルコンは、最初から何もかもお見通しだったってことだ。そういう状況だった人間が、俺の言動に対してどういう印象を抱くのか。……想像するまでもない。
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