転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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22・雨の日以外もノー・サンキュー

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 今にも雨が降り出しそうな、どんより曇り空の朝だった。相変わらず許可も取らずに入ってきた、ジルコンに起こされての目覚めもイマイチすっきりしない。このところ限界まで体を動かしている分、夜はいつでも快眠だったのに。どうも気分がよくない。こんな日に初討伐なのか。やだなあ。

「雨天中止……ってことにはならない?」
「なりませんね」

 朝食の席で、生ハムとチーズとトマトのサンドイッチをぱくつきつつ出した俺の提案を、ジルコンは顔色ひとつ変えずに速攻で却下した。

「ですよねー。まあ、行くけどさあ」
「ご不安ですか」
「そりゃ、だって……実戦とか、初めてだし」

 文字通りのゲーム感覚がそろそろ通用しなくなってきていることは、月曜からの訓練で嫌と言うほど思い知った。このゲームのシステムは便利だけれど、たぶん、俺の命まで守ってはくれない。スキアがどんなもんかもいまだによくわかってないけど、絶対勝つと言い切れる自信は……正直、俺にはない。

「心配はございません。灯士様方の安全は、私たちが全力でお守りいたします」
「そっか。お前も来るんだっけ」
「はい。私もスキア相手の戦闘は初めてではございませんので、お役に立てるよう尽力する所存です」

 俺のカップに紅茶を注ぎながら、ジルコンはにこりと微笑んでみせた。うーん、イケメン。ちょっとだけ肩の力が抜ける。こいつの力が意外と強いのは、この5日間雑に運ばれ続けたおかげで身に染みてるし。ここは頼る気でいてもいいのかもしれない。

「そういや、ミマは?」
「ミマ様は普段通り、お部屋で朝食を召し上がるとのことです」
「そっか。今日くらいは一緒に食えばいいのにな」

 初対面のあの日からこっち、ミマとはほとんど顔を合わせていない。一度だけ廊下で鉢合わせしたミマは、俺の顔を見るなり無表情で部屋に戻っていってしまった。そんなに嫌われてしまったんだろうか、俺。けっこう悲しい。

「今日の討伐頑張ったら、ミマもちょっとは俺のこと見直してくれっかなー」
「……かもしれませんね」
「ていうか、ゲーム的に言えば騎士サマとも親愛度アップのチャンスだよな、たぶん」
「……」
「よーし、頑張ろ。頑張ってみんなにちやほやしてもらお」

 率直すぎる欲望を声に出し、頬を叩いて気合を入れる。ミルクたっぷりの紅茶を一気に飲み干したら、勢い余って気管に入ってしまった。ゲホゲホと盛大にむせ返る。縁起悪。

「……チュー太郎、……様」
「ん?」

 ようやく咳が収まったころ、ジルコンが妙に神妙な顔で俺の名を呟いた。首をかしげる俺の前で、彼は軽く目を伏せて首を振る。

「……いえ。お気をしっかりお持ちくださいね」
「……?」
「そろそろお時間でございます。討伐のお支度を始めましょうか」
「お、おう……?」

 言わんとすることは汲み取れなかったが、不穏な雰囲気だけはビンビンに伝わってくる。なんだなんだ。これからどうなるんだ、俺。訊ね返す勇気も出ないまま、されるがままに準備を済ませた。

 例のワープで城に向かう。目的地はいつもの演習場じゃなく、城門前の広場だ。白くフェードアウトした視界に再び色がついたとき、そこには既に六人の騎士サマ方が集合していた。ミマもいる。妙に機嫌よさそうな様子で、騎士サマたちと談笑している。よかった。これなら空気よく行けそうじゃん?

「ミ……」

 軽く片手を上げて、ミマに声をかけようとしたそのとき。

「何をしに来た。チュー太郎」

 予想外の方向から投げかけられた言葉は、ひどく冷たい声音をしていた。
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