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20・産地直送一夜干し
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「ヴヴ……ヴ……ゥ」
「お帰りなさいませ、チュー太郎様」
さまようゾンビみたくなって帰宅した俺を、ジルコンは一切の動揺を見せないままうやうやしく出迎えた。ちょっとは心配せえよ。突っ込みを口に出す気力もなく、玄関先でばったりと倒れ込む。
「むぃい……」
「いかがでしたか、ルビーノの訓練は」
「見ひぇぇ……」
見てわかれよ、と言ったつもりだったけど、口が回らなかった。今の俺は口輪筋まで含めて、全身の筋肉と言う筋肉を使い果たしました。こういう育成パートってだいたいミニキャラが縄跳びとかして終わりじゃねえのかよ。生成しろよ俺のミニキャラをよ。
ていうか百歩譲って、訓練がスキップで終わらないのはまだいい。だが帰るのが徒歩ってのはどういう了見だ。こんなときこそワープの出番じゃねえのかよ。城から寮まで意外と距離ありやがるし。ルビーノが送ってくれたけど、筋肉が全滅した体を気合だけで引きずっていた俺は、道中彼が何を話してたかすら覚えてない。訓練パートの後遺症でトキメキパートが潰されるって優先度おかしいだろ。
「浴室の用意が整っておりますが、いかがされますか。温かい湯に浸かれば疲労も取れますよ」
「むーりぃ……動へにゃい……」
「……やれやれ」
ため息をついたジルコンが、俺の体の下に手を差し入れる。
「少々、失礼いたしますよ」
「へあぁ……?」
直後、ふわりと体が浮くのを感じた。見た目より力強いジルコンの腕が、倒れ伏した俺を持ち上げたのだ。ド、ドキーン! これもしかして、朝逃したトキメキイベントの再放送では!?
……などと思ったのもつかの間。
「では、浴室までお運びいたします」
「あえ」
浮いた体はそのまま、ジルコンの肩に担ぎ上げられる。干されたイカみたいに二つ折りになった俺を、ジルコンは荷運びの要領で風呂場まで持って行ってくれた。トキメキ……
扱いには少々の不満が残ったとはいえ、汗を流してゆっくりお湯に浸かったら、ジルコンの言う通り多少体力は回復した。まあ、ゼロが3くらいに戻っただけのことだけど。それでも夕食の席で、今日の辛さを愚痴るくらいの気力は取り戻すことができた。
「マジでさあ……俺はひ弱な現代人なのよ、実際。ウォーミングアップが腕立て30とか言われてもついていけんのよ」
「はあ」
本日のメニュー、仔牛のローストオレンジソースと緑豆のポタージュその他もろもろの給仕を終えたジルコンは(ちなみに料理も彼が作っているそうだ。すげーな何でもできるじゃん)、ぶちぶちと不平を漏らす俺の隣で表情を崩さず控えている。
「あぁー、駄目だ、明日絶対筋肉痛だわ。動ける自信がねえ。ねえ、これ予定変えるとかできねーの?」
「申し訳ございませんが、一度決定したスケジュールの変更は不可能となっております」
「マジかよぉー……地獄じゃん、地獄……」
スープを口に運ぶ手は止めぬまま、大げさに嘆きの声を上げる。
「まあでも、やるよ、やるしかねえけどさぁー。前世のブラックバイトに比べりゃ、これでも天国みたいなもんだし」
「その意気ですよ、チュー太郎様」
ジルコンは相変わらず同情の気配すら見せず、ただただ俺の斜め後ろから相槌を打っているだけだ。やっぱこいつどうも俺に対する敬意がねえな。王子様ポジションキャラの傲慢さが出てるのでは? もうちょっと優しくしてほしいです。星2。
だが。
この時の俺は、まだ知らなかった。
週末、筋肉痛なんて目じゃないほどの地獄が、列をなして俺に襲いかかってくることを。
「お帰りなさいませ、チュー太郎様」
さまようゾンビみたくなって帰宅した俺を、ジルコンは一切の動揺を見せないままうやうやしく出迎えた。ちょっとは心配せえよ。突っ込みを口に出す気力もなく、玄関先でばったりと倒れ込む。
「むぃい……」
「いかがでしたか、ルビーノの訓練は」
「見ひぇぇ……」
見てわかれよ、と言ったつもりだったけど、口が回らなかった。今の俺は口輪筋まで含めて、全身の筋肉と言う筋肉を使い果たしました。こういう育成パートってだいたいミニキャラが縄跳びとかして終わりじゃねえのかよ。生成しろよ俺のミニキャラをよ。
ていうか百歩譲って、訓練がスキップで終わらないのはまだいい。だが帰るのが徒歩ってのはどういう了見だ。こんなときこそワープの出番じゃねえのかよ。城から寮まで意外と距離ありやがるし。ルビーノが送ってくれたけど、筋肉が全滅した体を気合だけで引きずっていた俺は、道中彼が何を話してたかすら覚えてない。訓練パートの後遺症でトキメキパートが潰されるって優先度おかしいだろ。
「浴室の用意が整っておりますが、いかがされますか。温かい湯に浸かれば疲労も取れますよ」
「むーりぃ……動へにゃい……」
「……やれやれ」
ため息をついたジルコンが、俺の体の下に手を差し入れる。
「少々、失礼いたしますよ」
「へあぁ……?」
直後、ふわりと体が浮くのを感じた。見た目より力強いジルコンの腕が、倒れ伏した俺を持ち上げたのだ。ド、ドキーン! これもしかして、朝逃したトキメキイベントの再放送では!?
……などと思ったのもつかの間。
「では、浴室までお運びいたします」
「あえ」
浮いた体はそのまま、ジルコンの肩に担ぎ上げられる。干されたイカみたいに二つ折りになった俺を、ジルコンは荷運びの要領で風呂場まで持って行ってくれた。トキメキ……
扱いには少々の不満が残ったとはいえ、汗を流してゆっくりお湯に浸かったら、ジルコンの言う通り多少体力は回復した。まあ、ゼロが3くらいに戻っただけのことだけど。それでも夕食の席で、今日の辛さを愚痴るくらいの気力は取り戻すことができた。
「マジでさあ……俺はひ弱な現代人なのよ、実際。ウォーミングアップが腕立て30とか言われてもついていけんのよ」
「はあ」
本日のメニュー、仔牛のローストオレンジソースと緑豆のポタージュその他もろもろの給仕を終えたジルコンは(ちなみに料理も彼が作っているそうだ。すげーな何でもできるじゃん)、ぶちぶちと不平を漏らす俺の隣で表情を崩さず控えている。
「あぁー、駄目だ、明日絶対筋肉痛だわ。動ける自信がねえ。ねえ、これ予定変えるとかできねーの?」
「申し訳ございませんが、一度決定したスケジュールの変更は不可能となっております」
「マジかよぉー……地獄じゃん、地獄……」
スープを口に運ぶ手は止めぬまま、大げさに嘆きの声を上げる。
「まあでも、やるよ、やるしかねえけどさぁー。前世のブラックバイトに比べりゃ、これでも天国みたいなもんだし」
「その意気ですよ、チュー太郎様」
ジルコンは相変わらず同情の気配すら見せず、ただただ俺の斜め後ろから相槌を打っているだけだ。やっぱこいつどうも俺に対する敬意がねえな。王子様ポジションキャラの傲慢さが出てるのでは? もうちょっと優しくしてほしいです。星2。
だが。
この時の俺は、まだ知らなかった。
週末、筋肉痛なんて目じゃないほどの地獄が、列をなして俺に襲いかかってくることを。
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