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18・イベントフラグは夜中のノック
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「ふぃー……」
食堂での夕食を終えて、再び部屋のソファで人心地つく。肘掛けに頭を預けて横たわる姿勢は、自分でも行儀悪いとは思うが動く気力もない。ちょっと食べすぎてしまった。しかしそれもこれも。
「美味かったな、晩飯……」
思わずそんな独り言を漏らすほど、美味しかった夕食のせいだ。メニューはエビのトマト煮とマッシュルームのサラダ、直火で炙ったチーズと、フランスパンみたいな固めのパン。なんでもこの国は海が近いだけあって海産物が名産らしく、おまけに潮風が牧草を育てるとかで、肉や乳製品も一級品だそうだ。確かに、トマト煮のエビはプリプリでほんのり白ワインの香りがして、チーズはトロトロで塩気強めでパリッとしたパンによく合って、あー、思い出しただけでよだれが出る。ジルコンが珍しく胸を張って語るだけのことはあった。ミマも来ればよかったのに。まだ部屋で休んでるってことだけど、具合でも悪いんだろうか。大丈夫かな。
「しかし……いいのかなあ、こんなん」
無意識に、漠然とした不安が口からこぼれた。身の丈に余る幸福を受けすぎて、どっかで反動が来るような気がしてならない。なんて、そんなふうに思ってしまうことこそが俺のダメなとこなのかもしんねーけど。でもなあ。これが努力の成果ならドヤ顔で甘受できるけど、俺、なんにもしてねーもんなあ。そういやミマのことも怒らせたまんまだし。
「ねみ……」
腹いっぱい食ったせいか、なんだか急に眠くなってきた。まぶたをこすってあくびをひとつ。さっき休めなかったからなあ、自業自得だけど。このまま少し寝ちゃってもいいかな。いいよな……
抗い切れない眠気に意識が吸い込まれていく。本格的に眠りに落ちる寸前、耳の奥に、さっきのミマの言葉が蘇った。
『一週間経ったら、僕が君にこの世界の仕組みを教えてあげる』
一週間。何があるって言うんだろう。一週間後か。いよいよゲームの本編が始まる、最初の一週間……頑張ろう……でも、どうやって……?
「……様。おはようございます、チュー太郎様」
「んー……」
閉じたまぶたの向こうで、何かがキラキラと光っている。朝日だろうか。カーテン閉めずに寝ちゃったかな。確か今日は月曜日、ってことはシフトは夕方~夜勤、だから昼までは寝てて大丈夫なはず……昨日も帰ってきたの明け方だったし、もうちょっと、もうちょっとだけ……
「チュー太郎様。遅刻なさいますよ」
「わぁっ!!」
遅刻、の二文字が耳に入った瞬間、バネのようにベッドから跳ね起きる。
「すんません、ごめんっごめんなさいっ! すぐ出ます今出ます、今っ!!」
「落ち着いてください、チュー太郎様。まだ時間に余裕はありますから」
「へぁっ!?」
一拍置いて、状況を思い出した。いつもと違う、スプリングの効いたベッドの隣には、朝からきっちり軍服を着込んだジルコンの姿。そうだ。俺、昨日から灯士サマだったんだ。バイトも夜勤ももう関係ない。思わず肩の力が抜ける。
「……あれ? でも俺、昨日ソファで寝ちゃったような」
「私が運ばせていただきました」
「あ、なるほどね。……えっ」
さらりと言われた言葉に、一回スルーしてから二度見する。寝てた俺を? ジルコンが?
「差し出がましい真似とは存じましたが、ずいぶんお疲れだったようで、お起きにならなかったものですから。ご無礼をお許しください」
などと言いつつジルコンは、特に無礼とも思ってないような顔で頭を下げた。いや、無礼とかはどうでもいいんだけど、無断で寝顔見られた挙句運ばれたのかあ。正直、なんかちょっとイヤ。現代人にはプライバシーって概念があるんよ。でもこの世界のお貴族様なら、使用人に対してそんなことは気にしないんだろうか。そういやこの部屋、鍵もついてなかったな。盗られるようなもんもないからいいけど。
「あー……ありがとな。手間かけさせて」
「いえ。それが私の仕事ですので」
それでも一応礼は言っておくあたり、人間関係の摩擦を気にする小心者の俺だ。あれ、でも、運んだってどうやって? まさか定番のお姫様抱っこ? トキメキイベントのチャンス逃しちゃった? いや、ワンチャン俺が寝てるのをいいことに、羽交い絞めで引きずってった可能性もなくはないけど。やりかねなそうだし。
食堂での夕食を終えて、再び部屋のソファで人心地つく。肘掛けに頭を預けて横たわる姿勢は、自分でも行儀悪いとは思うが動く気力もない。ちょっと食べすぎてしまった。しかしそれもこれも。
「美味かったな、晩飯……」
思わずそんな独り言を漏らすほど、美味しかった夕食のせいだ。メニューはエビのトマト煮とマッシュルームのサラダ、直火で炙ったチーズと、フランスパンみたいな固めのパン。なんでもこの国は海が近いだけあって海産物が名産らしく、おまけに潮風が牧草を育てるとかで、肉や乳製品も一級品だそうだ。確かに、トマト煮のエビはプリプリでほんのり白ワインの香りがして、チーズはトロトロで塩気強めでパリッとしたパンによく合って、あー、思い出しただけでよだれが出る。ジルコンが珍しく胸を張って語るだけのことはあった。ミマも来ればよかったのに。まだ部屋で休んでるってことだけど、具合でも悪いんだろうか。大丈夫かな。
「しかし……いいのかなあ、こんなん」
無意識に、漠然とした不安が口からこぼれた。身の丈に余る幸福を受けすぎて、どっかで反動が来るような気がしてならない。なんて、そんなふうに思ってしまうことこそが俺のダメなとこなのかもしんねーけど。でもなあ。これが努力の成果ならドヤ顔で甘受できるけど、俺、なんにもしてねーもんなあ。そういやミマのことも怒らせたまんまだし。
「ねみ……」
腹いっぱい食ったせいか、なんだか急に眠くなってきた。まぶたをこすってあくびをひとつ。さっき休めなかったからなあ、自業自得だけど。このまま少し寝ちゃってもいいかな。いいよな……
抗い切れない眠気に意識が吸い込まれていく。本格的に眠りに落ちる寸前、耳の奥に、さっきのミマの言葉が蘇った。
『一週間経ったら、僕が君にこの世界の仕組みを教えてあげる』
一週間。何があるって言うんだろう。一週間後か。いよいよゲームの本編が始まる、最初の一週間……頑張ろう……でも、どうやって……?
「……様。おはようございます、チュー太郎様」
「んー……」
閉じたまぶたの向こうで、何かがキラキラと光っている。朝日だろうか。カーテン閉めずに寝ちゃったかな。確か今日は月曜日、ってことはシフトは夕方~夜勤、だから昼までは寝てて大丈夫なはず……昨日も帰ってきたの明け方だったし、もうちょっと、もうちょっとだけ……
「チュー太郎様。遅刻なさいますよ」
「わぁっ!!」
遅刻、の二文字が耳に入った瞬間、バネのようにベッドから跳ね起きる。
「すんません、ごめんっごめんなさいっ! すぐ出ます今出ます、今っ!!」
「落ち着いてください、チュー太郎様。まだ時間に余裕はありますから」
「へぁっ!?」
一拍置いて、状況を思い出した。いつもと違う、スプリングの効いたベッドの隣には、朝からきっちり軍服を着込んだジルコンの姿。そうだ。俺、昨日から灯士サマだったんだ。バイトも夜勤ももう関係ない。思わず肩の力が抜ける。
「……あれ? でも俺、昨日ソファで寝ちゃったような」
「私が運ばせていただきました」
「あ、なるほどね。……えっ」
さらりと言われた言葉に、一回スルーしてから二度見する。寝てた俺を? ジルコンが?
「差し出がましい真似とは存じましたが、ずいぶんお疲れだったようで、お起きにならなかったものですから。ご無礼をお許しください」
などと言いつつジルコンは、特に無礼とも思ってないような顔で頭を下げた。いや、無礼とかはどうでもいいんだけど、無断で寝顔見られた挙句運ばれたのかあ。正直、なんかちょっとイヤ。現代人にはプライバシーって概念があるんよ。でもこの世界のお貴族様なら、使用人に対してそんなことは気にしないんだろうか。そういやこの部屋、鍵もついてなかったな。盗られるようなもんもないからいいけど。
「あー……ありがとな。手間かけさせて」
「いえ。それが私の仕事ですので」
それでも一応礼は言っておくあたり、人間関係の摩擦を気にする小心者の俺だ。あれ、でも、運んだってどうやって? まさか定番のお姫様抱っこ? トキメキイベントのチャンス逃しちゃった? いや、ワンチャン俺が寝てるのをいいことに、羽交い絞めで引きずってった可能性もなくはないけど。やりかねなそうだし。
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