転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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13・え、俺、何かやっちゃいました?

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「……ジルコン?」
「はい」

 彼の名乗りに、俺は軽く眉をひそめた。さっき聞いた管理人とやらの名前だよな。それは正しい。それはいいのだが。

 ポーチの端を回り込み、短い階段を降りてきたジルコンに、ミマが小走りで寄っていく。彼持ち前の人懐っこさをさっそく発揮しようとしてるみたいだが、それより先に俺の声がぽろりと漏れた。

「っていうか、王子よな?」

 瞬間。
 ミマが、王子が、凍りついたように動きを止めた。小鳥の声すらも静まり返る。時間が止まったみたいな静寂。あれ、俺、なんかやっちゃいました?

 長すぎる沈黙のあと。

「………………何故……そう思われるのですか?」
「声」

 即答した俺に、ジルコンこと王子の口元がひくりと歪む。ミマに至っては俺に背を向けたまま、駆け出しかけた姿勢を維持して微動だにしない。体幹できてんなこいつ。

「声……と、言われましても。世の中には似た声の方も大勢いらっしゃいますし」
「あっはは、ないない。俺のダメ絶対音感を舐めんなよ」
「ダメぜったい……?」

 いぶかしげなジルコンを放置して、ひとりうんうんと頷く。うん、絶対そうだ。メタ的な話になってしまうが、こんな近い位置のキャラをこんな似た声にする理由もないだろう。あ、それとも、まさかの双子って線もある? いや、ならあそこで王子の顔見せしとくのがセオリーだろ。それに昨今のコンテンツなら、双子でも声優別々なのがデフォじゃない?

 あー、なんか楽しくなってきちゃった。オタク類キャラ萌え目考察厨科の生物として、先の展開をあれこれ想像するほど面白い遊びはない。好奇心のおもむくまま物理的にジルコンに歩み寄り、じろじろと舐め回すように観察してみる。しかし改めて見ても超絶的なイケメンだなあ。二次元なんだから当たり前っちゃ当たり前だけど。

「あ、てか、やっぱよく見たらタイトル画面にいた顔じゃんこいつ! しかもど真ん中に!」
「……こいつ……」
「あーはいはい、なるほど、そういうキャラね。あそっか、ジルコンって確かあれだよな、ダイヤの偽物的なやつだよな? ってことはワンチャン本物の王子じゃないとか、実は王家の血が流れてないとか、そういう展開もあったり~?」
「おま……っ、チュー君ッ!」
「うわっ」

 いつの間にか硬直から脱していたらしいミマが、俺の肩をわしっと掴んだ。そのままずるずると引きずられるように、手近な木陰へ連れ込まれる。なんだこいつ、見た目に反して意外とパワー系?

「痛い、痛いってミマ、ギブギブ!」

 肩を掴む手をタップすると、ミマは手を離して振り返る。目が合って、ドキッとした。柔らかいクリーム色の彼の目が、あんまりにも忌々しげに俺を睨み上げていたからだ。

「あ、え、あの、ミマ……怒ってる?」
「……どうして僕が怒ってるか、わかる?」
「え……あっ、もしかして俺ネタバレした!? いやあれは俺の勝手な予想で、合ってるかどうかはまだ」
「ちっげーよ!!!」

 張り上げられた声の鋭さに、びくりとすくみ上がる。ミマはハッとしたように口をつぐんで、それから深く息を吐いた。

「……チュー君。さすがにあれは失礼すぎるよ。いくら僕たちが灯士とは言え、本当に殿下相手なら懲罰ものの言動だ」
「え? だって……あ、いや」

 ミリしらみたいなもんじゃん、と言いかけて飲み込んだ。そうか。いかに二次元キャラとは言え、今は俺も同じ世界で生きている人間だ。直接声の届くところ、ましてや目の前でやるにふさわしくない言動だったのは否定できない。個人の好き勝手な妄想は、公式に届かないとこでやるのがオタクのたしなみ。またしても俺の駄目なとこが出てしまった。

「ごめん、ミマ」
「うん。気をつけて」
「そうだな。王子……じゃない、ジルコンにも謝んなきゃな」
「え」

 何か言いたげなミマを通り越し、しゅんと木陰から顔を出す。ジルコンは相変わらず、胸に手を当てた執事ポーズのまま俺たちを待っていた。異世界に来て早々リアルに謝りを発生させる大人、それが俺です。つらい。
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