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11・死なないように頑張ろう
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演習場に戻ると、既にミマのチュートリアルは終わっていた。六人の騎士サマたちに囲まれて、ミマはなにやら照れ臭そうに頬を両手で覆っている。やっぱあいつもちやほやされてるんだな。いいなー。輪の外から指を咥えて眺めていると、ミマがこちらに気づいて手を振った。
「お帰り、チュー君」
「ただいまー。なに、うまくいったん?」
「え? ……秘密。ふふっ♡」
出た、ふふっ(ハート)。うーん、あざとい。やっぱこいつも攻略キャラなのかなあ。騎士サマたちの中にはいないっぽいタイプのキャラだし。
「そうそう、灯士さん。この後は君たちの住む灯士寮を、ジルコンが案内してくれるそうですよ」
話の切れ間を見計らったかのように、緑髪のスマラクトが声をかけてくる。メガネの奥の深緑色をした瞳が、なんだか意味深な雰囲気をかもし出しているのは気のせいだろうか。
「あー、そういやさっき言ってたな。ジルコンって誰?」
「君たちのコンシェルジュ、お世話係をしてくれる方です。実は彼もれっきとした耀燈騎士団の一員なんですよ。諸事情で宣誓の儀には参加できませんでしたが」
「え? だって……」
最後の一人はダイヤモンドなんじゃ、と言いかけて飲み込んだ。あの虹色キラキライケメンがダイヤモンドモチーフだってのは、俺の勝手な思い込みだ。紹介もされてないうちから決めつけるのもよくないか。ジルコン。ジルコンね。
「おっけーおっけー、了解ね。またさっきみたいにワープで飛ぶの?」
「……ワープ?」
「あ、なんでもない。気にしないでください、ハイ」
あからさまに怪訝そうな顔をされてしまった。なるほどね。恐らくあれは演出上の都合で、実際はカットされた部分で歩くなりなんなりして行った設定ってことか。便利機能だなあ、しかし。前世でもこれが欲しかったぜ。そしたら通勤が楽になったし、俺も過労死まではせずにすんだかもしれない。いやそれはそれでこの世界には来れなくなるわけで、ブラックバイトで心と体を擦り減らすのと、いったん死んでイケメンキラキラゲーム世界に来るの、どっちが楽しい人生だって聞かれれば答えは火を見るより明らかなわけで、いや、でも……
なんてことを考え込んでいるうちに、視界は再び白くフェードする。再び世界に色がついたときには、寮はもうすぐそこだ。城から続くレンガ道の先、小高い丘の上に、木立に囲まれた石造りの建物が見える。丘を越えた崖のすぐ下には、夕陽に光る海が広がっているようだ。鼻をひくつかせれば風の中に、ほんのわずかに潮の香りを感じた。なるほどね。便利便利。
「ほぇー、あれが灯士寮? よさそうなとこじゃん」
「そうだね」
ひとり言めいた一言に、返事をくれたのはミマ一人だった。気が付けば騎士サマ方はどこにもいない。解散したのかな。ジルコンとやらが案内してくれるって言ってたもんな。ぞろぞろついてくる意味がないと言われればそうなんだが、ちょっとさみしい。異世界に来て初めて人の温もりを知ってしまった俺。
道沿いに植えられた並木から、ちゅんちゅんと小鳥の声が聞こえる。耳を澄ませば、遠くにかすかな波の音。平和だ。この世界に魔物的なものが潜んでるなんて、いまだにあんまり実感がない。本格的な戦いが始まったら、否が応でも思い知らされることになるんだろうが。やだなあ。死にたくない。死なないように頑張ろう。
舗装されたレンガ道を歩きながら、寮の全景を観察する。簡素な門扉の向こうに見えるのは、二階建ての、寮と言うイメージからすると比較的小ぢんまりした建物だ。三角屋根の建物二棟を、玄関ドアのあるロビー棟が繋ぐつくりのようだが、左右の二棟は日本の、それも都会の一戸建て程度の大きさしかない。とはいえ住むのは多分俺とミマと例のジルコンの三人、それならこれで十分すぎるか。少なくとも前世の1Kと比べりゃ天国みたいだ。
石造りの白壁は今までいた城と同じく、飾り気は少ないけれど堅牢そうではある。あ、でも、石造りってことは冬寒かったりするのかな。それはやだなあ。ま、魔法とかある世界みたいだし、そこらへんはなんとでもなるか。
「……ん?」
レンガ道が終点に近づき、今まさに寮の門へとたどり着こうとしたとき。
入り口ドアのすぐ脇の壁に、小さな掲示板が備え付けられていることに気づいた。なんとなくその内容に目を向けた、その瞬間。
「はぅあっ……!!」
俺の全身に、雷に打たれたかのような衝撃が走った。
「お帰り、チュー君」
「ただいまー。なに、うまくいったん?」
「え? ……秘密。ふふっ♡」
出た、ふふっ(ハート)。うーん、あざとい。やっぱこいつも攻略キャラなのかなあ。騎士サマたちの中にはいないっぽいタイプのキャラだし。
「そうそう、灯士さん。この後は君たちの住む灯士寮を、ジルコンが案内してくれるそうですよ」
話の切れ間を見計らったかのように、緑髪のスマラクトが声をかけてくる。メガネの奥の深緑色をした瞳が、なんだか意味深な雰囲気をかもし出しているのは気のせいだろうか。
「あー、そういやさっき言ってたな。ジルコンって誰?」
「君たちのコンシェルジュ、お世話係をしてくれる方です。実は彼もれっきとした耀燈騎士団の一員なんですよ。諸事情で宣誓の儀には参加できませんでしたが」
「え? だって……」
最後の一人はダイヤモンドなんじゃ、と言いかけて飲み込んだ。あの虹色キラキライケメンがダイヤモンドモチーフだってのは、俺の勝手な思い込みだ。紹介もされてないうちから決めつけるのもよくないか。ジルコン。ジルコンね。
「おっけーおっけー、了解ね。またさっきみたいにワープで飛ぶの?」
「……ワープ?」
「あ、なんでもない。気にしないでください、ハイ」
あからさまに怪訝そうな顔をされてしまった。なるほどね。恐らくあれは演出上の都合で、実際はカットされた部分で歩くなりなんなりして行った設定ってことか。便利機能だなあ、しかし。前世でもこれが欲しかったぜ。そしたら通勤が楽になったし、俺も過労死まではせずにすんだかもしれない。いやそれはそれでこの世界には来れなくなるわけで、ブラックバイトで心と体を擦り減らすのと、いったん死んでイケメンキラキラゲーム世界に来るの、どっちが楽しい人生だって聞かれれば答えは火を見るより明らかなわけで、いや、でも……
なんてことを考え込んでいるうちに、視界は再び白くフェードする。再び世界に色がついたときには、寮はもうすぐそこだ。城から続くレンガ道の先、小高い丘の上に、木立に囲まれた石造りの建物が見える。丘を越えた崖のすぐ下には、夕陽に光る海が広がっているようだ。鼻をひくつかせれば風の中に、ほんのわずかに潮の香りを感じた。なるほどね。便利便利。
「ほぇー、あれが灯士寮? よさそうなとこじゃん」
「そうだね」
ひとり言めいた一言に、返事をくれたのはミマ一人だった。気が付けば騎士サマ方はどこにもいない。解散したのかな。ジルコンとやらが案内してくれるって言ってたもんな。ぞろぞろついてくる意味がないと言われればそうなんだが、ちょっとさみしい。異世界に来て初めて人の温もりを知ってしまった俺。
道沿いに植えられた並木から、ちゅんちゅんと小鳥の声が聞こえる。耳を澄ませば、遠くにかすかな波の音。平和だ。この世界に魔物的なものが潜んでるなんて、いまだにあんまり実感がない。本格的な戦いが始まったら、否が応でも思い知らされることになるんだろうが。やだなあ。死にたくない。死なないように頑張ろう。
舗装されたレンガ道を歩きながら、寮の全景を観察する。簡素な門扉の向こうに見えるのは、二階建ての、寮と言うイメージからすると比較的小ぢんまりした建物だ。三角屋根の建物二棟を、玄関ドアのあるロビー棟が繋ぐつくりのようだが、左右の二棟は日本の、それも都会の一戸建て程度の大きさしかない。とはいえ住むのは多分俺とミマと例のジルコンの三人、それならこれで十分すぎるか。少なくとも前世の1Kと比べりゃ天国みたいだ。
石造りの白壁は今までいた城と同じく、飾り気は少ないけれど堅牢そうではある。あ、でも、石造りってことは冬寒かったりするのかな。それはやだなあ。ま、魔法とかある世界みたいだし、そこらへんはなんとでもなるか。
「……ん?」
レンガ道が終点に近づき、今まさに寮の門へとたどり着こうとしたとき。
入り口ドアのすぐ脇の壁に、小さな掲示板が備え付けられていることに気づいた。なんとなくその内容に目を向けた、その瞬間。
「はぅあっ……!!」
俺の全身に、雷に打たれたかのような衝撃が走った。
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