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奏と田中と その2

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  数ヵ月に一度のペースで招集がかかる、職場の女子会。
  現場で汗を流す女性社員数名だけで構成され、割とキャッキャッした楽しい飲み会になる。
  仕事柄、誰かかれかが夜勤や夜遅くまでの勤務で顔を出せないでいるが、今夜のメンバーは、私的にベストに近い布陣なのだ。
「大月さん、こっちー」
  って!
  おい、待てーーーぃ!
  
  早目に切り上げて帰りたい時に限って、朝から水分も満足に摂れないほど忙しかったりする。
  今日もバタバタとノンストップで動き回り、そのあおりを受けて事務仕事にも手間取った。
  初めて足を運ぶ居酒屋への道のり。もちろん迷い彷徨って、集合時刻より数分遅れでの到着。
  遅れるのは好きじゃない。
  ふぅと少し荒くなった呼吸を整えながら自転車を置き、暖簾を潜ってガララララッと引き戸を開ける。
  心地良い好きな音だ。カランカランっと鳴る喫茶店も好きだが、このタイプもまた捨て難い。
  自然と鼻の穴が膨らみ、むふぅと気持ちの高まった鼻息が出てくる。
  店内はまだ活気に溢れていないようだった。
「いらっしゃーぃ」と活気ある声が響く中、皆はどこだと左から右へ視線を動かしてみる。
「大月さん、こっちー」
  右手にある御座敷タイプのような区切られた箇所から、見慣れた笑顔がひょっこりと顔を出すのが見えた。
  えっ・・・
「大月さん、こっちこっちー!」
  いや、おい待て田中!
  なんでお前がいるんだ!
  ・・・めちゃくちゃ笑顔で手ぇ振っとる。
  今夜は女子会だ!
  じょ・し・か・い・だ!
  その見覚えのある顔は、店員さんが気付いて近づいてくるより少し早く、声を掛けてきたのだった。
『あれ? なんで田中さん・・・』
「付いて来ちゃってさぁ」
「あ! 宮田さん、その言い方はないっすよ」
「お前がいたら、大月さんが松岡を独占できないだろうが」
  疲れた下半身を引き摺るようにとぼとぼと近寄ると、向かって左手の最奥に久保さんがちょこんと座り、小さく手を振りながら会釈をしてくれている。
「お疲れさまです」
  次いで宮田さんと田中さんが、凄く楽しそうにこちらを見ている。
「まぁ上がりなよ」
『はい、お疲れさまです』
  右手の奥には、これまた小っこくて可愛い李っちゃんが「ここ座れやァ」とパンパン座布団を叩いていた。
「かなでん、お疲れー。おゥ、前髪ィ!」
『へへぇ、上げちゃいました。松岡さんまだなんですね』
  私がここに座るということは、隣に松岡さんが来る。思わず『おぉ!』と声に出しそうになった叫びを呑み込む。
  おでこをぺちぺちしてくる李っちゃんと、松岡さんに挟まれる癒し。これだけで今夜はパラダイスじゃないかっ!
  この後に訪れるであろう幸せに妄想の膨らみが止まらなかった。
「とりあえず乾杯しましょう」
  なのに田中よ・・・
  まだ全員揃ってないのに先陣まで切って飲みだそうとするなんて。こういう時だけ張り切りやがって田中!
  幸せムードをぶち壊してくるクラッシャーに、心の中で舌打ちの連呼が止まらない。
  田中さんは悪い人ではない。
  現場では数少ない男性社員だし、意見を言う時は、気持ちが良いくらいズバッと突っ込んで白黒ハッキリしてくれたりする。
  良いことは良い、悪いことは悪いと、現場には出ない上司たちにハッキリと言ってくれる頼れる一面は、先輩ではあるが私的に一目置いている。
  問題は、会議をサボる癖だ。それと何度も言うが、松岡さんの心を射止めた事実。
  先週なんか、二人っきりでディズニーランドに行きやがって、くそーーーーー!
「これ食べちゃっていいのかなァ?」
「李ーちゃん食べちゃいなよ」
「田中うるさい、一応女子会だ」
『宮田さん、もっと言って下さい』
  松岡さんがセッティングしてくれた、掘りごたつっぽいテーブルの居酒屋さん。
  本人はまだ未到着だが、すでに料理とドリンクが運ばれてきている。犯人の目星は付いているが、宮田さんもいるから、きっと先にやっちゃうかってなったんだろうな・・・
『松岡さん、遅くなりそうなんですか?』
「もうすぐ来るけどね。いいよ、李ぃ食べちゃえ」
  趣味はお酒と仏像グッズ集め。
  仏様が描かれていたりするアイテムなら基本喜んで受け取ってくれるし、最近はガチャガチャで販売されている仏像グッズ収集に余念がない。
  私の指導係に付いて下さった時から、優しさと鬼軍曹になる厳しさと、意外とあっさりテンパって泣きそうになる一面も持ち合わせている、阿修羅的スナックのママ。宮田さんは、そんな大好きな先輩だ。ハスキーボイスは酒焼けではない。
「かなでん、取り分けてあげよォか。どれがいィ」
『その炒め物みたいなの美味しそうですね』
  んじゃ、と勢いよくお箸を進める小さい女の子。女の子なんて言うと失礼か。
  私も含め、ほとんどの職員が李ーちゃんや李っちゃんと呼ぶマスコット的存在。久保さんよりも小柄で、明るく楽しく、いつも笑ってる印象で、ひたすら可愛いアニメオタク。
  久保さんと合わせて「ミニオンズ」なんて言われてる李っちゃんが、コスプレしている姿は言うまでもない。可愛い!
「で、何から愚痴る?」
  おい田中、活き活きしてんじゃねぇよ。
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