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魔王に繋がれちゃいました

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 監禁された日から3日目。

 オースティンの屋敷の中でも、一番極上と言われている部屋のふかふかのベッドの中で、私は朝を迎えていた。

 監禁されているなんて思えないくらい。何の不自由もなく…私はオースティンに仕えている魔法使いたちにとても良く尽くしてもらっていた。

魔王城にいる時よりも…

ずっと平穏だし、とても落ち着いた時間を過ごせているんだよね。

だから余計に…魔王に対して、少しだけ罪悪感みたいなものを私は感じ始めていた。だって、こんな風に至って快適に…監禁生活を過ごしていることが、魔王にバレたら…きっと魔王はブチ切れるよね。怒りに満ちてる魔王を想像するだけでも…足がもう震えちゃってる。

 あ、あと…罪悪感とは別なんだけど。昨夜から、背中にズキズキと焼けるような熱と痛みを感じていて。なんとか眠ろうと、私がゆめうつつになるたびに…魔王の私を呼ぶ声が、耳元でハッキリと聞こえたりしていたんだよね。

それで、朝になって服を脱いで鏡で背中を見てビックリして思わず声をあげてしまった。


「イヤァーーーーーーーー!!」


「何なのこれ? もしかして…これが魔王の印ってやつ?」

私の背中に、見たこともない刻印のような痣が赤く浮き上がっていたの。

それに…浮き上がってる痣を見たら、すごく嫌な予感がして。

慌てて私が部屋を出て、屋敷の最上階の部屋の窓から外を覗いてみたら、かなり遠くからだけど、何かが飛んでこちらへ向かって来るのが微かに見えた。

魔王だ…魔王は、私を見つけたんだ。

 私は、魔界に来た夜に魔王が私に自慢げに話していたことを思い出していた。

魔王が付けた印がある限り、私がどこにいても魔王には、私を見つけられる…

確かに魔王はそう話していた。

「やばい。やばい。やばい。魔王に結界なんて意味なかったんだわ。早くオースティンに伝えてみんなを連れて逃げてもらわないと。魔王ってば、きっと屋敷中の魔法使いを殺してしまうかも!」

 私はオースティンの部屋へノックもせずに飛び込むと、魔王がこの屋敷に真っ直ぐに向かって来ていることを伝えた。

「そうですか。やはりあなたと魔王は、その背中の刻印で繋がっているのですね。それにしても……。美乃里さまは、本当にお優しいのですね。監禁していた私どもの身を案じて下さるなんて」

「監禁って言ったって! 別に何も酷いこともされてないし。みんな、私に優しくしてくれたもん。だから、早くどこかへ逃げて! このままじゃ、みんな魔王に殺されちゃうよ!」

 一時でも早く逃げるように私が説得していると、オースティンは急に私の腕を掴んで抱き寄せると、私をギュッと強く抱きしめていた。

「世を捨てたはずのわたくしも。この3日間。美乃里さまのお陰でとても有意義に過ごすことが出来ました。いつか必ず…あなたをあの魔王から奪ってみせましょう。出来ることなら、このままあなたを連れ去ってしまいたいくらいですよ」

「あの? オースティン? えっ? あっ!?」

 オースティンはベッドへ私を押し倒して優しく唇を重ねていた。

それから、もう一度ギュッと私を抱きしめてから、とても名残惜しそうにジッと私を見つめていた。

「オースティン? 早く。早く逃げて! お願い」

 少し震えている私の言葉を聞いて、オースティンは静かに頷いて起きあがってローブを纏うと…屋敷にいる魔法使いたちを連れて黒い闇の中へ消えてしまった。

 暫くして…。

たった1人で魔王が屋敷に乗り込んで来た頃には、私だけが残されていて他に誰もいなかったから、魔王はすごく不満そうだった。

「オイ! あのババァどこ行きやがった? それに他にも誰かいたんだろ?」
「私は…。私は、ずっと暗い部屋に監禁されていたから。何も知らない。エルザしか見てない」

 何だろう? 魔王の顔を見てホッとしたのか? それともオースティンとの別れが悲しかったのか? 嘘をついている罪悪感からなのか? 私の瞳からはポロポロと涙が溢れて止まらなくなってしまった。

「あ~。オイ! まいったなぁ~。マジで泣いてんじゃねえぞ。バ~カ! もういい。面倒臭えから…さっさと帰るぞ!」
「う、うぇっ。うぇっ。うん」

 その冷たい台詞とは裏腹に。魔王は、泣いている私をしっかりと抱き抱えて魔獣に乗せると、優しく指先で涙を拭ってくれていた。私はやっぱり魔王といると、胸が熱くなって苦しくてドキドキしていた。


 魔王城へ帰ると、小さい魔物たちや魔王軍の兵士たちが私の無事をとても喜んで迎えてくれていた。私が部屋へ戻るとすぐに小さい魔物がやって来た。そして、私を浴場へ連れて行って身体の隅から隅までゴシゴシ洗って、岩盤に寝かせていつもよりも念入りにオイルマッサージをしていた。

 私がスッキリと綺麗になって部屋へ戻ると、魔王はすぐに私をベッドに押し倒して胸に顔を埋めて横になった。

「やっぱり。これがないと落ち着かね~わ。ムフフフ♪」
「もう~! 帰って来てすぐにド変態モード全開?」

 私が少し呆れた顔をしていると、魔王は埋めていた顔を少しだけ上げてニィっと笑って再び胸の感触を楽しんでいた。

「3日も、ろくに眠ってねえんだ。黙って寝かせろ…」

 魔王は、そう耳元で呟くと…また、胸の谷間に顔を埋めて、今度は本当に気持ち良さそうに眠ってしまった。

魔王の寝顔を見つめながら、私は少し胸が痛くなった。

私がオースティンに抱きしめられてキスされたことを魔王が知ったら?

…魔王はどうするんだう?

 オースティンが、私を魔王から奪いに来るって断言していたけど。

私は…オースティンのことを出来れば魔王に話したくない。

 オースティンが、私を誘拐したのは平穏のためで…戦争をするためではなかったし。監禁されていたと言っても。私をとても大切に扱ってくれていた。あの優しい魔法使いたちを私は全力で守りたいと言う思いでいっぱいだった。


 翌日。


魔王はベッドから起き上がると、寝不足で目を擦っている私を衣装部屋へ連れて行って魔物たちに出掛ける支度をさせていた。

「今日からお前をずっとオレ様の側においてやる。また、お前を連れ出されたらたまんねえからな!」
「ちょっと? マジで言ってんの? ずっと一緒にって? 無理に決まってるでしょ?」

 私が驚いて魔王に聞き返した時には、魔王は平然とした顔でケラケラと笑って私に鎖の付いた皮の鍵付きの拘束用の腕輪を左手にはめてから、自分の腕にもう片方の腕輪をしていた。

「えっと。これは何? どうしてこんなことしてるの?」
「これは念には念をってやつだ。魔法使いのババァがまたお前を狙って来るかも知れねえからな! お前がオレ様と繋がってればババァも簡単に手を出せねえだろ~? クククク」

 魔王は嫌がる私のことは全く気にしていなかった。気にするどころか、何か新しい遊びでも始めた小さい子供みたいな顔をしている。そして、魔王はそのまま私を連れてベルゼブブの所へ向かった。


 魔王に繋がれたままベルゼブブが待っている魔王軍の司令室に入ると。私と魔王の姿を見たベルゼブブは目を見開いて固まっていた。しかし、この状況を把握出来たのか? ベルゼブブはクスクスと声を出して笑い出した。

「ククククク。オイ、魔王。また連れ去られでもしたら大変だからって、自分の腕に奥方を繋いで連れて回るっていうのか? 勘弁してやれよ~。それじゃ~奥方が気の毒すぎるぜ!」

「うるせえ! お前は黙ってろ。こいつはオレ様のモンだからオレ様の好きにして何が悪い?」

 ベルゼブブが固まっていたのは、私と魔王の姿があまりにも滑稽で思わず吹き出しそうになったのを私の為に堪えてそうなったようだった。でも、結局は我慢しきれずにベルゼブブは、ガハガハといつまでも笑っていた。

「だから無理って言ったのに! こんなの恥ずかしすぎるから外して!!」
「嫌だね。絶対にはずさねえ! お前は大人しくオレ様に繋がれてろ!」

 私が怒って腕輪を外せと腕を引っ張って暴れたら、魔王はすぐに私を抱き抱えて押さえつけると、猿ぐつわをして口を塞いで両手も後ろ手に縛って椅子に拘束してしまった。

「オイオイ! それじゃ~囚人じゃねえか? ちょっとやり過ぎだろ?」
「だから! お前も黙ってろ! コイツはオレ様のモンだって言ってんだろ?」

 魔王が青筋を立てて叫ぶと、さすがにベルゼブブも諦めてそれ以上何も言わずに仕事にとりかかっていた。

「兵士たちからの報告だと、奥方を連れ去ったのは紛れも無く大魔法使いオースティンの手の者らしい。エルザはオースティンの率いる魔法使いたちの幹部の1人だったそうだ」
「何が目的だ? オレ様か? それともコイツの魔力か?」

 私が黙っていても魔王軍はオースティンのことを突き止めてしまったようだった。魔王はオースティンの目的が何かをベルゼブブと考えているようだった。

「オースティンは世を捨てたと言われるほどに争いを嫌う大魔法使いだからな。まさか魔王にケンカを売ろうなんて考えちゃいないだろう。だとすれば…奥方だなぁ~」
「奴は美乃里の魔力が何なのかを知ってて連れ去ったんじゃねえか? 昔からいけ好かないやつだったからな。オレ様のことを信じちゃいねえんだよ!」

 2人の会話を横で聞きながら、私はオースティンとのことを魔王に問い詰められたらどうしようかとドキドキしていた。

「オイ! やっぱ。お前…もしかして、オースティンを庇ってんじゃねえだろうな?」

 私はすぐに首を左右に振って否定したけど…背中には、嫌な汗が流れていた。

どうやら、魔王とオースティンには…私の知らない何か因縁のようなものがあるようで、この先どうなるのか…私は不安しか感じられないでいた。
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