オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

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手術の日取りと思いがけない来客

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ジメジメと湿気の多い蒸し暑い日が続いていた。相棒も推定生後半年を過ぎて犬歯も大人の歯に生え変わっていたので、7月の最初の土曜日に相棒の去勢手術の日取りを決めるために、オレは相棒と一緒に動物病院へ訪れていた。

「来週ぐらいからは、雨の日も少なくなって少し過ごしやすくなりそうやし、手術するなら来週の週末でええんとちゃうかな?」
「ほんまですね。こいつもだいぶ大きくなってしもたし、来週がええかも知れませんね」
「心配無いですよ。チビちゃんは健康優良児やし、僕が責任持って手術しますからね」

少しオレが不安を感じていることを察してくれた若先生が、ニッコリ笑顔でオレの背中を軽く叩いて元気付けてくれていた。

「大丈夫です。先生のことは信頼してます。そしたら、来週の土曜日にこいつの手術。よろしくお願いします」
「うんうん。任せておいてください」

オレは若先生の両手を握り締めて頭を下げて、相棒のことをよろしくとお願いしてから診察室を出た。

「誠二さん、チビちゃんのことになるとほんま過保護なお母さんみたいになるよね。フフフ」
「え!? マジで? そんな風に見えるん?」
「うんうん。もう、チビちゃんが可愛くてしょうがないのがすぐ顔に出るし、今もやっぱりまだ心配そうに見えるもん」
「参ったなぁー。へへへ」

待合室に誰もいなかったので、彼女は受付から出て来てオレの顔をのぞき込んでクスクスと笑っていた。そして、キャリーの中で大人しくしている相棒を見つめながら、彼女はオレの耳元で呟いていた。

「たまにやけど、チビちゃんに私…ヤキモチ焼いてるしね」
「おいおい、猫にヤキモチ焼いてもしゃーないやろ?」

彼女の言葉にオレが笑って返しながら、立ち上がってドアを開けて外に出ると彼女は膨れっ面をして見せて「やっぱり誠二さんは、女心がわかってないわ」と言ってクスクス笑いながら受付に戻って手を振っていた。

✡✡

 オレは彼女の言葉に少し疑問を持ちながらも、深くは考えずに相棒を連れて伯母の店へ寄ることにした。

「あれ? せいちゃん? チビちゃんどうかしたんか?」

オレが店の戸を開けて中へ入ると、伯母が少し心配そうに聞くのでオレはちゃうちゃうと笑って相棒を座敷へ出してやった。

「あれや、あの。去勢手術の日取りを決めてきてん」
「ああ。去勢手術な。そやそや、もうそんな時期やったわ。大きくなるん早いよなー」
「もう、7月やからな。こいつを連れてきたんが、3月やったからね。あっという間やね」

座敷でがんもとミケに寄り添って丸くなってる相棒を眺めながら、オレは伯母が入れてくれた冷たい麦茶を飲んで一息ついていた。

「ところで。最近どうなん? ユイちゃんとは…」
「ははは。気になる? なんとか上手いことやってるで。大事にしたらなアカンとは、思ってるからね」
「せいちゃんのことやから、信用してるし、ユイちゃんのママの理緒ちゃんもほんまに喜んでくれてるから心配はしてないんやけどな…。それでも、高校生やからなぁ」

伯母は苦笑してオレの顔をジッと見つめて少しため息を吐いていた。すると、横で仕込みの手伝いをしていた比奈がクスクスと笑って、伯母の背中を軽く叩いて元気付けていた。

「オカンはせいちゃんが傷つかへんかを心配してるらしいわ。ほら、やっぱりユイちゃんも高校生やろ? どこでどう気持ちが変わるかなんてわからんやん!」
「ああ。まぁ…大丈夫やで。そのへんはオレも承知の上で付き合ってるし、振られるのにも慣れてるからな。へへへ」

 学生の頃からやけど、付き合ったとしても相手がオレに愛想をつかして去って行くんよね。共通点は「女心がわかってない」と言われることかな? オレもその辺は納得している。女心なんてわかるわけが無いしね。

残っていた麦茶を飲み干して伯母には、そんなに心配するなと念を押してからオレは相棒を連れて家に帰った。

家に帰ると部屋の明かりがついていて、オレが鍵を開けて入ると聞き覚えのある声で「おかえりー」と言われたので急いで中へ入って台所を見ると、母の光江が満面の笑顔でオレを迎えていた。
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