オレと猫と彼女の日常

柳乃奈緒

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三十路男の苦悩

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✡✡✡✡✡✡


結局。

あの彼女からの、告白メールのおかげで
オレは、一睡も出来んかった。
寝られるわけがない。
こんなおじさんに、
あんなかわいい女子高生が、何を血迷ったのか

「大好きです〰」やなんて…ありえへんわ。

眠い目を擦りながら、布団から
這い出たオレは、いつも通り顔を洗って
適当に髪の毛をセットしてから
相棒に缶詰とミルクをやって、
出勤する準備を整えていた。

昨日の予防注射の影響なんやろか? 
相棒がやけに大人しい。

オレは、気になっていたけど相棒を
キャリーへ入れて、急いで『黒猫』へ向かった。

✡✡✡✡✡✡

「おはよう! あれ?……。 せいちゃん。
なんか、目が充血してるで! 大丈夫か?」
「おはようございます。ちょっとね。へへ。
あの、こいつ。昨日、予防注射したんやけど…
なんか、今朝は少し大人しいんです。そやから
なんかあったら、連絡してください。お願いします」
「わかった。注射の後は、がんももミケも
確かに大人しくなるわ。多分、大丈夫やろけど。
今日1日は、気をつけて見とくから、安心して」

『黒猫』へ入って、オレの顔を見て
すぐに伯母に、目が赤いことに突っ込みを
入れられて、オレはドキッとしたけど
笑ってはぐらかしてから、相棒がいつもより
大人しいことを告げて、キャリーを伯母に手渡した。

「それにしても、だいぶチビちゃん大きくなったよな! 
ふたまわりくらい? やっぱこれって、名前に反して
大きく育つんちゃうの? フフフ♪」
「そうやねん。昨日も、病院で院長の若先生に
こいつは、でかなりそうやて言われてしもて…」
「まぁええやん! 元気に大きく育ってくれたらええ!」

伯母は、相棒をキャリーから出すと
膝へ抱っこして、優しく頭を撫でてやってくれていた。

「やっぱり、子猫って良いですね。クマも
こんな風に小さかったのに。今では、ほんま
大きく育ってしもて、あの貫禄ですわ」
「こいつも、クマちゃんくらいは大きくなりそうですね」

『黒猫』の看板猫のクマちゃんも
マスターの言うとおり、それなりの貫禄と
存在感をタップリかもし出してカウンター席の
一番奥の席で、丸くなって眠っていた。

朝飯を済ませたオレは
相棒のことが気がかりなのと
彼女と、どんな顔をして会えばいいのかが
わからなくて、後ろ髪を引かれる思いで
『黒猫』を出て、駅へ向かっていた。

「まいったなぁー…」

ホームへ向かいながら
オレはスマホを眺めながら、本音をつぶやいていた。

「誠二さん! こっち!」
「あ、……」

悩む暇もなくオレの目の前に
ホームで手を振って、オレの名前を呼んでいる彼女がいた。

「おはようございます。誠二さん♪」
「お、おはようー! 朝から元気やな! さすが女子高生や」

出来るだけ意識せんように
いつも通りにオレが、冗談を言って笑ったら
彼女は、少し膨れっ面をしてみせて
オレの顔を、ジッとのぞき込んで来た。

「酷い! 子ども扱いしないで下さい!」
「あはは。ごめん、ごめん。そやな!」

オレが心配していたよりも
彼女との会話は、いつもと何ら変わりない
自然なおじさんと、女子高生の会話で
特にあのメールのことを、彼女は
触れてくる様子はないようだったので
オレは、内心ホッとしていた。

「チビちゃん、大丈夫でしたか?」
「ああ。少しだけ元気がないから、伯母さんに
一応気をつけといてくれってな、頼んどいたんや」
「私も、学校の帰りにお店、のぞいて見ますね」

電車の中で、相棒のことを彼女は
心配してくれて、オレに聞いてきたので
少し、食欲が落ちて大人しくしてることを
彼女に話すと、彼女も心配して
学校の帰りに伯母の店に寄って様子を
みてくれると言って、ニッコリ笑っていた。

そして、何気ない会話を続けていると
電車が揺れて、彼女はとっさにオレの手を
ギュッと握って、そのまま離さなかった。

オレだって、別に女に免疫がない訳ではない。
3年前までは、付き合っていた彼女もいた。

それでも、やっぱりこの歳で女子高生はアカン。
そうオレは、自分に叫んで頭の中で苦悩していた。

「誠二さん? 大丈夫? 具合悪そうやけど……」
「え? あ。大丈夫、大丈夫。猫が心配で
昨日あんまり寝てないからやと思うわー。ハハハ」

オレは、彼女に大丈夫かと聞かれて
背中を伝う汗を感じながら、上手く話をごまかした。

そして、いつものように彼女は一つ手前の駅で
降りてホームから、オレに笑顔で手を振っていた。

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