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婚約宣言
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✦✦✦✦✦
あの日から…
しばらくの間は、真澄さんも
関東へ戻って、本当にややこしい
依頼を片付けるのに忙しそうだった。
私が、織衣さんに呼ばれて
遊びに行くことはあったけど…
穏やかで、平和な日常を過ごしていた。
12月に入って
私の居る部署の仕事も
忙しくなり、あの日の真澄さんとの
出来事が、夢だったのかも…
なんて、思えるようになっていた。
12月最大のイベント
【クリスマス・イブ】の当日は、
退社後に予定のある
社員ばかりのようで…誰もが、
黙々と必死に仕事を終わらせて
定時でタイムカードを押して
一目散に帰って行った。
勿論、順子や祐介も同じだった。
私も、織衣さんと約束していたので
急いで帰る支度をしていると…
スマホに着信が入って、誰かと思ったら…
実家からだった。
「もしもし~、光ちゃん? 仕事中やった?」
聞こえてきたのは、美郷ちゃんの声だった。
「大丈夫やで、今から会社出るところやけど…どうしたん?」
「ごめ~ん。徹哉がどうしても電話しろっ言うて
ひつこいから、電話したんよ…光ちゃんが、真澄さんと
二人きりでデートなんちゃうか?って昨日から、ずっと
LINEして来て落ち着かへんねん!!」
私のことよりも、自分の嫁が
浮気しないかとかを、もっと
心配した方がええのに…
困った変態シスコン兄貴やわ。
「美郷ちゃんが、謝ること無いし…徹兄が、
アホなだけやから…出来の悪い兄貴で、ほんまごめんね」
私が、謝って溜め息を吐いてると…
優しい美郷ちゃんは、明るく笑っていた。
「大丈夫。徹哉がシスコンってことは、理解した上で
一緒になったんやから、これぐらいはどうってことないよ」
「ありがとう♡実は、今日は真澄さんじゃなくて…
織衣さんに来て欲しいって言われてるんで、これから
行くんやけど…真澄さんは、まだ関東やと思うし。
心配されるようなことはないって、徹兄に私からLINE送っとく」
念の為に美郷ちゃんには、私が自分で
徹兄にLINEを入れておくと答えた。
「もしかしたら徹哉な。今夜にでも、新幹線で
帰って来そうな勢いやったから…気をつけてね!」
美郷ちゃんは、そう私に念を押すと…
電話の向こうで、大きな溜め息を吐いていた。
嫌な予感がするけど…
織衣さんが今日は、温泉に入って
一緒に食事をしようって
わざわざホテルを予約してくれてるし、
私も楽しみにしていたから
邪魔はされたくなかった。
念のために、
私はその旨を徹兄にLINEしておいた。
会社を出ると…
師匠が、車で迎えに来てくれていたので
そのままホテルに向かうことになった。
織衣さんは、昨日から
温泉のあるホテルで、療養してるらしい。
「お疲れなのにすみません。ご実家で過ごされる
予定だったんじゃないですか? いつもいつも母の我儘に
付き合わせてしまって…光さんには、申し訳ないと
思ってるんですが、母はどうも息子よりも光さんと一緒に
過ごしたいらしくて。本当に申し訳ないです」
師匠は、本当に申し訳無さそうに
苦笑してから、頭を下げていた。
「謝らないで下さい。嫌ならお断りしてますし…
父も母も織衣さんが、私を娘のように可愛がって
下さってることには、本当に感謝してるんです」
私は、織衣さんへの思いを師匠に話していた。
「父も母も織衣さんがいなかったら、私は生きては
いなかっただろうって言ってました。10歳の頃のことなんで、
私も憶えてるんです。病院で、織衣さんが声をかけてくれて、
師匠と織衣さんが助けてくれたから、私は今ここにいるんです。
だから、命の恩人は大切にしないと」
私の言葉を聞いて…
師匠は、凄く嬉しそうに微笑んでいた。
ホテルに着いて、部屋へ行くと…
織衣さんが待っていた。
「光ちゃんおかえり! 食事の前に少し温泉入ろう~♪」
私が、返事をする間も無く…
そのまま、織衣さんに手を引かれて
温泉へ連れて行かれてしまった。
温泉へ入って織衣さんが、
私の背中を流しながら、
珍しく真面目な口調で言った。
「やっぱり、徹ちゃん。この傷のことを…まだ、
気にしてるんやね。これだけ大きい傷やから
感じる責任も、大きいんやろね」
背中にザックリと、
大きく斜めに入った傷跡を…
織衣さんは、指の先でなぞって
何か考えてるようだった。
部屋へ戻って、私と織衣さんが
食事をしている時に、少し楽しそうな
様子の師匠が、織衣さんに報告に来た。
「先程、真澄から連絡が入って、今日中には
こちらへ来る予定にしているそうです。光さんが
ここへ来られていると話したら、とても喜んでましたよ♪」
そして師匠は、私の方を見て
ニッコリと笑っていた。
真澄さんとは、あの日から
ずっと会っていないので、正直…
会って、何を話せば良いのか困ってしまう。
気持ちの整理と言っても…
どう整理するかも、判らないままだったので
何か期待されていたら、
どうすれば良いのか…私は急に
この場から、逃げ出したくなっていた。
食事の後…
織衣さんと話し込んでいたら
23時を過ぎてしまっていた。
織衣さんには、泊まって行きなさいと
言われたけど…明日も、朝から
仕事だったので、急いで私が
帰る支度をしていると、織衣さんは
私に可愛くラッピングされた小さな箱を手渡した。
「最近、光ちゃんがまた…地縛霊に関わることが
多くなってるって、龍安から聞いてたからね。
これを持ってて欲しいのよ」
箱を開けてみると…
中には、新しい高そうな数珠が入っていた。
凄く綺麗な水晶と翡翠の数珠だった。
私は、織衣さんにお礼を言ってから、
織衣さんに用意していた
プレゼントの包みを手渡した。
包みを開けて出てきた
カシミヤの藤色のストールを羽織って
織衣さんは凄く喜んでくれていた。
「ありがとう~♪ 嬉しいわ~♪」
そして、嬉しそうに笑って…
後ろから抱きついてハグして来た。
「凄く良くお似合いですね。母上様♪」
すぐ後ろで、
聞き覚えのある声がしたので
声の方へ振り返ると…
両手を広げて真澄さんが立っていて、
後ろから織衣さんが、私の背中を
押したので…私は、真澄さんに
しっかり抱きしめられてしまった。
そのまま真澄さんは、
私を抱きしめたまま
しばらく離してくれなかった。
「そろそろ、離してあげてもらえる? 光ちゃんに
嫌われてしまうと、真澄も困るでしょ?」
「そうですね~。嫌われるのは、遠慮願いたいので…
名残惜しいですけど…フフフ(笑)」
真澄さんは、クスクスと笑って
やっと私を開放してくれた。
「私は別に部屋を取ってあるから、ここでゆっくり
二人で過ごして頂戴ね。邪魔者は退散するわ~♪(笑)」
織衣さんは、楽しそうに笑いながら…
自分の部屋へ帰ってしまった。
「うちの母は、早く私たちの赤ん坊の顔が見たいようですね♪」
真澄さんは、意地の悪い顔をして私に言った。
こんな日に…こんな場所で
男と女が二人っきりですることは、
一つしか無いでしょ…
織衣さんも無茶なことをしてくれる。
この間のことで、少し鈍くなって
しまったのだろうか?
真澄さんを目の前にして、私は
逃げ出そうとは、考えていなかった。
いっそこのまま…なるように
なってしまった方が、気持ちの整理も
つくのかもしれないなんて…
私が覚悟を決めていると、真澄さんが
意外にも紳士的な行動に出た。
真澄さんは、私の前に跪いて私の手を握っていた。
「こういうことはですね。やはり順序を守らなくては、
紳士とは言えませんからね。まずは、光さんの
気持ちを確認しておかないと」
「私の気持ち…ですか?」
真澄さんの問いに…
私が、戸惑っていると…
真澄さんは、私に顔を近付けて
私の気持ちを確かめていた。
「私と婚約して頂けますか? 本当は、すぐにでも
結婚したい所なんですが。まずは、婚約しましょう♡」
真澄さんは、満面の笑顔で私に向かって
右手を差し出している。
「私なんかで…本当に良いんでしょうか?
真澄さんは、本当に私と結婚したいんですか? 本当に?」
「勿論です。本当に結婚したいと思っています。私は、
初めて光さんに会ったあの日から…私の相手は
光さんしかいないと思っていました。光さんも私と
同じ気持ちでいてくれていると…確信していましたしね」
やっぱり、真澄さんは
私の気持ちをずっと前から知っていたんだ。
私と真澄さんが、初めて出会ったのは…
私が14歳で、真澄さんは20歳だった。
あの日
私は、真澄さんに一目惚れしてしまったんだ。
でも、歳の差もあるし…
叶うはずのない恋だと、そう思い込んで
諦めて、その気持ちを心の奥にしまってしまった。
「あの時…私も光さんに一目惚れしていたんですよ」
真澄さんは、嬉しそうに言った。
「もう…良いですよね。私は、十分待ったと思うんですよ」
真澄さんは、そう言って私を抱き寄せていた。
抱き締められた私は、
嬉しくて涙が止まらなくなっていた。
「降参です。そうです…出会った日から、
私は、真澄さんのことがずっと好きでした」
私は、真澄さんの背中をギュッと
抱きしめ返して、自分の思いを告げていた。
「やっと…光さんを捕まえました。…それでは、
最後の仕上げに行かなくては…ね♪(笑)」
真澄さんは私の耳元でそう呟くと、
急いで私の手を握りしめて
車に乗ってホテルを後にした。
最後の仕上げという意味を
確かめる間も無く、そのまま
二人を乗せた車は、マンションを通りすぎて
私の実家の前でようやく止まった。
「ご両親には、先に私から連絡しておきましたので行きましょう」
いつ? 両親に連絡を入れていたんだろう?
真澄さんは、私を連れて車を降りると
玄関のインターホンを押していた。
すると、家の中から、すぐに美郷ちゃんと
お母さんが青い顔をして出て来て…
小声で訴えて来た。
「どうしても…我慢しきれんようになったみたいで…
徹哉が、帰って来てしまってん。ごめんね。光ちゃん!」
「真澄~~!! 貴様~~~!!」
徹兄をどう対処するかを
考えている暇などなく…勢い良く
叫びながら、徹兄が家の中から、
飛び出してきて…真澄さんに殴り掛かって来た。
その瞬間、後から追いかけて来た
お父さんが、徹兄をしっかりと
羽交い締めにして、徹兄を止めていた。
さすが空手の黒帯保持者やわ。
「こんな遅くに玄関先で、大声を出すな! お前は、
さっさと中に入っとれ!」
お父さんは、徹兄をそのまま
ずるずると引きずって家の中に入った。
「夜分遅くに申し訳ありませんでした。少しでも早く…
ご両親にご報告をしたいと思ったので、無理を言って
来てしまいました。今日、やっと光さんの同意が
得られて、改めて婚約させて頂きました」
真澄さんは、両親に
深く頭を下げて挨拶をしていた。
お母さんもお父さんも
微笑んで、祝福してくれていた。
「わかっています。私たちも…どれだけこの日を待っていたことか…」
お母さんは、瞳に少し涙を浮かべて喜んでくれていた。
しかし…
徹兄は、諦めきれずにまだ暴れている。
「俺がそんなこと許さん! お前なんかに光はやらん! 絶対やらん!」
お父さんに羽交い締めにされたまま…
徹兄は、頑張って抵抗していた。
「離せ! この! クソオヤジ!!」
お父さんに向かって、
徹兄が叫んだのと同時に…
美郷ちゃんが、徹兄の右頬を
思いきり張り倒していた。
「もういい加減目を覚まし! みっともないで徹哉!」
さすが…元ヤンなだけに怒ったら怖い。
「徹兄! 私のことを大切に思ってくれてるんやったら、
真澄さんとの結婚を…許して欲しい。お願い!!」
私が徹兄の手を取って説得していると…
真澄さんが、徹兄の前に立って
顔を突き出して言った。
「そうですね…一発くらいは殴らせてあげても良いですよ。
あなたの大事な姫君を頂くのですからね。フフフ」
涼しい顔をして笑うと…
真澄さんは、ゆっくりと目を閉じていた。
徹兄は真澄さんを前にして、
凄く悔しそうに握りしめた拳を震わせていた。
「絶対…絶対に幸せにするって約束出来るんやな!
光を不幸にしたり泣かせたら、俺が絶対に許さへんからな!」
徹兄はそう叫ぶと…
真澄さんの胸ぐらを掴んだまま
泣き崩れてしまった。
あの日から…
しばらくの間は、真澄さんも
関東へ戻って、本当にややこしい
依頼を片付けるのに忙しそうだった。
私が、織衣さんに呼ばれて
遊びに行くことはあったけど…
穏やかで、平和な日常を過ごしていた。
12月に入って
私の居る部署の仕事も
忙しくなり、あの日の真澄さんとの
出来事が、夢だったのかも…
なんて、思えるようになっていた。
12月最大のイベント
【クリスマス・イブ】の当日は、
退社後に予定のある
社員ばかりのようで…誰もが、
黙々と必死に仕事を終わらせて
定時でタイムカードを押して
一目散に帰って行った。
勿論、順子や祐介も同じだった。
私も、織衣さんと約束していたので
急いで帰る支度をしていると…
スマホに着信が入って、誰かと思ったら…
実家からだった。
「もしもし~、光ちゃん? 仕事中やった?」
聞こえてきたのは、美郷ちゃんの声だった。
「大丈夫やで、今から会社出るところやけど…どうしたん?」
「ごめ~ん。徹哉がどうしても電話しろっ言うて
ひつこいから、電話したんよ…光ちゃんが、真澄さんと
二人きりでデートなんちゃうか?って昨日から、ずっと
LINEして来て落ち着かへんねん!!」
私のことよりも、自分の嫁が
浮気しないかとかを、もっと
心配した方がええのに…
困った変態シスコン兄貴やわ。
「美郷ちゃんが、謝ること無いし…徹兄が、
アホなだけやから…出来の悪い兄貴で、ほんまごめんね」
私が、謝って溜め息を吐いてると…
優しい美郷ちゃんは、明るく笑っていた。
「大丈夫。徹哉がシスコンってことは、理解した上で
一緒になったんやから、これぐらいはどうってことないよ」
「ありがとう♡実は、今日は真澄さんじゃなくて…
織衣さんに来て欲しいって言われてるんで、これから
行くんやけど…真澄さんは、まだ関東やと思うし。
心配されるようなことはないって、徹兄に私からLINE送っとく」
念の為に美郷ちゃんには、私が自分で
徹兄にLINEを入れておくと答えた。
「もしかしたら徹哉な。今夜にでも、新幹線で
帰って来そうな勢いやったから…気をつけてね!」
美郷ちゃんは、そう私に念を押すと…
電話の向こうで、大きな溜め息を吐いていた。
嫌な予感がするけど…
織衣さんが今日は、温泉に入って
一緒に食事をしようって
わざわざホテルを予約してくれてるし、
私も楽しみにしていたから
邪魔はされたくなかった。
念のために、
私はその旨を徹兄にLINEしておいた。
会社を出ると…
師匠が、車で迎えに来てくれていたので
そのままホテルに向かうことになった。
織衣さんは、昨日から
温泉のあるホテルで、療養してるらしい。
「お疲れなのにすみません。ご実家で過ごされる
予定だったんじゃないですか? いつもいつも母の我儘に
付き合わせてしまって…光さんには、申し訳ないと
思ってるんですが、母はどうも息子よりも光さんと一緒に
過ごしたいらしくて。本当に申し訳ないです」
師匠は、本当に申し訳無さそうに
苦笑してから、頭を下げていた。
「謝らないで下さい。嫌ならお断りしてますし…
父も母も織衣さんが、私を娘のように可愛がって
下さってることには、本当に感謝してるんです」
私は、織衣さんへの思いを師匠に話していた。
「父も母も織衣さんがいなかったら、私は生きては
いなかっただろうって言ってました。10歳の頃のことなんで、
私も憶えてるんです。病院で、織衣さんが声をかけてくれて、
師匠と織衣さんが助けてくれたから、私は今ここにいるんです。
だから、命の恩人は大切にしないと」
私の言葉を聞いて…
師匠は、凄く嬉しそうに微笑んでいた。
ホテルに着いて、部屋へ行くと…
織衣さんが待っていた。
「光ちゃんおかえり! 食事の前に少し温泉入ろう~♪」
私が、返事をする間も無く…
そのまま、織衣さんに手を引かれて
温泉へ連れて行かれてしまった。
温泉へ入って織衣さんが、
私の背中を流しながら、
珍しく真面目な口調で言った。
「やっぱり、徹ちゃん。この傷のことを…まだ、
気にしてるんやね。これだけ大きい傷やから
感じる責任も、大きいんやろね」
背中にザックリと、
大きく斜めに入った傷跡を…
織衣さんは、指の先でなぞって
何か考えてるようだった。
部屋へ戻って、私と織衣さんが
食事をしている時に、少し楽しそうな
様子の師匠が、織衣さんに報告に来た。
「先程、真澄から連絡が入って、今日中には
こちらへ来る予定にしているそうです。光さんが
ここへ来られていると話したら、とても喜んでましたよ♪」
そして師匠は、私の方を見て
ニッコリと笑っていた。
真澄さんとは、あの日から
ずっと会っていないので、正直…
会って、何を話せば良いのか困ってしまう。
気持ちの整理と言っても…
どう整理するかも、判らないままだったので
何か期待されていたら、
どうすれば良いのか…私は急に
この場から、逃げ出したくなっていた。
食事の後…
織衣さんと話し込んでいたら
23時を過ぎてしまっていた。
織衣さんには、泊まって行きなさいと
言われたけど…明日も、朝から
仕事だったので、急いで私が
帰る支度をしていると、織衣さんは
私に可愛くラッピングされた小さな箱を手渡した。
「最近、光ちゃんがまた…地縛霊に関わることが
多くなってるって、龍安から聞いてたからね。
これを持ってて欲しいのよ」
箱を開けてみると…
中には、新しい高そうな数珠が入っていた。
凄く綺麗な水晶と翡翠の数珠だった。
私は、織衣さんにお礼を言ってから、
織衣さんに用意していた
プレゼントの包みを手渡した。
包みを開けて出てきた
カシミヤの藤色のストールを羽織って
織衣さんは凄く喜んでくれていた。
「ありがとう~♪ 嬉しいわ~♪」
そして、嬉しそうに笑って…
後ろから抱きついてハグして来た。
「凄く良くお似合いですね。母上様♪」
すぐ後ろで、
聞き覚えのある声がしたので
声の方へ振り返ると…
両手を広げて真澄さんが立っていて、
後ろから織衣さんが、私の背中を
押したので…私は、真澄さんに
しっかり抱きしめられてしまった。
そのまま真澄さんは、
私を抱きしめたまま
しばらく離してくれなかった。
「そろそろ、離してあげてもらえる? 光ちゃんに
嫌われてしまうと、真澄も困るでしょ?」
「そうですね~。嫌われるのは、遠慮願いたいので…
名残惜しいですけど…フフフ(笑)」
真澄さんは、クスクスと笑って
やっと私を開放してくれた。
「私は別に部屋を取ってあるから、ここでゆっくり
二人で過ごして頂戴ね。邪魔者は退散するわ~♪(笑)」
織衣さんは、楽しそうに笑いながら…
自分の部屋へ帰ってしまった。
「うちの母は、早く私たちの赤ん坊の顔が見たいようですね♪」
真澄さんは、意地の悪い顔をして私に言った。
こんな日に…こんな場所で
男と女が二人っきりですることは、
一つしか無いでしょ…
織衣さんも無茶なことをしてくれる。
この間のことで、少し鈍くなって
しまったのだろうか?
真澄さんを目の前にして、私は
逃げ出そうとは、考えていなかった。
いっそこのまま…なるように
なってしまった方が、気持ちの整理も
つくのかもしれないなんて…
私が覚悟を決めていると、真澄さんが
意外にも紳士的な行動に出た。
真澄さんは、私の前に跪いて私の手を握っていた。
「こういうことはですね。やはり順序を守らなくては、
紳士とは言えませんからね。まずは、光さんの
気持ちを確認しておかないと」
「私の気持ち…ですか?」
真澄さんの問いに…
私が、戸惑っていると…
真澄さんは、私に顔を近付けて
私の気持ちを確かめていた。
「私と婚約して頂けますか? 本当は、すぐにでも
結婚したい所なんですが。まずは、婚約しましょう♡」
真澄さんは、満面の笑顔で私に向かって
右手を差し出している。
「私なんかで…本当に良いんでしょうか?
真澄さんは、本当に私と結婚したいんですか? 本当に?」
「勿論です。本当に結婚したいと思っています。私は、
初めて光さんに会ったあの日から…私の相手は
光さんしかいないと思っていました。光さんも私と
同じ気持ちでいてくれていると…確信していましたしね」
やっぱり、真澄さんは
私の気持ちをずっと前から知っていたんだ。
私と真澄さんが、初めて出会ったのは…
私が14歳で、真澄さんは20歳だった。
あの日
私は、真澄さんに一目惚れしてしまったんだ。
でも、歳の差もあるし…
叶うはずのない恋だと、そう思い込んで
諦めて、その気持ちを心の奥にしまってしまった。
「あの時…私も光さんに一目惚れしていたんですよ」
真澄さんは、嬉しそうに言った。
「もう…良いですよね。私は、十分待ったと思うんですよ」
真澄さんは、そう言って私を抱き寄せていた。
抱き締められた私は、
嬉しくて涙が止まらなくなっていた。
「降参です。そうです…出会った日から、
私は、真澄さんのことがずっと好きでした」
私は、真澄さんの背中をギュッと
抱きしめ返して、自分の思いを告げていた。
「やっと…光さんを捕まえました。…それでは、
最後の仕上げに行かなくては…ね♪(笑)」
真澄さんは私の耳元でそう呟くと、
急いで私の手を握りしめて
車に乗ってホテルを後にした。
最後の仕上げという意味を
確かめる間も無く、そのまま
二人を乗せた車は、マンションを通りすぎて
私の実家の前でようやく止まった。
「ご両親には、先に私から連絡しておきましたので行きましょう」
いつ? 両親に連絡を入れていたんだろう?
真澄さんは、私を連れて車を降りると
玄関のインターホンを押していた。
すると、家の中から、すぐに美郷ちゃんと
お母さんが青い顔をして出て来て…
小声で訴えて来た。
「どうしても…我慢しきれんようになったみたいで…
徹哉が、帰って来てしまってん。ごめんね。光ちゃん!」
「真澄~~!! 貴様~~~!!」
徹兄をどう対処するかを
考えている暇などなく…勢い良く
叫びながら、徹兄が家の中から、
飛び出してきて…真澄さんに殴り掛かって来た。
その瞬間、後から追いかけて来た
お父さんが、徹兄をしっかりと
羽交い締めにして、徹兄を止めていた。
さすが空手の黒帯保持者やわ。
「こんな遅くに玄関先で、大声を出すな! お前は、
さっさと中に入っとれ!」
お父さんは、徹兄をそのまま
ずるずると引きずって家の中に入った。
「夜分遅くに申し訳ありませんでした。少しでも早く…
ご両親にご報告をしたいと思ったので、無理を言って
来てしまいました。今日、やっと光さんの同意が
得られて、改めて婚約させて頂きました」
真澄さんは、両親に
深く頭を下げて挨拶をしていた。
お母さんもお父さんも
微笑んで、祝福してくれていた。
「わかっています。私たちも…どれだけこの日を待っていたことか…」
お母さんは、瞳に少し涙を浮かべて喜んでくれていた。
しかし…
徹兄は、諦めきれずにまだ暴れている。
「俺がそんなこと許さん! お前なんかに光はやらん! 絶対やらん!」
お父さんに羽交い締めにされたまま…
徹兄は、頑張って抵抗していた。
「離せ! この! クソオヤジ!!」
お父さんに向かって、
徹兄が叫んだのと同時に…
美郷ちゃんが、徹兄の右頬を
思いきり張り倒していた。
「もういい加減目を覚まし! みっともないで徹哉!」
さすが…元ヤンなだけに怒ったら怖い。
「徹兄! 私のことを大切に思ってくれてるんやったら、
真澄さんとの結婚を…許して欲しい。お願い!!」
私が徹兄の手を取って説得していると…
真澄さんが、徹兄の前に立って
顔を突き出して言った。
「そうですね…一発くらいは殴らせてあげても良いですよ。
あなたの大事な姫君を頂くのですからね。フフフ」
涼しい顔をして笑うと…
真澄さんは、ゆっくりと目を閉じていた。
徹兄は真澄さんを前にして、
凄く悔しそうに握りしめた拳を震わせていた。
「絶対…絶対に幸せにするって約束出来るんやな!
光を不幸にしたり泣かせたら、俺が絶対に許さへんからな!」
徹兄はそう叫ぶと…
真澄さんの胸ぐらを掴んだまま
泣き崩れてしまった。
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