オカンの店

柳乃奈緒

文字の大きさ
上 下
38 / 39

お題は恋愛について

しおりを挟む
✡✡✡✡✡

 オカンの甥っ子の誠二が越してきて1年。そして『オカンの店』がリニューアルして1年が過ぎたある日のことやった。

オレが仕事を終えて、いつも通りに店の戸を開けて中へ入ると、なんか妙に、店の空気がいつもと違うことにオレはすぐに気付いていた。

「おかえりー!! 健ちゃん。今日もお疲れさん♪」
「ただいまー!! なぁ…どないしたん? なんか座敷の方がしんみりしてるけど?」
「ああ。あれな! なんか和美ちゃんが好きな子に振られたらしくてなぁー。美花ちゃんと麻由美ちゃんが慰めてくれてるんよ」
「和美が? そうか…和美も高校生やもんな。恋のひとつやふたつあって当然の年頃やな(笑)」

 自分で言うのもなんやけど、めっちゃジジイみたいなことを口にしながら、オレはカウンターへ腰を下ろして座敷の様子を眺めていた。

「いつの間にか、和美も男子に恋してたんやなぁ。好きな人に気持ちを伝えるんは、勇気がいるやろ? よう頑張って告白したな!」
「そうやで! 伝えずに終わるよりも、伝えて次に進むほうが絶対またええ恋が出来る! そやから、元気出さなアカンで!」
「うん。うん。ありがとう…大丈夫。なんかいっぱい泣いたらスッキリした♪ 美花ちゃん。麻由美ちゃん。ありがとう」

もう、だいぶ和美はスッキリしていて、目と鼻の頭は真っ赤やったけど美花と麻由美に慰めてもらって、元気を取り戻しているようやった。

「ええなぁ。青春してるよな。やっぱ学生の頃が一番なんか色々と初々しいというか、楽しそうやわ」
「比奈も学生の頃は、恋しとったもんなぁー♪」
「しとったよなぁー! あの頃が、ほんま懐かしいわ~」
「でも、まさか雅章と結婚するとは思わんかったけどな!」

 和美たちの話を聞きながら、比奈も昔の自分を思い返してため息を吐いていたから、オレもあの頃のことを思い返して、そう言えば比奈が恋焦がれてたのは、今の旦那じゃなかったことを思い出して、比奈に突っ込むと比奈はオレの頭を軽く叩いて苦笑していた。

✡✡

 比奈にそれ以上突っ込みを入れると、殺されそうやったから、オレは何でもない、今日あったことをぽつりぽつりと話しながら、日本酒をいつもの様にちびちび飲んでいた。

 座敷の方では、女3人で話し込んでいたことで、ええ時間になってしもたことに気付いた和美が、慌てて夜定食を平らげると「ごちそうさまでした」とニッコリ笑って、スッキリした顔で帰って行った。

それと入れ替わりに、浩二と宗ちゃんが帰ってきて
そこそこ店の中が、賑わって来た頃やった。

 店の戸を勢いよく開けて帰って来たのは、オカンの甥っ子の誠二やった。半月ほど前に拾ってきた子猫をオカンに預けてるもんやから、毎晩この調子で仕事を終えると、誠二は息を切らして帰ってくるみたいやわ。

「おかえり~! 今日も真っ直ぐ急いで帰って来たやろ? せいちゃん。ほんま、チビが可愛くてしゃーないねんな!」
「ただいま~! へへへ。朝もちょっと元気なかったから、気になってしもてね。それで? どうでした?」
「大丈夫やで! 夕方から、いつもと変わらんくらいにご飯食べて、走りまわってるわ。今は、疲れてこうちゃんらのとこで寝てるみたいやけどな(笑)」

誠二は昨日、若先生の病院で子猫にワクチンを打ってもらったらしくて、子猫の様子が余計に心配やったらしくて、急いで帰って来たみたいやわ。

「せいちゃん、おかえりー! こいつ。めっちゃ可愛いな! せいちゃんが拾ってきたんやて?」
「そうなんやー! 酒飲んだ帰りに公園でな、オレの懐に入り込んでそのまま家まで連れて帰ってきてしもたんや!」
「こいつらって、人間のことようわかってるから、せいちゃんのことええカモやと思って、懐に入り込んだんやで!」

浩二に手招きされて、誠二も座敷に座り込むと、子猫の寝顔を見て誠二は厳ついデカイ図体をしているにも関わらず、何とも言えん優しい顔をして笑っていた。

✡✡

 誠二は酒も少し入って機嫌が良いのか、子猫の話を楽しそうに浩二らに話して盛り上がっていた。オレもそんな座敷の連中の楽しそうな会話を楽しみながら、比奈とオカンと話ながら酒を飲んでいた。

「どないしたん? オレの顔に何かついてるか?」
「せいちゃん。ユイちゃんのことどう思ってる?」
「え!? 何で? 何で?」

なんか和やかやった空気が、麻由美の誠二に対してのひと言でその場の空気が緊張で張り詰めていた。

「うち、ユイちゃんに相談されてしもてん。せいちゃんのことユイちゃんマジで好きになってしもたみたいでな……」
「それ、ほんま? マジ? お前、そんなん何時相談されてん!」
「今日の夕方。買い物の帰りにユイちゃんに会って、何か元気無いからどうしたんか聞いたら、失恋しそうやーって泣きそうな顔してたから、くわしく聞いたら。せいちゃんに本気で恋してるみたいで…」

 麻由美の話を聞きながら、誠二の顔が青ざめていくのがオレにはわかった。誠二は、それを出来るだけ悟られんようにおしぼりでゴシゴシ顔を何度も拭いていた。

「せいちゃんって、彼女いてるん?」
「いや。おらん。3年前に別れてからは、ずっと1人や」
「ユイちゃん。ええ子やで? どう?」

おいおいおい。何ぼなんでも誠二にユイちゃんて…。どないやねん! ひとまわりも歳が違うし、ユイちゃんは高校生やで? 麻由美も、無茶苦茶言いよるわ。

「正直に言うとやな。めっちゃ嬉しい。ありがたい。あんなに可愛い、しかも優しくてええ子に好きって言われたら、すぐにでもお付き合いしたい。そう思うんが正常な男やろ? そやけど。彼女は女子高生やで! しかも今年受験生や! 将来のこと考えるとな…。ふたつ返事で付き合うわけにはいかんやろ」
「すごい…。せいちゃんって、大人なんや!」
「そんなん! 男と女なんやから、好きか嫌いかでええんちがう?」

 オレの心配なんかは余計やったみたいで、誠二は麻由美や浩二に自分自身が大人であることを話して、ユイちゃんとのことはまだしばらく時間をかけて様子をみたいから、そっとしておいてくれと言って帰って行った。

✡✡

「健ちゃんは、どう思う?」
「え!? 何が?」
「だから、せいちゃんとユイちゃんやん!」
「どうやろな。オレは誠二の気持ちは、ようわかるけどな」

 誠二が帰ってすぐに、比奈がオレに2人のことをどう思うかって聞いて来たから、オレは正直にさっきの誠二の考えがわかるって、比奈に答えると、比奈もため息を吐きながら何度も頷いていた。

「そやけど…あれでユイちゃんって、変に大人びたところがあるからまだまだ、どうなるかはわからんけどね。フフフ」
「オカン! 自分の甥っ子のことやで! 面白がってる場合やないやろ?」
「私は2人が好き合ってるなら、付き合ってみればええて思ってるんやで! そやけど。ちょっと誠二は奥手やからなぁー」
「ほんま、オカンには負けるわ。肝が座ってるというか、何とも言えん」

 オレがオカンに絆されて笑うと、オカンもケラケラと笑いながら、誠二にも遅い春が来たんかもしれんと言って、オカンは嬉しそうに目を細めていた。

「ここだけの話なんやけど、ユイちゃんのママの理緒ちゃんと若先生はこの話にもの凄く乗り気やねんで!」
「マジで?」
「そうやねん。せいちゃんさえ良ければ付き合って欲しいって、言われてるんやけど、それは自然の流れでそうなって欲しいって、2人とも望んでるから、せいちゃんには言わずに様子を見てるんよ」
「あとは、ほんまに誠二次第なんやな…」

ここは、多分やけど。

ユイちゃんがどんだけ頑張るかで、2人の恋の行方が左右されるようやわ。ほんま、恋愛っちゅうもんは、ややこしくていつでも人を悩ますもんなんやな。

「健ちゃんは、どうやったん? 学生の頃は恋してた?」
「そら、しとったで! 血気盛んな頃やからな!」
「今の奥さん?」
「それはちゃうわ! 嫁とは、社会に出てから知り合ったからな」

 比奈にオレの恋愛について聞かれて、何とも言えんあの胸がキュウッとなる熱い感情が少し思い出されて、オレは改めて歳を取ったなと感じていた。多分、もうあんな恋愛は出来んやろからね。

それでも、なんかこの日はオレも久しぶりに色々と、自分が学生の頃に経験した恋愛について考えながら、店を出て家路に着いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

処理中です...