オカンの店

柳乃奈緒

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オカンとオトン

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◇◇◇◇

がんもとミケのお陰で、
猫好きのお客さんが増えたから
平日も、満席になることが増えていた。

たまに、仕事帰りに顔を出してくれている
大工の岡ちゃんが、この前。物置にしてる
裏口にある、土間の空いてるスペースに、
がんもとミケの個室を、二階建てで作ってくれた。

「がんももミケも、岡ちゃんが作ってくれた個室をえらい
気に入ったみたいやなぁ~♪」
「そやろ? 仕込みやってる間は、2匹で仲良くあそこに入って、
のんびり寝てるわ。店が開いてお客さんが来たら、しばらく
座敷でおるけどな! フフフ」

こうちゃんが、持って来た野菜を
土間にある冷蔵庫に入れながら、個室で
気持ち良さそうに寝てる。がんもとミケの頭を
少し撫でてから、カウンターへ座って
冷たい麦茶を飲んでいた。

「岡ちゃんからの、がんもとミケへのプレゼントなんやろ? 
ほんま、あの人。猫が好きなんやなぁ~。しかも、めっちゃ
しっかり作ってあるし、売りもんみたいやで!」
「そら、岡ちゃんはプロの大工さんやからな。材料代だけでも
受け取ってって言うてんけど、受けとってくれんかってんで!」

えらいしっかりと、岡ちゃんは作ってくれてて、
出来上がった時は、びっくりしたよ。
それで、私は慌てて材料代だけでもって、
岡ちゃんに言うたけど、岡ちゃんは、
捨てるような材料を寄せ集めて作ったからって、
受け取ってくれんかったんやわ。

人が良過ぎるで、ほんまに。

私の店には、こんなお客さん
ばっかりやから、変な輩な客は居心地が
悪いらしくて、入って来ても。一杯飲んだら
すぐに大人しく帰ってしまうから助かってる。

◇◇

こうちゃんが、配達があるからと
帰ったのと入れ替わりで、比奈が絵美里を
連れて入って来て、座敷へ絵美里を下ろすと、
すぐにがんもが出て来て
絵美里の横で、チョコンと座っていた。

「がんもは、ほんま絵美里が好きみたいやなぁ~」
「絵美里もがんもが好きやし、ほんま姉妹みたいなもんやな! フフフ」

比奈も絵美里とがんもを見て
嬉しそうに笑うと、持って来た買い物袋の中から
キャットフードの小袋を出して私に見せた。

「これ! さっき来る時にお客さんの大吉さんに貰ってん。
がんもとミケに、あの人もメロメロやな~」
「あ~! 大ちゃん? そうやねん。なんかな、実家で
猫飼ってるらしいねんけど。大ちゃんが住んでるワンルームは
ペット禁止らしくてな。寂しい言うて、給料入ったら
ちょこちょこ、がんもとミケに会いに来てくれてるわ!」

比奈は、大ちゃんから貰ったキャットフードを
がんもとミケのお皿に入れてやって
エプロンをして、店の開店準備を始めた。

がんもとミケは、入れてもらった
キャットフードを美味しそうに一緒に仲良く食べていた。

仕込みも済んで、開店準備も終わって
カウンターで、比奈と一服していたら、
裏口が開いて、大きな荷物を抱えたオトンが帰って来た。

「あらあら! 帰って来るんやったら、連絡したらええのに。
またえらい荷物増やして帰って来て、どないしたん?」
「スマンスマン! 連絡しようしようって思いながらも
帰って来てしもたわ~」

土間へ荷物を下ろすと、オトンは
自分でお冷を入れて、一気に飲み干すと
カウンターへ腰を下ろしてへへへと笑った。

「今回は、行くとこ行くとこで。なんか知らんけど、土産を
持たされてしまってなぁ~。腐るもんは無かったから、持って
回ってたんやけど。すごい荷物になったから、帰って来たんや! 
そろそろ、ワシも家が恋しかったしな~」
「途中で宅急便で送ろう。とか思い付かんところがオトンやな!」

私と比奈が呆れて笑ってると、
オトンは近くの銭湯で、汗を流してくると言って
荷物を置いて、すぐに出て行ってしまった。

「相変わらずオトンは自由人やな! ほんま、オカンもあんな
オトンをよう許してると思うわ。私やったら、絶対無理やで!」
「フフフ。その代わり、私も好きなことが出来るから、
これはこれで、ええねん♪(笑)」
 
私がケラケラと笑ってると、
比奈は呆れ顔で、オカンも変わってるから
結局は似たもの夫婦なんやろなといって笑っていた。

開店時間になって、すぐに
店の戸を開けて、帰って来たのは
宗ちゃんと美香ちゃんやった。

「ただいま~~! だいぶ涼しなったけど。夏の疲れやろか?
身体がだるうて、今日は外回りがキツかったわ~。オカン! 
とりあえず、冷たい生下さい」
「私も~! いっぱい今日は、歩いたから。足がめっちゃ痛いわ~」

2人は座敷に上がると、横になって
暫くその場でへたり込んでいた。今年は
10月になっても、まだ気温の上がる日があって
クールビズが終わって、ネクタイ締めての
外回りは確かに辛そうやった。

冷たいおしぼりと、生2つを持って
座敷へ行くと、すでにがんもが、
2人の間で、チョコンと座って待っていた。

「あ~! 生き返るわ~。やっぱり、仕事の後はここで
疲れとらんとなぁ~♡(笑)」
「休みの日は、頑張ってご飯作れるけど。こんな日は絶対無理。
オカンの夜定食食べて帰る方が、絶対身体にもええと思うわ」

美香ちゃんが、冷たいおしぼりで
顔を拭きながら、宗ちゃんに聞くと
宗ちゃんもうんうんと頷きながら笑っていた。

「ヘトヘトに疲れて仕事から帰って、無理して家事して
イライラされても、居心地悪いしね。ほんまは、節約せな
アカンかもやけど。ここなら、財布にも優しいし(笑)」
「お昼ご飯は、頑張って朝早めに起きてお弁当作ってるし、
少しは、節約も出来る所ではしてるねんで! でも、やっぱり
仕事の後はオカンやねん!」

2人は仲良く乾杯してから、美味しそうに
生ビールを飲んで、ケラケラと笑っていた。

そうこうしてるうちに

店の中が、お客さんでいっぱいになって、
ピークの時間がやって来た。バタバタ忙しく
動きまわってる間に、私はスッカリ
オトンのことを忘れていた。

「なぁ~オカン? 裏の荷物って? あれもしかしてオトンの荷物か?」

こうちゃんが、裏のオトンの荷物を見つけて
私に、こそっと聞きに来た。

「あ、そやで! 夕方な。大荷物抱えて帰って来てな~。
銭湯行ったまま帰ってけえへんわ! 多分、誰かに会って
話し込んでるんちゃうかな~?」

時計を見ながら私が答えると、
こうちゃんは店の外へ出て
銭湯のある方を見ていた。

「ほんまどこ行ったんやろ? 少し銭湯見て来よか?」
「ええで! 放っといたって! もしかしたら、亞夜子ママの
とこにおるんちゃうかなぁ~? 土産話をいつもの様に聞かせに
行ったんかもしれへんわ」

オトンは旅から帰って来ると、
亞夜子ママの店には、必ず顔を出すから。

もしかしたら、ママの店で
のんびりしてるんやわって笑って
私は探しに行こうとするこうちゃんを止めた。

「そうそう、何でオトンは帰って来たら絶対に亞夜子ママの
店に顔出すんや?」
「こうちゃんでも知らんことあるんやな~。あの2人。
昔から結構気が合うから、いろいろ帰って来たら旅先で
あったことを、話してるみたいやねん」

こうちゃんに聞かれて
私が答えると、こうちゃんは
少し驚いたような顔をして
さらに疑問を感じたみたいで、私に聞いてきた。

「そうなんや。ふつうは、オカンにそういうこと話すんちゃうん?」
「アハハハハ! 私は店が忙しいし、ゆっくり話し聞いて
やらんからなぁ~。亞夜子ママは、旅行好きやから。オトンが
行った先の話を聞くのも、楽しみやっていうて聞いてくれてるねん」

そんな夫婦もあるんやなぁ~。って
今日は、こうちゃんにも少し呆れられてしまった。

私が、そろそろ店仕舞いしようと思った頃に
裏口が開いて、オトンは機嫌良くほろ酔いで帰って来た。

「やっぱり、亞夜子ママのとこにおったんやろ? 私も
そろそろ店仕舞いするから、一緒に帰るか? ちょっと座敷で
横になって待っといて~」
「おう! ナンボでも待ってるで~! ゆっくりしてや~。へへへ」

オトンは、機嫌良く笑って答えて
座敷へ転がって、大の字になっていた。
がんもとミケは、オトンの側へ行って、
がんもは、オトンのお腹の上に乗って
ミケは、オトンの頭の横で座って
オトンの顔をのぞき込んでいた。

片づけが終わって。私が、がんもとミケを
キャリーに入れて、オトンを起こして帰ろうとしたら、
オトンがゴソゴソと荷物の中から

「これな…。オカンにお土産やねん。めっちゃ綺麗やろ?」
「フフフ、おおきに~。ありがとう~嬉しいわ」

それは、天然石で出来たブローチやった。

私が喜んで受け取ると、
オトンは、嬉しそうに笑っていた。

2人で、肩を並べて歩いて店から帰る途中に、
ふと空を見上げて、大きなお月さんを
オトンと一緒に眺めながら、こんなオトンやから
長いこと夫婦でおれるんかもなぁ~と

私は、染み染み思っていた。

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