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出産予定日と宗次郎のプロポーズ
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◇◇◇◇◇
まだまだ、外の空気が冷たい
寒さの厳しい2月の最終日に、
こうちゃんと麻由美ちゃん以外の面々で
『オカンの店』は、満席になっていた。
「そう言えば、麻由美ちゃんの出産予定日って、
比奈ちゃんの誕生日やったよな!」
思い出したように健ちゃんが、
オカンに聞くと、オカンは
うんうんと頷いて話し始めた。
「そうやねん。初産やから、多分予定日に出てくる
事は無いやろうって、比奈と麻由美ちゃんとも
言うてんねんけど、こうちゃんは、どっちにしても
来年からは、店で一緒に誕生日のお祝いが出来るって
言うて、喜んでくれてるねん!」
オカンは、話し終えると
嬉しそうにニコニコ笑って、
店の壁にあるカレンダーを眺めていた。
「もう、3月やもんなぁ。なんか、今朝のこうちゃんの
話では、麻由美ちゃん。だいぶ、お腹が張って下がって
来てるって。病院で、言われてるらしいで。そやから、
生まれるまで、しばらくは実家で大人しくさせる
って、言うてたけどなぁ~!」
比奈ちゃんが、絵美里ちゃんに
ご飯を食べさせながら話していると
美花のスマホに、麻由美ちゃんからLINEが届いた。
「噂をすればってやつやな! 麻由美ちゃんから
やわ。暇や~やって♪スタンプ来たわ(笑)」
「赤ちゃんが、生まれるまでの辛抱やで。あともう少しやで!
ってオカンが言うてるて、返事送ったって!」
美花がそのLINEをオカンに見せると、
オカンは、笑いながら
美花に返信する内容を提案していた。
「別に店で産気づいても何とかなるんやけど、
やっぱり初産やし、麻由美ちゃんの御両親が
心配しはるもん。もう少しの我慢やな!」
オカンは、自分に言い聞かせるように
我慢やで我慢やでって、繰り返していた。
「今年のひな祭りは、麻由美ちゃんとこうちゃんは
無理そうやなぁ。なんか寂しいな」
僕が少し、小声で呟いてると
美花が、僕の背中をポンポンと
叩いてから、ニィっと笑っていた。
「一応、無理かも知れへんけど、誘うだけは誘ってみよ♪
恒例行事やし、こうちゃんも麻由美ちゃんも大事な
うちらの飲み仲間やからね! フフッ」
美花にそう言われて、僕も
ウンウンと頷いて、気を取り直して
もう一度こうちゃんに、声を掛けることにした。
◇◇◇
翌日、
仕事を終えた僕が店に行くと、去年のひな祭りより
店内が、ちょっと豪華に飾り付けされてて
僕は、しばらく無言で大きくて立派な
雛人形に見入ってしまっていた。
「おかえり~! 宗ちゃん。あらら、でっかい雛段見て
固まってしもたか? フフフ」
そんな僕を見て、オカンは
ケラケラと笑って、僕が脱いだ
コートを掛けてくれていた。
「がんもが、悪さしそうに無いし、折角やからな。
今年は、大きい方のお雛さんを飾ることにしたんよ!
ええやろ~? 古いもんやけど。私は、気に入ってるねん!」
比奈ちゃんが、座敷の大きな雛段の前で
がんもと遊んでる絵美里ちゃんの写真を撮りながら
嬉しそうに僕に言ったので、僕も大きく頷いて同意していた。
「こんなに立派なお雛さんは、僕の周りでは、無かったわ。
やっぱ、団地やマンション住まいが多いから、どうしても
ケース入りの小さいお雛さんが殆どやからね」
僕の記憶の中では、この雛人形が
きっと一番かもしれんと言うたら、オカンも
比奈ちゃんも、めっちゃ喜んでいた。
その後すぐに
店の戸が、勢い良く開いて
元気な声を張り上げて、美花が帰って来た。
「ただいま~! お腹すいたー!」
美花は、一瞬立ち止まって
座敷の雛段を見て、満面の笑みを浮かべると
すぐに座敷へ駆け寄っていた。
「オカン! 今年は、大きいのほんまに出したんや~!
やっぱり大きいほうが、ひな祭りって気がするよなぁ~!
お花も去年よりなんか豪華になってる気がする~♪」
美花は、お雛さんを嬉しそうに
座敷に座って眺めていた。
「やっぱり、美花も女の子やなぁ。こういうの
見ると、テンション上がるんやなぁ~♪ フフフ」
僕が、クスクスと笑いながら
美花に言ったら、美花は少し口を尖らせて
自分のおしぼりを投げつけて来て
わざとらしく膨れっ面をしてみせた。
「そこ! いつまで、2人でイチャイチャやってんのよ!
さっさと飲むもんと、食べるもん注文しなさいよね!」
カウンターで、僕らの様子を眺めていた
亞夜子ママが、ニヤニヤ笑いながら
突っ込みを入れて来たので、美花が
珍しく1人で呑んでる亞夜子ママに
逆に突っ込みを入れていた。
「あれ? 今日は、ママ1人なん? 高田さんは? 」
少し様子を見たらわかることなんやけど、
美花は、結構こういう事には、鈍い方から
しっかりとママの地雷を踏んでしまっていた。
案の定、亞夜子ママと高田さんは
昨日から夫婦喧嘩? の真っ最中で、
その後、僕らはしばらく亞夜子ママの
愚痴という愚痴を高田さんが、ママを
店に迎えに来るまでの2時間
延々と聞かされる羽目になってしまった。
そして、その後。
僕と美花は、閉店まで呑んで店を出た。
いつもの様に、僕が美花を
家まで送っている途中で、
突然、美花が立ち止まって
僕の顔をじっと覗き込んで来た。
「宗ちゃんは、結婚の事…考えてるんよね? 今すぐ
って訳では無いけど。菜々美ちゃんがな…ほら、
心配性やから。すぐにどうなってるん? って聞いて来るんよ」
美花は、凄く言葉に困った様子で
俯き加減で、目を少し潤ませて
すがるように聞いて来たので、
僕はハッキリと伝える事にした。
「当たり前やん。結婚の事は、真面目に考えてるよ。
出来れば、30なるまでにしたいって思ってるし。
美花がええんやったら、ぼちぼち家族を交えて、
日取りを決めてもええと思ってる。正直に言うと、僕は、
子供が早く欲しいから、もうそろそろしたいなて…」
最近、ずっと考えていたことを
僕が一気に口に出して話してしまったので、
美花のほうが、この展開に驚いているようだった。
「宗ちゃん? 今のってやっぱりプロポーズ?」
少し声を震わせて美花は、僕の目を見て聞いてきた。
僕は、そんな美花が堪らなく
愛しくなってしまって、美花の腕を掴んで
自分の胸に抱き寄せてギュッと強く抱きしめて
美花の唇に僕の唇を重ねていた。
「美花ちゃん…。今年中に僕のお嫁さんになって下さい!」
美花を抱きしめたままで、僕が
改めてプロポーズをしたら、美花は
うんうんと泣きながら頷いていた。
美花の親には、結婚前提の付き合いという
挨拶をしたっきりやったから、
まる1年どうするとか、具体的な話も
僕はしなかったから、美花には
不安な思いをさせてしまったようだった。
確かに、結婚するならするで
いつ頃するかとか、考えていかないと
いけない時期になっていたんやなって
僕は、泣いてる美花にひたすら謝った。
その後、急に美花が
帰りたくないと言い出して
家に電話を入れて、僕のマンションに
そのまま泊まることになってしまった。
◇◇◇
翌朝、僕と美花は
僕のスマホのLINEの着信音で目が覚めた。
LINEは、こうちゃんからで
赤ちゃんが生まれそうという内容だったので
僕らは、慌てて出掛ける用意をして家を出て
『黒猫』で、モーニングを食べることにして
行ってみると、オカンもがんもを連れて来ていた。
「おはようさん! こうちゃんから連絡あった?
麻由美ちゃん、陣痛始まったみたいやな! 初産やから
時間掛かるかもしれへんけど、早かったら今日中には
生まれるかもって、こうちゃんがめっちゃ興奮してたわ!」
オカンは、めっちゃ嬉しそうに
マスターと楽しみやなぁって笑っていた。
「そう言えばや! 宗ちゃんと美花ちゃんも、
そろそろなんちゃう? 子育ては、早いほうがええで~」
僕と美花を見て、オカンが笑いながら
美花のお尻を軽く叩いて冷やかして来た。
「へへへ…実は昨日の夜、宗ちゃんに、プロポーズしてもらってん!」
美花は、オカンの肩を揉みながら
昨日のことを照れ臭そうに報告していた。
「ほんまに? そら良かったわ~! 宗ちゃん、奥手やから
心配しとってんで! これで、菜々美ちゃんも安心するわ。
宗ちゃん、美花ちゃんの事! 頼むで~!」
オカンは、嬉しそうに
美花に良かったなぁ~って
言って喜んでくれていた。
「それで? いつ頃するか決めたんですか? 結婚式」
「やっぱり、こうちゃん達と同じように、6月に
『ローズマリー』でさせてもらいたいなぁって、思ってるんです。
やっぱりジューン・ブライドって、女の子の憧れみたいやし」
マスターに聞かれて
僕が思っていたことを答えていると、
話し終わる前に、美花が僕に抱きついていた。
「めっちゃ嬉しい! そこまで考えてくれてたんや♪」
僕の顔を見上げた
美花の目からは、ポロポロと
涙がこぼれ落ちていた。
その後、僕の母親と兄貴に連絡をしたら、
早いほうが良いと言って、2人は僕と一緒に
美花の家に訪れて、美花の両親に年内には
結婚したいと報告をして、心良く了解を貰えたので
僕と美花は、結婚式の日取りを決めることにした。
式の日取りは、こうちゃん達の時と同じで
6月の、最初の日曜日にすることに決めて
オカンが、亞夜子ママに連絡してくれたので、
僕らの希望通り『ローズマリー』で
披露宴をすることに決まった。
話もうまく纏まって、
母親と兄貴を駅で見送った後で
美花が僕にスマホを見せて来た。
「今な…こうちゃんから、LINE来たんやけど。
麻由美ちゃん、まだ、分娩室やねんて。途中で陣痛が
弱まったみたいで生まれるのは、日付変わってからかもって。
初産って、大変やねんなぁ…」
美花が、心配そうに
何かを考えてる様子だったので、
僕は、麻由美ちゃんのいる病院へ
行ってみようかと美花に聞いたら、
首を振って苦笑していた。
「うちらが行っても気が散るやろうし、こうちゃんにも
気を使わせるだけやから、店で連絡来るのを待っとこ!」
美花はそう言うと
僕の腕に自分の腕を絡めて歩き出した。
店の戸を開けて
2人で中へ入ると、比奈ちゃんが
クラッカーを僕と美花に向けて鳴らして、
おめでとう~と手を叩いて笑っていた。
「宗ちゃん! 美花ちゃん! おめでとうさん! 」
比奈ちゃんは、僕と美花を
ハグしてめっちゃ喜んでくれていた。
座敷には、亜紀ちゃんと真斗さんと
拓海と桜絵ちゃんが、先に来て
既に出来上がっていて、亜紀ちゃんも
桜絵ちゃんも、楽しそうに雛段の前で写真を撮っていた。
「結婚決まったんやて? おめでとう~♪」
拓海が、僕を見て言ったので
僕は、拓海と桜絵ちゃんに向かって
ポンと手を叩いて今、思いついたことを提案してみた。
「そうや! 披露宴! 一緒にせえへんか? 拓海と桜絵ちゃん、
結婚式してないやろ? 披露宴だけでも一緒にせえへんか?」
たった今、思いついた事やったけど、
思い切って聞いたら、2人とも一緒にやりたい!
って叫んで、僕と美花に抱きついて来た。
真斗さんと亜紀ちゃんも喜んでくれて、
そのまま、嬉しくなった僕も美花も
いつもより少し飲み過ぎてしまった。
結局、閉店まで店でみんなで騒いでいたら、
オカンにこうちゃんからLINEが届いた。
「3月3日0時20分3260グラムの元気な娘が
生まれましたぁ~♡やって~♪こうちゃんからLINE来たで!
予定日通りや! 比奈と同じ3月3日や(笑)」
オカンは、片付けも放り出して
とっておきのワインを出して来て、
お祝いや~って叫んで、店に残っていた
僕と美花と拓海と桜絵ちゃんと一緒に
飲み出して、結局、家に帰ったのは明け方やった。
その日の昼過ぎになって、
美花と僕は、やっと起きて2日酔いの
頭を抱えて、飲み過ぎたって
二人で反省して笑った。
それから一緒にお祝いを買って、
麻由美ちゃんの入院している病院へ行くと、
病院の前でこうちゃんが満面の笑顔で出迎えてくれた。
「おめでとう! 女の子やってんな! 比奈ちゃんと
同じひな祭りの日やし、来年からは一緒に祝えるな♪」
僕は、そう言ってこうちゃんにお祝いを渡した。
「何がええか悩んでんけど、マザーズバッグにしてん。
『オカンの店』に赤ちゃん連れてくるようになったら、
役に立つ物って考えたら、これが一番ええかなと思ってん」
美花が、こうちゃんに
お祝いの中身の説明をしたら、
こうちゃんは、嬉しそうに
渡したお祝いを抱きしめていた。
「二人ともありがとう! 麻由美…絶対、喜ぶわ! 」
こうちゃんは、ニコニコしながら
赤ちゃんのいる新生児室に案内してくれて、
こうちゃん達の赤ちゃんを見せてくれた。
「あれやで! 手前の右から2番めのべっぴんさん!
あれが、俺の娘やで! 可愛いやろ?(笑)」
こうちゃんが、僕達に自分の娘を
自慢していると後ろから麻由美ちゃんの声がした。
「早速来てくれてんなぁ~! 宗ちゃん、美花ちゃんありがとう!」
少し疲れた顔をしていたけど、
思ったより、麻由美ちゃんは元気やった。
4人で部屋に戻って話していると、
オカンと比奈ちゃんとオトンも一緒に
来たから、こうちゃんも麻由美ちゃんも凄く喜んでいた。
可愛い赤ちゃんを見て、
僕と美花は、早く子供が欲しいねって
話しながら、その日もそのまま
僕のマンションに二人で一緒に帰った。
まだまだ、外の空気が冷たい
寒さの厳しい2月の最終日に、
こうちゃんと麻由美ちゃん以外の面々で
『オカンの店』は、満席になっていた。
「そう言えば、麻由美ちゃんの出産予定日って、
比奈ちゃんの誕生日やったよな!」
思い出したように健ちゃんが、
オカンに聞くと、オカンは
うんうんと頷いて話し始めた。
「そうやねん。初産やから、多分予定日に出てくる
事は無いやろうって、比奈と麻由美ちゃんとも
言うてんねんけど、こうちゃんは、どっちにしても
来年からは、店で一緒に誕生日のお祝いが出来るって
言うて、喜んでくれてるねん!」
オカンは、話し終えると
嬉しそうにニコニコ笑って、
店の壁にあるカレンダーを眺めていた。
「もう、3月やもんなぁ。なんか、今朝のこうちゃんの
話では、麻由美ちゃん。だいぶ、お腹が張って下がって
来てるって。病院で、言われてるらしいで。そやから、
生まれるまで、しばらくは実家で大人しくさせる
って、言うてたけどなぁ~!」
比奈ちゃんが、絵美里ちゃんに
ご飯を食べさせながら話していると
美花のスマホに、麻由美ちゃんからLINEが届いた。
「噂をすればってやつやな! 麻由美ちゃんから
やわ。暇や~やって♪スタンプ来たわ(笑)」
「赤ちゃんが、生まれるまでの辛抱やで。あともう少しやで!
ってオカンが言うてるて、返事送ったって!」
美花がそのLINEをオカンに見せると、
オカンは、笑いながら
美花に返信する内容を提案していた。
「別に店で産気づいても何とかなるんやけど、
やっぱり初産やし、麻由美ちゃんの御両親が
心配しはるもん。もう少しの我慢やな!」
オカンは、自分に言い聞かせるように
我慢やで我慢やでって、繰り返していた。
「今年のひな祭りは、麻由美ちゃんとこうちゃんは
無理そうやなぁ。なんか寂しいな」
僕が少し、小声で呟いてると
美花が、僕の背中をポンポンと
叩いてから、ニィっと笑っていた。
「一応、無理かも知れへんけど、誘うだけは誘ってみよ♪
恒例行事やし、こうちゃんも麻由美ちゃんも大事な
うちらの飲み仲間やからね! フフッ」
美花にそう言われて、僕も
ウンウンと頷いて、気を取り直して
もう一度こうちゃんに、声を掛けることにした。
◇◇◇
翌日、
仕事を終えた僕が店に行くと、去年のひな祭りより
店内が、ちょっと豪華に飾り付けされてて
僕は、しばらく無言で大きくて立派な
雛人形に見入ってしまっていた。
「おかえり~! 宗ちゃん。あらら、でっかい雛段見て
固まってしもたか? フフフ」
そんな僕を見て、オカンは
ケラケラと笑って、僕が脱いだ
コートを掛けてくれていた。
「がんもが、悪さしそうに無いし、折角やからな。
今年は、大きい方のお雛さんを飾ることにしたんよ!
ええやろ~? 古いもんやけど。私は、気に入ってるねん!」
比奈ちゃんが、座敷の大きな雛段の前で
がんもと遊んでる絵美里ちゃんの写真を撮りながら
嬉しそうに僕に言ったので、僕も大きく頷いて同意していた。
「こんなに立派なお雛さんは、僕の周りでは、無かったわ。
やっぱ、団地やマンション住まいが多いから、どうしても
ケース入りの小さいお雛さんが殆どやからね」
僕の記憶の中では、この雛人形が
きっと一番かもしれんと言うたら、オカンも
比奈ちゃんも、めっちゃ喜んでいた。
その後すぐに
店の戸が、勢い良く開いて
元気な声を張り上げて、美花が帰って来た。
「ただいま~! お腹すいたー!」
美花は、一瞬立ち止まって
座敷の雛段を見て、満面の笑みを浮かべると
すぐに座敷へ駆け寄っていた。
「オカン! 今年は、大きいのほんまに出したんや~!
やっぱり大きいほうが、ひな祭りって気がするよなぁ~!
お花も去年よりなんか豪華になってる気がする~♪」
美花は、お雛さんを嬉しそうに
座敷に座って眺めていた。
「やっぱり、美花も女の子やなぁ。こういうの
見ると、テンション上がるんやなぁ~♪ フフフ」
僕が、クスクスと笑いながら
美花に言ったら、美花は少し口を尖らせて
自分のおしぼりを投げつけて来て
わざとらしく膨れっ面をしてみせた。
「そこ! いつまで、2人でイチャイチャやってんのよ!
さっさと飲むもんと、食べるもん注文しなさいよね!」
カウンターで、僕らの様子を眺めていた
亞夜子ママが、ニヤニヤ笑いながら
突っ込みを入れて来たので、美花が
珍しく1人で呑んでる亞夜子ママに
逆に突っ込みを入れていた。
「あれ? 今日は、ママ1人なん? 高田さんは? 」
少し様子を見たらわかることなんやけど、
美花は、結構こういう事には、鈍い方から
しっかりとママの地雷を踏んでしまっていた。
案の定、亞夜子ママと高田さんは
昨日から夫婦喧嘩? の真っ最中で、
その後、僕らはしばらく亞夜子ママの
愚痴という愚痴を高田さんが、ママを
店に迎えに来るまでの2時間
延々と聞かされる羽目になってしまった。
そして、その後。
僕と美花は、閉店まで呑んで店を出た。
いつもの様に、僕が美花を
家まで送っている途中で、
突然、美花が立ち止まって
僕の顔をじっと覗き込んで来た。
「宗ちゃんは、結婚の事…考えてるんよね? 今すぐ
って訳では無いけど。菜々美ちゃんがな…ほら、
心配性やから。すぐにどうなってるん? って聞いて来るんよ」
美花は、凄く言葉に困った様子で
俯き加減で、目を少し潤ませて
すがるように聞いて来たので、
僕はハッキリと伝える事にした。
「当たり前やん。結婚の事は、真面目に考えてるよ。
出来れば、30なるまでにしたいって思ってるし。
美花がええんやったら、ぼちぼち家族を交えて、
日取りを決めてもええと思ってる。正直に言うと、僕は、
子供が早く欲しいから、もうそろそろしたいなて…」
最近、ずっと考えていたことを
僕が一気に口に出して話してしまったので、
美花のほうが、この展開に驚いているようだった。
「宗ちゃん? 今のってやっぱりプロポーズ?」
少し声を震わせて美花は、僕の目を見て聞いてきた。
僕は、そんな美花が堪らなく
愛しくなってしまって、美花の腕を掴んで
自分の胸に抱き寄せてギュッと強く抱きしめて
美花の唇に僕の唇を重ねていた。
「美花ちゃん…。今年中に僕のお嫁さんになって下さい!」
美花を抱きしめたままで、僕が
改めてプロポーズをしたら、美花は
うんうんと泣きながら頷いていた。
美花の親には、結婚前提の付き合いという
挨拶をしたっきりやったから、
まる1年どうするとか、具体的な話も
僕はしなかったから、美花には
不安な思いをさせてしまったようだった。
確かに、結婚するならするで
いつ頃するかとか、考えていかないと
いけない時期になっていたんやなって
僕は、泣いてる美花にひたすら謝った。
その後、急に美花が
帰りたくないと言い出して
家に電話を入れて、僕のマンションに
そのまま泊まることになってしまった。
◇◇◇
翌朝、僕と美花は
僕のスマホのLINEの着信音で目が覚めた。
LINEは、こうちゃんからで
赤ちゃんが生まれそうという内容だったので
僕らは、慌てて出掛ける用意をして家を出て
『黒猫』で、モーニングを食べることにして
行ってみると、オカンもがんもを連れて来ていた。
「おはようさん! こうちゃんから連絡あった?
麻由美ちゃん、陣痛始まったみたいやな! 初産やから
時間掛かるかもしれへんけど、早かったら今日中には
生まれるかもって、こうちゃんがめっちゃ興奮してたわ!」
オカンは、めっちゃ嬉しそうに
マスターと楽しみやなぁって笑っていた。
「そう言えばや! 宗ちゃんと美花ちゃんも、
そろそろなんちゃう? 子育ては、早いほうがええで~」
僕と美花を見て、オカンが笑いながら
美花のお尻を軽く叩いて冷やかして来た。
「へへへ…実は昨日の夜、宗ちゃんに、プロポーズしてもらってん!」
美花は、オカンの肩を揉みながら
昨日のことを照れ臭そうに報告していた。
「ほんまに? そら良かったわ~! 宗ちゃん、奥手やから
心配しとってんで! これで、菜々美ちゃんも安心するわ。
宗ちゃん、美花ちゃんの事! 頼むで~!」
オカンは、嬉しそうに
美花に良かったなぁ~って
言って喜んでくれていた。
「それで? いつ頃するか決めたんですか? 結婚式」
「やっぱり、こうちゃん達と同じように、6月に
『ローズマリー』でさせてもらいたいなぁって、思ってるんです。
やっぱりジューン・ブライドって、女の子の憧れみたいやし」
マスターに聞かれて
僕が思っていたことを答えていると、
話し終わる前に、美花が僕に抱きついていた。
「めっちゃ嬉しい! そこまで考えてくれてたんや♪」
僕の顔を見上げた
美花の目からは、ポロポロと
涙がこぼれ落ちていた。
その後、僕の母親と兄貴に連絡をしたら、
早いほうが良いと言って、2人は僕と一緒に
美花の家に訪れて、美花の両親に年内には
結婚したいと報告をして、心良く了解を貰えたので
僕と美花は、結婚式の日取りを決めることにした。
式の日取りは、こうちゃん達の時と同じで
6月の、最初の日曜日にすることに決めて
オカンが、亞夜子ママに連絡してくれたので、
僕らの希望通り『ローズマリー』で
披露宴をすることに決まった。
話もうまく纏まって、
母親と兄貴を駅で見送った後で
美花が僕にスマホを見せて来た。
「今な…こうちゃんから、LINE来たんやけど。
麻由美ちゃん、まだ、分娩室やねんて。途中で陣痛が
弱まったみたいで生まれるのは、日付変わってからかもって。
初産って、大変やねんなぁ…」
美花が、心配そうに
何かを考えてる様子だったので、
僕は、麻由美ちゃんのいる病院へ
行ってみようかと美花に聞いたら、
首を振って苦笑していた。
「うちらが行っても気が散るやろうし、こうちゃんにも
気を使わせるだけやから、店で連絡来るのを待っとこ!」
美花はそう言うと
僕の腕に自分の腕を絡めて歩き出した。
店の戸を開けて
2人で中へ入ると、比奈ちゃんが
クラッカーを僕と美花に向けて鳴らして、
おめでとう~と手を叩いて笑っていた。
「宗ちゃん! 美花ちゃん! おめでとうさん! 」
比奈ちゃんは、僕と美花を
ハグしてめっちゃ喜んでくれていた。
座敷には、亜紀ちゃんと真斗さんと
拓海と桜絵ちゃんが、先に来て
既に出来上がっていて、亜紀ちゃんも
桜絵ちゃんも、楽しそうに雛段の前で写真を撮っていた。
「結婚決まったんやて? おめでとう~♪」
拓海が、僕を見て言ったので
僕は、拓海と桜絵ちゃんに向かって
ポンと手を叩いて今、思いついたことを提案してみた。
「そうや! 披露宴! 一緒にせえへんか? 拓海と桜絵ちゃん、
結婚式してないやろ? 披露宴だけでも一緒にせえへんか?」
たった今、思いついた事やったけど、
思い切って聞いたら、2人とも一緒にやりたい!
って叫んで、僕と美花に抱きついて来た。
真斗さんと亜紀ちゃんも喜んでくれて、
そのまま、嬉しくなった僕も美花も
いつもより少し飲み過ぎてしまった。
結局、閉店まで店でみんなで騒いでいたら、
オカンにこうちゃんからLINEが届いた。
「3月3日0時20分3260グラムの元気な娘が
生まれましたぁ~♡やって~♪こうちゃんからLINE来たで!
予定日通りや! 比奈と同じ3月3日や(笑)」
オカンは、片付けも放り出して
とっておきのワインを出して来て、
お祝いや~って叫んで、店に残っていた
僕と美花と拓海と桜絵ちゃんと一緒に
飲み出して、結局、家に帰ったのは明け方やった。
その日の昼過ぎになって、
美花と僕は、やっと起きて2日酔いの
頭を抱えて、飲み過ぎたって
二人で反省して笑った。
それから一緒にお祝いを買って、
麻由美ちゃんの入院している病院へ行くと、
病院の前でこうちゃんが満面の笑顔で出迎えてくれた。
「おめでとう! 女の子やってんな! 比奈ちゃんと
同じひな祭りの日やし、来年からは一緒に祝えるな♪」
僕は、そう言ってこうちゃんにお祝いを渡した。
「何がええか悩んでんけど、マザーズバッグにしてん。
『オカンの店』に赤ちゃん連れてくるようになったら、
役に立つ物って考えたら、これが一番ええかなと思ってん」
美花が、こうちゃんに
お祝いの中身の説明をしたら、
こうちゃんは、嬉しそうに
渡したお祝いを抱きしめていた。
「二人ともありがとう! 麻由美…絶対、喜ぶわ! 」
こうちゃんは、ニコニコしながら
赤ちゃんのいる新生児室に案内してくれて、
こうちゃん達の赤ちゃんを見せてくれた。
「あれやで! 手前の右から2番めのべっぴんさん!
あれが、俺の娘やで! 可愛いやろ?(笑)」
こうちゃんが、僕達に自分の娘を
自慢していると後ろから麻由美ちゃんの声がした。
「早速来てくれてんなぁ~! 宗ちゃん、美花ちゃんありがとう!」
少し疲れた顔をしていたけど、
思ったより、麻由美ちゃんは元気やった。
4人で部屋に戻って話していると、
オカンと比奈ちゃんとオトンも一緒に
来たから、こうちゃんも麻由美ちゃんも凄く喜んでいた。
可愛い赤ちゃんを見て、
僕と美花は、早く子供が欲しいねって
話しながら、その日もそのまま
僕のマンションに二人で一緒に帰った。
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