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娘夫婦への贈り物
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◇◇◇◇◇
明日は…
私たち夫婦が、ずっと待ち望んでいた
大切に育てた一人娘の結婚式。
麻由美も、今年で
アラサーってやつになる。
もしかしたら、結婚
しないのかもしれないと
私も主人も、半ば諦めていた。
ところが、今年になって
お隣のこうちゃんと、結婚するって
あっけらかんと報告されて
ビックリしたけど…正直、ホッとしていた。
うちの麻由美は、小さい頃から…
お隣に住んでる田中さんの息子の
こうちゃんのお嫁さんにしてもらうんやと
毎日のように、お隣に上がり込んでは
こうちゃんの世話を焼いていた。
私ら夫婦は、その内…
大人になれば、他に好きな人が出来て
さっさとお嫁に行くやろうと
甘い考えでおったから、まさかほんまに
こうちゃんと結婚するなんて思ってなかった。
そやから、ほんまびっくりしたけど
嬉しい話でもあったから
ホッとすることが出来た。
結婚の挨拶に来たこうちゃんは
いつの間にか、一人前の男になっていた。
「もっと、早くにケジメを付けなアカンと思いつつ。
ズルズル麻由美に甘えてしもて、こんなに遅くなってしもて…
ほんま申し訳なく思ってます」
私と主人にキチンと頭を下げて
しっかりとした挨拶をしてくれていた。
「麻由美さんと結婚することを許してください。
必ず俺が、麻由美さんを幸せにします。お願いします!」
こうちゃんの顔は、
今まで見たこともない
真剣な、本物の男の顔やった。
◇◇◇
結婚式までの日々は
いつも以上に
慌ただしく過ぎていった。
そして
結婚式の前日。
麻由美に結婚式の【前夜祭】を
『オカンの店』でやると聞かされていたから
主人と一緒に来てみたら
既に店の中からは、楽しそうな
麻由美たちの笑い声が聞こえていた。
「どうも~。松井です。こんばんわ~」
私が少し物怖じしながら、店の戸を開けて入ったら
「おかえり~! 麻由美ちゃんの
お母さんとお父さんが来はったよ~!」
いつも明るくて元気な店主の
陽子さんが、笑顔で迎えてくれた。
「この度は、色々お世話になります。
いつもいつも遅くまですみません」
手土産に持って来た菓子折りを
陽子さんに手渡してから
深く私と主人は、頭を下げて挨拶をした。
「堅苦しい挨拶は無しにして、一緒に
楽しんで行って下さい。麻由美ちゃんには、
いつもごひいきにしてもらって、有難い思ってます。
この度は、本当におめでとうさんです」
陽子さんは、私と主人に
座敷の方へどうぞと案内してくれた。
そこには、すでに麻由美と
こうちゃん母子が揃って座って待っていた。
「貴ちゃん遅い~。遅刻やで!
待ちきれんから、先に呑んでしもたやん」
こうちゃんの母親の浅子ちゃんが
私の荷物を受け取って
早く座れと、私を横に座らせた。
浅子ちゃんとは30年以上も
お隣同士やから、身内みたいな仲やし
お互いに、かしこまることも無いから
この結婚は、物凄く両家の
親にとってもありがたい話やった。
座敷には、私たち夫婦と
麻由美にこうちゃんに浅子ちゃんに
こうちゃんの姉の春美ちゃんに
麻由美の妹みたいな美花ちゃんと
美花ちゃんの婚約者の宗ちゃんが
一緒にテーブルを囲んで座っていた。
そして隅っこに置かれた
ベビー布団で、比奈ちゃんの娘の
絵美里ちゃんと、噂の猫のがんもちゃんが
気持ち良さそうに仲良く眠っていた。
カウンターには
見慣れたこの店の常連さんが
6人座っていて、陽子さんの娘の
比奈ちゃんも、カウンターの中で
陽子さんの手伝いを忙しそうにしていた。
「え~、本日は、明日の俺と麻由美の結婚式の
前夜祭という、このような場を設けて頂きまして、
本当にありがとうございます。こんな風に
みんなに祝ってもらえて。俺たちは、ほんまに
幸せ者やと思っております。感謝感激でございます~♪」
こうちゃんは、嬉しそうに
冗談を交えての挨拶をして
みんなから笑いを取っていた。
「それでは! 浩二さん! 麻由美さん!
ご結婚、おめでとうございます~♪」
宗ちゃんの真面目な乾杯の音頭で
みんな一斉に乾杯をした。
「浅ちゃん。明日は、よろしくお願いします~」
私は、横にいる浅ちゃんに
軽くお辞儀をしてから乾杯した。
若いもんが盛り上がって
騒ぎ始めたので、主人はカウンターへ移って
のんびりと、健ちゃんと一緒に飲み始めた。
私も浅ちゃんと、麻由美とこうちゃんの
昔話をしながら、美味しい料理とお酒を味わっていた。
お酒も入って皆が盛り上がってきた頃
浅ちゃんは、私をチラッと見て
少し考えてから、ちょっと身体を寄せて
私の耳元でコソコソっと話し出した。
「浩二と麻由ちゃんなぁ、うちと一緒に住むって
言うてるけど…貴ちゃんは、それでええん?
どこかマンションでも、借りるかさせた方が
ええのと違うかな? ほら、孫の顔も早く見たいやん」
いつも冗談しか言わん浅ちゃんが
急に真剣な顔をして話すから
またそれがなんかおかしくて、私は
ぶっと吹き出して笑ってしまった。
「浅ちゃん、もうそんなことまで考えてたんや。
私は、隣におってくれるって聞いて
バンザイしとっただけやわ。アカンやん。
確かに…孫は、早く見たいわ」
浅ちゃんを笑ったものの。
良く考えたら、確かに笑えなかった。
「それよりや! あの2人。
まだしてないってことは…無いわな?」
浅ちゃんは、こうちゃんと麻由美を見て私の顔を見た。
「それは無いやろ~? あの歳やで!
きっと気をつけてたんと違うかなぁ~」
コソコソと嫁と婿の母親同士が
なかなか普通では、出来ない会話をしていたら
さすがに横からツッコミが入った。
「ありえへん! 嫁と婿の母親同士が
なんかとんでも無い会話してる~」
春美ちゃんが、話を
横で聞いててクスクスと笑っていた。
「春美! そないに笑うけど? 親がやで?
下の部屋で寝てて、旦那と子作り出来るか?」
浅ちゃんが、春美ちゃんに
真剣な顔をして話を振ると、春美ちゃんが
慌てて口をパクパクさせていた。
「ちょちょちょい! オカン! 声が大きなってる!」
春美ちゃんは、浅ちゃんの口を
慌てて自分の手で塞いで黙らせていた。
隣のテーブルに座ってる
こうちゃんも麻由美も、宗ちゃんや
美花ちゃんらと、盛り上がってるから
私らの会話なんて、聞こえてる様子は
無かったので、3人で顔を見合わせて少しホッとした。
ええタイミングで
猫のがんもちゃんが起きて
麻由美たちの側を
ちょこちょこし出したから大丈夫そうだ。
「確かに、親が下の部屋におるのと
おらんのとでは、かなり違いはあると思う」
今度は春美ちゃんが
真剣な顔をして答えていた。
3人でコソコソと話し込んでたら
陽子さんが、デザートを持って来てくれて
陽子さんまで気を使って
小声でどうしたんか聞いて来た。
浅ちゃんと春美ちゃんは
私らが相談してる内容を陽子さんに
解りやすく簡潔に説明して意見を求めたら
陽子さんがクスクスと笑い出した。
「なんや~♪ そんなことをさっきから
嫁と婿の母親と小姑で相談しとったん?」
陽子さんは、少し声が
大きくなったと気付いて焦ったのか
慌てて自分の手で、口を塞いでいた。
「心配する気持ちは、よ~くわかる。
うんうんわかる。そや! うちの空き家で良かったら
住んでくれてかまへんで! 少し手は入れな住まれへんけどな」
陽子さんは、思い出したように
町内の地図を広げて出して、
私と浅ちゃんと春美ちゃんに見せた。
陽子さんの亡くなった両親が
住んでたお家を、ほんまは比奈ちゃんに
住まわそうと、陽子さんは考えていたらしい。
ところが、比奈ちゃんが一緒に住んだほうが
何かと便利やし、自分が住むより
誰かに貸して住んでもらったほうが
収益にもなるからと、空き家のままで
おいてるねんと言って
陽子さんは、にっこり笑っていた。
「お家賃おいくら位で? 敷金は?」
浅ちゃんと春美ちゃんは
陽子さんに真剣に話を聞いていた。
「敷金なんていらんし、家賃も年間の税金分を
払って貰ったら十分やで! リフォームは自分らで
好きにしてもらわなアカンけどね」
どうやろか? と言う陽子さんに
浅ちゃんは、すでに乗り気になっていた。
「確かにココなら…私らの家からも近いし
ええ話や思うけど、後は本人らの気持ちやね」
「家のリフォーム済んでから、2人に鍵を
渡したらどうやろか? ええと思わへん?」
結局の所は、浅ちゃんに
押し切られて私も承諾した。
陽子さんの空き家を貸してもらって
リフォーム後に、麻由美とこうちゃんに
住んでもらうということに話は纏まった。
家を格安でリフォームしてくれる
知り合いがおるから任せときと、陽子さんが
言ってくれたので、私たちは
お言葉に甘えてお願いすることにした。
予算の方は、私と浅ちゃんと
半分ずつ出し合うので、出来れば
100万円以内でお願いしますと
頭を下げたら、陽子さんが
そんなにいらんと思うと言って笑っていた。
◇◇◇
結婚式も無事に終えて
2人は、新婚旅行に
北海道へ3泊4日で行っていた。
2人がおらん内に
浅ちゃんと家のリフォームの
進み具合を見に行くと、浅ちゃんは
私を見てニヤニヤしながら言った。
「新婚旅行で子供が出来てしもたら、
うちらの取り越し苦労やなぁ!」
「また、そんな冗談言うて! どっちにしても
帰って来たら、家の鍵を一緒に渡すんやで!
私らは、元気な間は別居が一番やしな~♪」
私と浅ちゃんは、冗談を言い合いながら
2人の新しい家のマスターキーと
スペアーキーに、お揃いのキーホルダーを付けて
後は帰って来てからのお楽しみやなと
2人で顔を見合わせて笑った。
結局リフォームの費用は
予定の半分位で済んだので
残りは、2人に結婚のお祝いとして
渡すことにした。
2人が新婚旅行から帰ってくる日になって
私と浅ちゃんは、きっと2人は家には
真っ直ぐ帰って来ないだろうと
『オカンの店』で2人を待っていた。
「ただいま~! もう~疲れたぁ~」
「おかえり~! お疲れさん! 旅行は楽しかったか?」
店の戸を開けて
帰って来た麻由美は
すごく疲れた様子で
荷物ごと座敷に倒れ込んでいた。
それでも、陽子さんに
「楽しかったんやろ?」って
聞かれた麻由美は、ニッコリ笑って
「すごく楽しかったで~♪」
と言ってから身体を起こした。
「ちょっと! お母ちゃんら
2人して、ここで待ってたん?」
私と浅ちゃんがおることに
気付いた麻由美は、少し驚いた顔をして
こうちゃんと顔を見合わせて笑っていた。
こうちゃんは、すぐに気付いてたんやけどね。
2人は、取り敢えず
ビールを美味しそうに飲んで一息ついていた。
私は浅ちゃんと顔を見合わせて
頷いてから、新しい家の鍵を2人の前に置いた。
「これはうちらからの贈り物やで。黙って受け取って♪」
浅ちゃんが、こうちゃんと
麻由美に向かって鍵を差し出した。
2人は、何が起こったのか
わからない様子で、ポカンとしていたけど
鍵をジッと見つめて、何を意味するかを
理解したらしく。びっくりして
麻由美が、声をあげて叫んでいた。
「ほんまに? 何処の鍵?
家? うちらの? うちらの家?」
麻由美が、私に向かって聞くので。
私は、うんうんと頷いていた。
「オカン! ええんか? 1人になるんやで? 大丈夫なんか?」
浅ちゃんにこうちゃんが聞いたら
浅ちゃんは、大丈夫やと言って笑っていた。
「別に住む言うたかて、歩いて行ける距離やん。
それに隣に貴ちゃんもおるし、うちは大丈夫やで!」
浅ちゃんと私は
「あんまり年寄り扱いせんとって」と、
2人に向かって舌を出してやった。
「まだまだ、2人だけで育んで貰いたいことが
山ほどあるから、頑張れってことや!」
戸惑っている2人の背中を
ポンポンと叩いて、陽子さんが笑っていた。
「それって思っきりプレッシャーかけてるやん。
もう~、勘弁してくれ~!!」
こうちゃんは、凄く照れ臭そうに
頭を掻いて笑っていた癖に、ニヤニヤと
笑いながら麻由美にコソコソっと耳打ちしていた。
「麻由美、頑張ろうな! 俺も頑張るから♪」
すると麻由美は、どういう意味かを
察したみたいで、こうちゃんの背中を
バシバシ叩きながら顔を真っ赤にして
恥ずかしそうにしていた。
その後で自分たちが住む家が
陽子さんの持ち家と聞いて
驚いていたけど、すごく喜んでくれていた。
しばらく飲んで騒いだ後で
2人は比奈ちゃんに案内されて
新しい新居へ帰って行った。
孫の顔が見れる日も
そう遠くないかもと言って
浅ちゃんと陽子さんと私は楽しみやなぁ~と笑った。
そして私が家に帰ると、1人でポツンと
寂しそうに主人が、麻由美の小さい頃の
アルバムを見て、目頭を押さえながらお酒を呑んでいた。
明日は…
私たち夫婦が、ずっと待ち望んでいた
大切に育てた一人娘の結婚式。
麻由美も、今年で
アラサーってやつになる。
もしかしたら、結婚
しないのかもしれないと
私も主人も、半ば諦めていた。
ところが、今年になって
お隣のこうちゃんと、結婚するって
あっけらかんと報告されて
ビックリしたけど…正直、ホッとしていた。
うちの麻由美は、小さい頃から…
お隣に住んでる田中さんの息子の
こうちゃんのお嫁さんにしてもらうんやと
毎日のように、お隣に上がり込んでは
こうちゃんの世話を焼いていた。
私ら夫婦は、その内…
大人になれば、他に好きな人が出来て
さっさとお嫁に行くやろうと
甘い考えでおったから、まさかほんまに
こうちゃんと結婚するなんて思ってなかった。
そやから、ほんまびっくりしたけど
嬉しい話でもあったから
ホッとすることが出来た。
結婚の挨拶に来たこうちゃんは
いつの間にか、一人前の男になっていた。
「もっと、早くにケジメを付けなアカンと思いつつ。
ズルズル麻由美に甘えてしもて、こんなに遅くなってしもて…
ほんま申し訳なく思ってます」
私と主人にキチンと頭を下げて
しっかりとした挨拶をしてくれていた。
「麻由美さんと結婚することを許してください。
必ず俺が、麻由美さんを幸せにします。お願いします!」
こうちゃんの顔は、
今まで見たこともない
真剣な、本物の男の顔やった。
◇◇◇
結婚式までの日々は
いつも以上に
慌ただしく過ぎていった。
そして
結婚式の前日。
麻由美に結婚式の【前夜祭】を
『オカンの店』でやると聞かされていたから
主人と一緒に来てみたら
既に店の中からは、楽しそうな
麻由美たちの笑い声が聞こえていた。
「どうも~。松井です。こんばんわ~」
私が少し物怖じしながら、店の戸を開けて入ったら
「おかえり~! 麻由美ちゃんの
お母さんとお父さんが来はったよ~!」
いつも明るくて元気な店主の
陽子さんが、笑顔で迎えてくれた。
「この度は、色々お世話になります。
いつもいつも遅くまですみません」
手土産に持って来た菓子折りを
陽子さんに手渡してから
深く私と主人は、頭を下げて挨拶をした。
「堅苦しい挨拶は無しにして、一緒に
楽しんで行って下さい。麻由美ちゃんには、
いつもごひいきにしてもらって、有難い思ってます。
この度は、本当におめでとうさんです」
陽子さんは、私と主人に
座敷の方へどうぞと案内してくれた。
そこには、すでに麻由美と
こうちゃん母子が揃って座って待っていた。
「貴ちゃん遅い~。遅刻やで!
待ちきれんから、先に呑んでしもたやん」
こうちゃんの母親の浅子ちゃんが
私の荷物を受け取って
早く座れと、私を横に座らせた。
浅子ちゃんとは30年以上も
お隣同士やから、身内みたいな仲やし
お互いに、かしこまることも無いから
この結婚は、物凄く両家の
親にとってもありがたい話やった。
座敷には、私たち夫婦と
麻由美にこうちゃんに浅子ちゃんに
こうちゃんの姉の春美ちゃんに
麻由美の妹みたいな美花ちゃんと
美花ちゃんの婚約者の宗ちゃんが
一緒にテーブルを囲んで座っていた。
そして隅っこに置かれた
ベビー布団で、比奈ちゃんの娘の
絵美里ちゃんと、噂の猫のがんもちゃんが
気持ち良さそうに仲良く眠っていた。
カウンターには
見慣れたこの店の常連さんが
6人座っていて、陽子さんの娘の
比奈ちゃんも、カウンターの中で
陽子さんの手伝いを忙しそうにしていた。
「え~、本日は、明日の俺と麻由美の結婚式の
前夜祭という、このような場を設けて頂きまして、
本当にありがとうございます。こんな風に
みんなに祝ってもらえて。俺たちは、ほんまに
幸せ者やと思っております。感謝感激でございます~♪」
こうちゃんは、嬉しそうに
冗談を交えての挨拶をして
みんなから笑いを取っていた。
「それでは! 浩二さん! 麻由美さん!
ご結婚、おめでとうございます~♪」
宗ちゃんの真面目な乾杯の音頭で
みんな一斉に乾杯をした。
「浅ちゃん。明日は、よろしくお願いします~」
私は、横にいる浅ちゃんに
軽くお辞儀をしてから乾杯した。
若いもんが盛り上がって
騒ぎ始めたので、主人はカウンターへ移って
のんびりと、健ちゃんと一緒に飲み始めた。
私も浅ちゃんと、麻由美とこうちゃんの
昔話をしながら、美味しい料理とお酒を味わっていた。
お酒も入って皆が盛り上がってきた頃
浅ちゃんは、私をチラッと見て
少し考えてから、ちょっと身体を寄せて
私の耳元でコソコソっと話し出した。
「浩二と麻由ちゃんなぁ、うちと一緒に住むって
言うてるけど…貴ちゃんは、それでええん?
どこかマンションでも、借りるかさせた方が
ええのと違うかな? ほら、孫の顔も早く見たいやん」
いつも冗談しか言わん浅ちゃんが
急に真剣な顔をして話すから
またそれがなんかおかしくて、私は
ぶっと吹き出して笑ってしまった。
「浅ちゃん、もうそんなことまで考えてたんや。
私は、隣におってくれるって聞いて
バンザイしとっただけやわ。アカンやん。
確かに…孫は、早く見たいわ」
浅ちゃんを笑ったものの。
良く考えたら、確かに笑えなかった。
「それよりや! あの2人。
まだしてないってことは…無いわな?」
浅ちゃんは、こうちゃんと麻由美を見て私の顔を見た。
「それは無いやろ~? あの歳やで!
きっと気をつけてたんと違うかなぁ~」
コソコソと嫁と婿の母親同士が
なかなか普通では、出来ない会話をしていたら
さすがに横からツッコミが入った。
「ありえへん! 嫁と婿の母親同士が
なんかとんでも無い会話してる~」
春美ちゃんが、話を
横で聞いててクスクスと笑っていた。
「春美! そないに笑うけど? 親がやで?
下の部屋で寝てて、旦那と子作り出来るか?」
浅ちゃんが、春美ちゃんに
真剣な顔をして話を振ると、春美ちゃんが
慌てて口をパクパクさせていた。
「ちょちょちょい! オカン! 声が大きなってる!」
春美ちゃんは、浅ちゃんの口を
慌てて自分の手で塞いで黙らせていた。
隣のテーブルに座ってる
こうちゃんも麻由美も、宗ちゃんや
美花ちゃんらと、盛り上がってるから
私らの会話なんて、聞こえてる様子は
無かったので、3人で顔を見合わせて少しホッとした。
ええタイミングで
猫のがんもちゃんが起きて
麻由美たちの側を
ちょこちょこし出したから大丈夫そうだ。
「確かに、親が下の部屋におるのと
おらんのとでは、かなり違いはあると思う」
今度は春美ちゃんが
真剣な顔をして答えていた。
3人でコソコソと話し込んでたら
陽子さんが、デザートを持って来てくれて
陽子さんまで気を使って
小声でどうしたんか聞いて来た。
浅ちゃんと春美ちゃんは
私らが相談してる内容を陽子さんに
解りやすく簡潔に説明して意見を求めたら
陽子さんがクスクスと笑い出した。
「なんや~♪ そんなことをさっきから
嫁と婿の母親と小姑で相談しとったん?」
陽子さんは、少し声が
大きくなったと気付いて焦ったのか
慌てて自分の手で、口を塞いでいた。
「心配する気持ちは、よ~くわかる。
うんうんわかる。そや! うちの空き家で良かったら
住んでくれてかまへんで! 少し手は入れな住まれへんけどな」
陽子さんは、思い出したように
町内の地図を広げて出して、
私と浅ちゃんと春美ちゃんに見せた。
陽子さんの亡くなった両親が
住んでたお家を、ほんまは比奈ちゃんに
住まわそうと、陽子さんは考えていたらしい。
ところが、比奈ちゃんが一緒に住んだほうが
何かと便利やし、自分が住むより
誰かに貸して住んでもらったほうが
収益にもなるからと、空き家のままで
おいてるねんと言って
陽子さんは、にっこり笑っていた。
「お家賃おいくら位で? 敷金は?」
浅ちゃんと春美ちゃんは
陽子さんに真剣に話を聞いていた。
「敷金なんていらんし、家賃も年間の税金分を
払って貰ったら十分やで! リフォームは自分らで
好きにしてもらわなアカンけどね」
どうやろか? と言う陽子さんに
浅ちゃんは、すでに乗り気になっていた。
「確かにココなら…私らの家からも近いし
ええ話や思うけど、後は本人らの気持ちやね」
「家のリフォーム済んでから、2人に鍵を
渡したらどうやろか? ええと思わへん?」
結局の所は、浅ちゃんに
押し切られて私も承諾した。
陽子さんの空き家を貸してもらって
リフォーム後に、麻由美とこうちゃんに
住んでもらうということに話は纏まった。
家を格安でリフォームしてくれる
知り合いがおるから任せときと、陽子さんが
言ってくれたので、私たちは
お言葉に甘えてお願いすることにした。
予算の方は、私と浅ちゃんと
半分ずつ出し合うので、出来れば
100万円以内でお願いしますと
頭を下げたら、陽子さんが
そんなにいらんと思うと言って笑っていた。
◇◇◇
結婚式も無事に終えて
2人は、新婚旅行に
北海道へ3泊4日で行っていた。
2人がおらん内に
浅ちゃんと家のリフォームの
進み具合を見に行くと、浅ちゃんは
私を見てニヤニヤしながら言った。
「新婚旅行で子供が出来てしもたら、
うちらの取り越し苦労やなぁ!」
「また、そんな冗談言うて! どっちにしても
帰って来たら、家の鍵を一緒に渡すんやで!
私らは、元気な間は別居が一番やしな~♪」
私と浅ちゃんは、冗談を言い合いながら
2人の新しい家のマスターキーと
スペアーキーに、お揃いのキーホルダーを付けて
後は帰って来てからのお楽しみやなと
2人で顔を見合わせて笑った。
結局リフォームの費用は
予定の半分位で済んだので
残りは、2人に結婚のお祝いとして
渡すことにした。
2人が新婚旅行から帰ってくる日になって
私と浅ちゃんは、きっと2人は家には
真っ直ぐ帰って来ないだろうと
『オカンの店』で2人を待っていた。
「ただいま~! もう~疲れたぁ~」
「おかえり~! お疲れさん! 旅行は楽しかったか?」
店の戸を開けて
帰って来た麻由美は
すごく疲れた様子で
荷物ごと座敷に倒れ込んでいた。
それでも、陽子さんに
「楽しかったんやろ?」って
聞かれた麻由美は、ニッコリ笑って
「すごく楽しかったで~♪」
と言ってから身体を起こした。
「ちょっと! お母ちゃんら
2人して、ここで待ってたん?」
私と浅ちゃんがおることに
気付いた麻由美は、少し驚いた顔をして
こうちゃんと顔を見合わせて笑っていた。
こうちゃんは、すぐに気付いてたんやけどね。
2人は、取り敢えず
ビールを美味しそうに飲んで一息ついていた。
私は浅ちゃんと顔を見合わせて
頷いてから、新しい家の鍵を2人の前に置いた。
「これはうちらからの贈り物やで。黙って受け取って♪」
浅ちゃんが、こうちゃんと
麻由美に向かって鍵を差し出した。
2人は、何が起こったのか
わからない様子で、ポカンとしていたけど
鍵をジッと見つめて、何を意味するかを
理解したらしく。びっくりして
麻由美が、声をあげて叫んでいた。
「ほんまに? 何処の鍵?
家? うちらの? うちらの家?」
麻由美が、私に向かって聞くので。
私は、うんうんと頷いていた。
「オカン! ええんか? 1人になるんやで? 大丈夫なんか?」
浅ちゃんにこうちゃんが聞いたら
浅ちゃんは、大丈夫やと言って笑っていた。
「別に住む言うたかて、歩いて行ける距離やん。
それに隣に貴ちゃんもおるし、うちは大丈夫やで!」
浅ちゃんと私は
「あんまり年寄り扱いせんとって」と、
2人に向かって舌を出してやった。
「まだまだ、2人だけで育んで貰いたいことが
山ほどあるから、頑張れってことや!」
戸惑っている2人の背中を
ポンポンと叩いて、陽子さんが笑っていた。
「それって思っきりプレッシャーかけてるやん。
もう~、勘弁してくれ~!!」
こうちゃんは、凄く照れ臭そうに
頭を掻いて笑っていた癖に、ニヤニヤと
笑いながら麻由美にコソコソっと耳打ちしていた。
「麻由美、頑張ろうな! 俺も頑張るから♪」
すると麻由美は、どういう意味かを
察したみたいで、こうちゃんの背中を
バシバシ叩きながら顔を真っ赤にして
恥ずかしそうにしていた。
その後で自分たちが住む家が
陽子さんの持ち家と聞いて
驚いていたけど、すごく喜んでくれていた。
しばらく飲んで騒いだ後で
2人は比奈ちゃんに案内されて
新しい新居へ帰って行った。
孫の顔が見れる日も
そう遠くないかもと言って
浅ちゃんと陽子さんと私は楽しみやなぁ~と笑った。
そして私が家に帰ると、1人でポツンと
寂しそうに主人が、麻由美の小さい頃の
アルバムを見て、目頭を押さえながらお酒を呑んでいた。
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エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
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