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美花と和美
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◇◇◇◇◇
今日は…
仕事がアホみたいに
忙しくて21時まで残業やった。
明日は休日やから
たまったストレスを発散するために
オカンの店に向かって
裏道へ入ろうと思っていたら、
中学生位の女の子が
道の脇でしゃがみ込んで
じっとしているのに気付いて
つい立ち止まってしまった。
(この子…こんな所で、何をしてるんやろか?)
どうしても気になってしもて
私は、その子に声を掛けて聞いてみた。
「こんな時間に何してるん?
中学生やろ? 親が心配してるんちゃうか?」
すると…
彼女は、何も言わず
ただ俯いたままで
その場には、気不味い空気が漂っていた。
私の経験から言わしてもらうと…
これは、思春期に一度くらいは経験する
家出ってやつとちゃうかな?
多分やけど…。
親と喧嘩でもして
家を出て来たものの…
行く宛もなくて、
一人で途方に暮れていたんやろう。
こんな時こそ
年上の経験豊富なお姉さまが
迷える子羊を助けてやらんとね。
「うちはこれから、すぐその先にある
オカンの店に行くんやけど…一緒に来るか?」
私がゆっくりと、体を起こしながら
彼女の手を取って聞いてやると、
黙って彼女は、顔を上げて
私の目を見て頷いていた。
そやから私も
何も言わず頷いて
彼女の頭を撫でてやってから、
身体を支えるように
肩を抱いて店まで歩いた。
「オカン! ただいま~お腹空いたー!」
私が店の暖簾をくぐると、
いつもと変わらず
カウンターの向こうから
オカンが、笑顔で迎えてくれていた。
「おかえり~! 美花ちゃん。今日もお疲れさん!」
いつもなら
満席に近いくらい客がおる時間やのに…
何故か今日はカウンター席に
常連のこうちゃんと宗ちゃんがおるだけやった。
「あれ? 今日はえらい可愛らしい
お連れさん連れて…美花ちゃん、どないしたんや?」
オカンはカウンターから出て来て、
私が連れて来た彼女に興味津々やった。
「そうや! 自分、名前なんて言うん?」
「…和美です。中学二年です。
…苗字も言うた方が良いですか?」
座敷の席に座りながら私が聞くと、
彼女は小さな声でぼそぼそっと答えると
またすぐに俯いてしまった。
私もオカンも顔を見合わせて笑いながら、
名前だけでも別にええよと言ってやった。
オカンに温かいお茶と
今日の夜定食を2つ頼んでから
私は和美に聞いてみた。
「それで? 何であんなとこに一人で
しゃがみこんでたん? 怒らへんから言うてみ?」
すると
今度は観念したのか
私を信用してくれたのか?
「実は…お、お父さんを探していたんです」
ゆっくりと顔を上げると
和美は真面目な顔で答えていた。
和美が父親を探してるということは、
親とケンカでもして
家出をして来たんやないかという
私の推理は、見事に外れてしもてるやん。
「和美が家出して来たんと違うかったんや!」
「はい。家出をしたのは、お父さんのほうです。
もう一週間も家に帰って来ないから
心配になって探してたんです。お母さんは仕事で
海外やから…すぐには家に帰って来られへんし…ううう」
かなり心細い思いをしていたようで、
和美は声を殺して泣き出してしまった。
「とにかくお腹が空いてるやろ?
ご飯食べよ。ご飯! ここの夜定食は美味しいんやで。
話はそれからでええやん」
なんとか私とオカンで
和美を宥めすかして
夜定食を一緒に食べることにして、
父親の事はゆっくり後で聞くことにした。
「美味しいもん食べたら、
良い知恵が浮かぶから♪」
と…
オカンは、常連でも滅多に食べれない
手作りのイチゴのシャーベットも出してくれた。
和美は、夜定食もシャーベットも…
それはそれは美味しそうに
全部綺麗に平らげてしまって
青白かった顔色も
血の気が戻って良くなっていた。
さっきから
聞き耳を立てていた
こうちゃんと宗ちゃんも
座敷に来てくれて一緒に
父親を探したると言って
和美を元気付けてくれていた。
空腹も満たされて
事情を話してくれる気になった和美は
事の次第をポツポツと語り出した。
「うちの家は、お母さんとお父さんと
私の三人家族なんですけど…お母さんは
何処とは言えないんですが、会社の社長で…
半年前から海外へ出張中で、家にはお父さんと
私だけで暮らしてます。昼間は家政婦さんが来てくれて、
家事全般をやってくれてます。お父さんは、
お母さんの会社の役員なんですが、それは名ばかりで
ずっと家に居て、パソコンに向かって何かしてるんです」
和美は話の途中で一息ついて、
苦笑いしながらまた話を続けた。
「丁度一週間前なんですけど…
お父さんにお母さんから電話があったみたいで、
話の内容は良くわからないんですけど…
大人しいお父さんがふざけるな!って怒鳴ってて…
その後、家を出て行ったまま帰って来なくなったんです」
そこまで話すと…
和美はまた俯いてしまった。
そして
父親が出て行ったまま一週間も帰って来なくて…
心配になった和美は、心当たりを
手当たり次第に必死になって探していて、
それでも見つからんから、途方に暮れて
座り込んでいた所を、たまたま
通り掛かった私に声を掛けられて
ここへ来たと言う訳やね。
和美がこの辺りを探していたのは、
父親がインターネットで
この辺りのビジネスホテルを
検索した履歴を残していたかららしくて…
この辺りを探せば
見つかると思っていたらしい。
「それで? ホテルは確認してみた?」
「それが…どこにも泊まってなかったんです」
オカンに聞かれて
首を振りながら答えてる和美は、
不安で今すぐにでもまた泣き出しそうやった。
そして、
話し込んでる内に
何時の間にか店の中は
常連客でいっぱいになっていた。
「父親の写真とか写メとか無いの?」
話を一緒に聞いていた宗ちゃんが和美に聞くと…
和美は持っていたスマホを出して、
家族三人で写ってる画像を見せてくれた。
「ちょっと待って! マジで? これが父親?
めっちゃ若いんちゃう? それとも童顔なん?
それとも義理の父親とか?」
目の前に差し出された画像を見て、
私は思わず声を上げてしまった。
だってやね…
どう見ても二十代前半にしか見えへん
ジャニーズ系のイケメンやったから
私が想像してた父親とは
程遠すぎて驚いてしまったんよ。
「凄い童顔なんです。35歳なんですけどね。
最近は一緒に歩いてたら、兄妹とか
恋人同士に良く間違われて困ってます」
和美は凄く慣れた様子で笑って答えていた。
「これ! 皆に見てもらって誰か知らんか聞いてみて!」
私は、スマホをこうちゃんに渡して
客全員に父親を見かけた人がおらんか聞いて貰った。
すると、オネエのお店『ローズマリー』の
亞夜子ママが、三日前に
常連のお客さんと一緒に和美の父親が
お店に来ていたのを、イケメンだったから
憶えてるわよと教えてくれた。
和美の父親が一緒に居たのは男の人で、
高田さんというフリーのプロのカメラマンらしい。
「ちらっとだけ聞こえて来たんやけどな?
その彼ったら、高田ちゃんのマンションに
転がり込んでるようなことを話してたんよ!
だから二人はてっきり恋人同士なんやと思って
凄いショックやったから余計憶えてるのよ~!」
亞夜子ママは、溜め息を吐いてから
その時の様子を話してくれていた。
「まさか彼が結婚してて、こんなに大きい
娘までおるようには見えなかったものね~」
ちらっと横目で和美を見て
苦笑いをしながらも、バックの中から
ママはスマホを取り出していた。
「高田ちゃんの番号知ってるから、
今から電話して…呼び出してみる?」
和美に向かってスマホを差し出して、
亞夜子ママがどうするかを聞いて来た。
和美が亞夜子ママに返事をする前に、
この店にいる皆が和美の父親探しで
盛り上がってしまっていたので
すぐに電話して高田さんという人を
呼び出してもらう事に決まった。
亞夜子ママが電話をすると、
すぐに高田さんが出て
丁度近くで飲んでいる最中らしくて、
ママが誘うと、すぐにオカンの店まで
来てくれることになって
皆は物凄く盛り上がっていた。
高田さんは、和美の父親と
一緒に飲んでるようだと
亞夜子ママが
面白そうにニヤッと笑って教えてくれた。
一週間も中学生の娘を一人置いて
何をやっていたんだか? 呆れた父親やわ。
それでも、和美は
全然父親を怒っている様子は無くて、
逆に無事で良かったと喜んでいる。
出来た子供もおるもんやと感心していると、
店の戸が開いて高田さんと和美の父親が入って来た。
「おかえり~ 待ってたよ~♪」
オカンは、すました笑顔で
普段通り二人を迎え入れていた。
そして入って来た父親は、
和美がおることに気がついて
驚いて動きが止まっていた。
「洋祐! 何処行っとったん? 心配してんで!」
和美が立ち上がって父親に向かって叫んでいた。
(自分の父親を洋祐て…。なんか笑える)
なんて心の中で思いつつ、私も立ち上がった。
「和美ちゃんのお父さんには、
皆にわかるように…なんで、和美ちゃんを
放ったまま家を出たのか事情を話してもらわんとね!」
そして私は、逃げられへんように
父親を和美の前に座らせた。
父親の洋祐さんは観念したようで、
皆に頭をペコペコ下げていた。
「和ちゃんごめん。俺…もう一度フリーで
カメラやろう思って、高田さんに相談しとったんや!」
洋祐さんは、申し訳無さそうに
和美に頭を何度も下げていた。
「ちゃんと決まったら、和ちゃんにも
話そうって思ってたんやけど…なんか和ちゃんにも
馬鹿にされたらどうしよう思って言えんかったんや!」
そう話しながら、拳を握りしめて
洋祐さんは苦笑いしていた。
「別に馬鹿にしたりなんかしいひんで。
洋祐には洋祐の生き方があるんやし、
冴子ちゃんもその内きっとわかってくれると思う」
和美は、中学生とは思えない
大人びた口調で自分の父親を宥めていた。
洋祐さんは、仕事で行ったロンドンの街で
和美の母親と出会ったそうで。
そして、出会ったその日に
二人は恋に落ちてしまったらしい。
もともと情熱的な性格の二人は
帰国すると同時に結婚して、
その一年後に和美が生まれたことを切っ掛けに
洋祐さんはカメラマンを辞めて
会社の役員になって、忙しい和美の母親に代わって
洋祐さんがほとんど和美の世話をしていたらしい。
しかし、最近になって
自分が撮った写真が賞を貰って
仕事の依頼も来るようになっていたので、
そろそろ復帰したいと和美の母親に話したら、
馬鹿にされて相手にしてくれなかったので、
頭に来て家を飛び出してしまったらしい。
思っていたことを
ここで話すだけ話したら、
いつの間にか洋祐さんは
スッキリとした明るい表情になっていた。
そして、洋祐さんは皆にお礼を言うと…
一度家に和美と帰って、もう一度
真剣に家族で話し合う事にすると言って
高田さんにも頭を下げていた。
「それにしても和美ちゃんは、しっかり者やね。
洋祐さんは幸せ者やん!」
オカンが和美の頭を優しく撫でると、
洋祐さんを見てニィっと笑った。
「和美ちゃん。いつでもオカンの店に
帰って来たらええからね♪ 待ってるで!」
オカンは、昔の私に言ってくれたように
和美にもそう言って
帰っていく二人を見送っていた。
きっと和美もまた
「オカンの店」に帰って来るんやろな。
今日は…
仕事がアホみたいに
忙しくて21時まで残業やった。
明日は休日やから
たまったストレスを発散するために
オカンの店に向かって
裏道へ入ろうと思っていたら、
中学生位の女の子が
道の脇でしゃがみ込んで
じっとしているのに気付いて
つい立ち止まってしまった。
(この子…こんな所で、何をしてるんやろか?)
どうしても気になってしもて
私は、その子に声を掛けて聞いてみた。
「こんな時間に何してるん?
中学生やろ? 親が心配してるんちゃうか?」
すると…
彼女は、何も言わず
ただ俯いたままで
その場には、気不味い空気が漂っていた。
私の経験から言わしてもらうと…
これは、思春期に一度くらいは経験する
家出ってやつとちゃうかな?
多分やけど…。
親と喧嘩でもして
家を出て来たものの…
行く宛もなくて、
一人で途方に暮れていたんやろう。
こんな時こそ
年上の経験豊富なお姉さまが
迷える子羊を助けてやらんとね。
「うちはこれから、すぐその先にある
オカンの店に行くんやけど…一緒に来るか?」
私がゆっくりと、体を起こしながら
彼女の手を取って聞いてやると、
黙って彼女は、顔を上げて
私の目を見て頷いていた。
そやから私も
何も言わず頷いて
彼女の頭を撫でてやってから、
身体を支えるように
肩を抱いて店まで歩いた。
「オカン! ただいま~お腹空いたー!」
私が店の暖簾をくぐると、
いつもと変わらず
カウンターの向こうから
オカンが、笑顔で迎えてくれていた。
「おかえり~! 美花ちゃん。今日もお疲れさん!」
いつもなら
満席に近いくらい客がおる時間やのに…
何故か今日はカウンター席に
常連のこうちゃんと宗ちゃんがおるだけやった。
「あれ? 今日はえらい可愛らしい
お連れさん連れて…美花ちゃん、どないしたんや?」
オカンはカウンターから出て来て、
私が連れて来た彼女に興味津々やった。
「そうや! 自分、名前なんて言うん?」
「…和美です。中学二年です。
…苗字も言うた方が良いですか?」
座敷の席に座りながら私が聞くと、
彼女は小さな声でぼそぼそっと答えると
またすぐに俯いてしまった。
私もオカンも顔を見合わせて笑いながら、
名前だけでも別にええよと言ってやった。
オカンに温かいお茶と
今日の夜定食を2つ頼んでから
私は和美に聞いてみた。
「それで? 何であんなとこに一人で
しゃがみこんでたん? 怒らへんから言うてみ?」
すると
今度は観念したのか
私を信用してくれたのか?
「実は…お、お父さんを探していたんです」
ゆっくりと顔を上げると
和美は真面目な顔で答えていた。
和美が父親を探してるということは、
親とケンカでもして
家出をして来たんやないかという
私の推理は、見事に外れてしもてるやん。
「和美が家出して来たんと違うかったんや!」
「はい。家出をしたのは、お父さんのほうです。
もう一週間も家に帰って来ないから
心配になって探してたんです。お母さんは仕事で
海外やから…すぐには家に帰って来られへんし…ううう」
かなり心細い思いをしていたようで、
和美は声を殺して泣き出してしまった。
「とにかくお腹が空いてるやろ?
ご飯食べよ。ご飯! ここの夜定食は美味しいんやで。
話はそれからでええやん」
なんとか私とオカンで
和美を宥めすかして
夜定食を一緒に食べることにして、
父親の事はゆっくり後で聞くことにした。
「美味しいもん食べたら、
良い知恵が浮かぶから♪」
と…
オカンは、常連でも滅多に食べれない
手作りのイチゴのシャーベットも出してくれた。
和美は、夜定食もシャーベットも…
それはそれは美味しそうに
全部綺麗に平らげてしまって
青白かった顔色も
血の気が戻って良くなっていた。
さっきから
聞き耳を立てていた
こうちゃんと宗ちゃんも
座敷に来てくれて一緒に
父親を探したると言って
和美を元気付けてくれていた。
空腹も満たされて
事情を話してくれる気になった和美は
事の次第をポツポツと語り出した。
「うちの家は、お母さんとお父さんと
私の三人家族なんですけど…お母さんは
何処とは言えないんですが、会社の社長で…
半年前から海外へ出張中で、家にはお父さんと
私だけで暮らしてます。昼間は家政婦さんが来てくれて、
家事全般をやってくれてます。お父さんは、
お母さんの会社の役員なんですが、それは名ばかりで
ずっと家に居て、パソコンに向かって何かしてるんです」
和美は話の途中で一息ついて、
苦笑いしながらまた話を続けた。
「丁度一週間前なんですけど…
お父さんにお母さんから電話があったみたいで、
話の内容は良くわからないんですけど…
大人しいお父さんがふざけるな!って怒鳴ってて…
その後、家を出て行ったまま帰って来なくなったんです」
そこまで話すと…
和美はまた俯いてしまった。
そして
父親が出て行ったまま一週間も帰って来なくて…
心配になった和美は、心当たりを
手当たり次第に必死になって探していて、
それでも見つからんから、途方に暮れて
座り込んでいた所を、たまたま
通り掛かった私に声を掛けられて
ここへ来たと言う訳やね。
和美がこの辺りを探していたのは、
父親がインターネットで
この辺りのビジネスホテルを
検索した履歴を残していたかららしくて…
この辺りを探せば
見つかると思っていたらしい。
「それで? ホテルは確認してみた?」
「それが…どこにも泊まってなかったんです」
オカンに聞かれて
首を振りながら答えてる和美は、
不安で今すぐにでもまた泣き出しそうやった。
そして、
話し込んでる内に
何時の間にか店の中は
常連客でいっぱいになっていた。
「父親の写真とか写メとか無いの?」
話を一緒に聞いていた宗ちゃんが和美に聞くと…
和美は持っていたスマホを出して、
家族三人で写ってる画像を見せてくれた。
「ちょっと待って! マジで? これが父親?
めっちゃ若いんちゃう? それとも童顔なん?
それとも義理の父親とか?」
目の前に差し出された画像を見て、
私は思わず声を上げてしまった。
だってやね…
どう見ても二十代前半にしか見えへん
ジャニーズ系のイケメンやったから
私が想像してた父親とは
程遠すぎて驚いてしまったんよ。
「凄い童顔なんです。35歳なんですけどね。
最近は一緒に歩いてたら、兄妹とか
恋人同士に良く間違われて困ってます」
和美は凄く慣れた様子で笑って答えていた。
「これ! 皆に見てもらって誰か知らんか聞いてみて!」
私は、スマホをこうちゃんに渡して
客全員に父親を見かけた人がおらんか聞いて貰った。
すると、オネエのお店『ローズマリー』の
亞夜子ママが、三日前に
常連のお客さんと一緒に和美の父親が
お店に来ていたのを、イケメンだったから
憶えてるわよと教えてくれた。
和美の父親が一緒に居たのは男の人で、
高田さんというフリーのプロのカメラマンらしい。
「ちらっとだけ聞こえて来たんやけどな?
その彼ったら、高田ちゃんのマンションに
転がり込んでるようなことを話してたんよ!
だから二人はてっきり恋人同士なんやと思って
凄いショックやったから余計憶えてるのよ~!」
亞夜子ママは、溜め息を吐いてから
その時の様子を話してくれていた。
「まさか彼が結婚してて、こんなに大きい
娘までおるようには見えなかったものね~」
ちらっと横目で和美を見て
苦笑いをしながらも、バックの中から
ママはスマホを取り出していた。
「高田ちゃんの番号知ってるから、
今から電話して…呼び出してみる?」
和美に向かってスマホを差し出して、
亞夜子ママがどうするかを聞いて来た。
和美が亞夜子ママに返事をする前に、
この店にいる皆が和美の父親探しで
盛り上がってしまっていたので
すぐに電話して高田さんという人を
呼び出してもらう事に決まった。
亞夜子ママが電話をすると、
すぐに高田さんが出て
丁度近くで飲んでいる最中らしくて、
ママが誘うと、すぐにオカンの店まで
来てくれることになって
皆は物凄く盛り上がっていた。
高田さんは、和美の父親と
一緒に飲んでるようだと
亞夜子ママが
面白そうにニヤッと笑って教えてくれた。
一週間も中学生の娘を一人置いて
何をやっていたんだか? 呆れた父親やわ。
それでも、和美は
全然父親を怒っている様子は無くて、
逆に無事で良かったと喜んでいる。
出来た子供もおるもんやと感心していると、
店の戸が開いて高田さんと和美の父親が入って来た。
「おかえり~ 待ってたよ~♪」
オカンは、すました笑顔で
普段通り二人を迎え入れていた。
そして入って来た父親は、
和美がおることに気がついて
驚いて動きが止まっていた。
「洋祐! 何処行っとったん? 心配してんで!」
和美が立ち上がって父親に向かって叫んでいた。
(自分の父親を洋祐て…。なんか笑える)
なんて心の中で思いつつ、私も立ち上がった。
「和美ちゃんのお父さんには、
皆にわかるように…なんで、和美ちゃんを
放ったまま家を出たのか事情を話してもらわんとね!」
そして私は、逃げられへんように
父親を和美の前に座らせた。
父親の洋祐さんは観念したようで、
皆に頭をペコペコ下げていた。
「和ちゃんごめん。俺…もう一度フリーで
カメラやろう思って、高田さんに相談しとったんや!」
洋祐さんは、申し訳無さそうに
和美に頭を何度も下げていた。
「ちゃんと決まったら、和ちゃんにも
話そうって思ってたんやけど…なんか和ちゃんにも
馬鹿にされたらどうしよう思って言えんかったんや!」
そう話しながら、拳を握りしめて
洋祐さんは苦笑いしていた。
「別に馬鹿にしたりなんかしいひんで。
洋祐には洋祐の生き方があるんやし、
冴子ちゃんもその内きっとわかってくれると思う」
和美は、中学生とは思えない
大人びた口調で自分の父親を宥めていた。
洋祐さんは、仕事で行ったロンドンの街で
和美の母親と出会ったそうで。
そして、出会ったその日に
二人は恋に落ちてしまったらしい。
もともと情熱的な性格の二人は
帰国すると同時に結婚して、
その一年後に和美が生まれたことを切っ掛けに
洋祐さんはカメラマンを辞めて
会社の役員になって、忙しい和美の母親に代わって
洋祐さんがほとんど和美の世話をしていたらしい。
しかし、最近になって
自分が撮った写真が賞を貰って
仕事の依頼も来るようになっていたので、
そろそろ復帰したいと和美の母親に話したら、
馬鹿にされて相手にしてくれなかったので、
頭に来て家を飛び出してしまったらしい。
思っていたことを
ここで話すだけ話したら、
いつの間にか洋祐さんは
スッキリとした明るい表情になっていた。
そして、洋祐さんは皆にお礼を言うと…
一度家に和美と帰って、もう一度
真剣に家族で話し合う事にすると言って
高田さんにも頭を下げていた。
「それにしても和美ちゃんは、しっかり者やね。
洋祐さんは幸せ者やん!」
オカンが和美の頭を優しく撫でると、
洋祐さんを見てニィっと笑った。
「和美ちゃん。いつでもオカンの店に
帰って来たらええからね♪ 待ってるで!」
オカンは、昔の私に言ってくれたように
和美にもそう言って
帰っていく二人を見送っていた。
きっと和美もまた
「オカンの店」に帰って来るんやろな。
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