誰よりもVIVIDに

小森 輝

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誰よりもVIVIDに 7

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「デッサンを描いているつもりはないんだけどね」
「デッサンじゃないって……。でも、これ……」
 鉛筆のみで描かれた絵のことをデッサンと呼ぶ。この絵は間違いなくそのデッサン。
「デッサンだって言いたいんでしょ?」
「いや……私はそんなつもり……」
 私には彼の絵がデッサンに見えているのだが、違うと言い張る人と言い争う気はない。でも、私の言葉で、その意図は伝わらなかった。
「いいんだよ。みんなは僕とは違うから。この絵のことも、分からなくても仕方ない。だから、気にしないで」
 また、申し訳なさそうな笑顔。その儚げな笑顔は絵になるほど美しいものだ。
 けれど、今は嫌いだ。何もかも諦めて、それなのに理解されないと嘆いている。
「理解されようともしていないくせに……」
「……理解なんて誰にも出来ないよ」
 今度こそ怒らせてしまったに違いない。さっきから私と話しているのに一度も顔を合わせようとしなかった一色君が、今は私を見ている。サングラスの奥にある瞳は見えないが、たぶん私を睨んでいるのだろう。
「藤井さんに僕のことは分から……」
 分からないと言いたかったのだろう。でも、言うのをやめてしまった。それは私が否定した言葉だから。
「見ていないから分からない、だったね」
 見ていないから分からない。聞いていないから分からない。当然のことだ。
「見せてあげるよ。でも、少し可笑しいから……笑わらっちゃうかも……」
「笑ったりなんてしないよ!」
 小学生ならまだしも、今の私は高校生。普通の人とは違う見た目を笑ったりするような歳ではない。
 それよりも私は別の事を危惧している。
 もしも、一色君の目が片方抉れていたり、それよりも酷いことになっていたりしたら、私は気持ち悪いと感じるだろう。笑ったりするよりも、その一言の方が傷つくに違いない。もちろん、言葉だけでなく表情にも出してはいけない。
「気持ちは嬉しいけど、無理はしなくていいから」
 大丈夫。私はもう高校生になったんだ。感情を隠すぐらいうまくできる。
「……大丈夫」
 覚悟は出来ている。心の準備も出来ている。
「そんなに大したものじゃないから期待はずれかもしれないけど……」
 そう言いながら、サングラスを掴んだ。
 たぶん、この学校で誰も見たことがない真っ暗なガラスの奥。
 それが今、取り払われる。
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