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 痛みを堪えるために歯を食いしばっていると、肛門に湿った何かが当たった。見えないので想像しかできないのだが、おそらく、股間を押しつけられているのだろう。もう終わりだ。僕の初めては、今日、この瞬間に散ってしまう。
 そう諦めかけた瞬間だった。
 突然、部屋に何かが開いた音がした。
 そちらの方を見ると、そこは階段。おそらく、音は階段の上から聞こえたのだろう。この場にいる全員の注意がそちらに向かった。
「精志郎! ここにいるのか?」
 その声は聞き覚えがある声だった。しかし、そんなはずはない。こんな場所に来るはずがない。
 そう思っていたのに、希望は潰えていなかった。
「菊臣……」
 階段から降りてきた人物は、間違いなく菊臣だった。僕の知っている菊臣だった。
「な……なんで菊臣がここに……?」
「お前が連絡してくれたんじゃないか」
「……僕が?」
 僕には全く身に覚えがない。しかし、この場には菊臣の他にもう一人、僕の味方がいた。
「私が連絡しておいたんだ。少し嫌な予感がしたからね。人の携帯電話を勝手に使うのは気が引けたけど、緊急事態だし、それぐらい許してくれよ?」
 どうやら、インキュバスが菊臣に連絡してくれたようだ。
 菊臣が来てくれたおかげで味方が増えることは嬉しいのだが、菊臣にまで危険が及ぶのは心苦しい。それになにより、こんな姿を菊臣に見られたくはなかった。
「それより、精志郎、お前、なんでそんな格好……」
 まあ、菊臣からしてみれば、今のこの状況は理解できないだろう。
「あら? また招いてもいないお客さんが来たみたいね。でも、結構、イケメンじゃない。いいわね。いいわ! 彼から精液を取り込もうかしら。朝食は彼で決まりね! あぁ、いっそ、彼に乗り換えようかしら」
 サキュバスが興奮気味に菊臣へと近づき、なめ回すように観察している。ただ、菊臣は全く動じない。それもそのはず。菊臣は悪魔と契約していないので、サキュバスの姿は見えないのだ。
「いい男。私の姿を見て悩殺されなさい」
 おそらく、サキュバスは菊臣と契約を交わそうとしているのだろう。それはまずい。
「だめだ、菊臣! 今すぐ逃げろ!」
「そんなこと、できる訳ないだろ!」
 しかし、悪魔の姿が見えていない菊臣は状況が理解できていないのか、僕へと近づいてきた。
 結果的にサキュバスから離れることはできたが、状況は解決していない。
「ほら、坊や。逃げないの。あんまり私を怒らせるとお仕置きしちゃうわよ?」
 蠱惑な笑みを浮かべながらサキュバスがゆっくりと菊臣に忍び寄ってくる。
 ただ、菊臣が近づいて来たことで、僕が今陥っている危機の一つに気づいたようだ。
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