炎と風の反逆者

小さすぎる世界への抵抗

炎と風の反逆者 ６８

「あ……ああ」
　もう、何も聞こえない。もう、何も見えない。もう、何も感じない。
　遠い世界。遠い現実。
　俺は間違っていたんだろうか。
　考えて嘆くも、過去を変えることは出来ない。過去が変わらなければ、現在も変わることはない。
　ああ、もう何もかもがどうでもいい。
　未来に希望がなく絶望しかないのだとしたら、全てなかったことに、いっそ、全て壊してしまえばいい。
　もう、生きているのさえ辛い。
　息苦しくて、体が重くて、心は擦り切れている。
　ああ、なんでこうなっちゃったのかな……
　涙が頬を伝うのが分かる。
　何も感じないと思っていたのに、後悔だけは残っているのか。
　心残りは沢山あるが、やっぱり一番は彼女だろう。無関係とまではいかないが、それでも、彼女を巻き込むのは避けたかった。
「……誘」
　彼女の、命の声。
　とても暖かくて、とても優しい。彼女の心はいつも清らかだった。
「誘」
　力強い彼女の声は俺を勇気付けてくれる。
「大丈夫だから……」
　彼女がそう言うのなら、不思議と大丈夫なような気がしてくる。
「私には誘が必要なんだ」
　最初からそうだった。
　命は俺が必要なんだと言っていた。
　そして今も無様な俺を必要だと言ってくれる。
「だから、お願いだ、誘」
　これが彼女の抵抗。俺に対して、世界に対しての小さすぎる抵抗。
　踏み外そうとしている俺を導き、正しい道へと引き戻そうとする剛毅な抵抗。
　彼女はこんなにも強くあろうとしているのに、俺は、なんて弱いんだ。
　彼女の横に立つのならもっと強くならないとな。だったら、いつまでもこんなところで泣いてたって始まらない。
「此方に戻って来い」
　手を差し伸べてくれる小さな手。
　こんな小さな手が俺を必要としてくれているんだ。早く戻らないと……