スラッガー

小森 輝

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スラッガー 12

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 唐突に、俺の中で眠っている芸人魂が発揮されることもなく、教室にある自分の席へと遅刻することなく座ることが出来た。
「ちゃんと間に合ったな」
「当たり前だろ。俺は亀じゃないんだからな。ていうか、遅刻したら逆にそっちの方がすごいじゃないか」
 芸人魂を見せて「ヒーローは遅れて登場する」なんて言いながら授業中の教室に入って行くほど、俺は勇者ではない。
「いやいや。遅刻より、途中で帰るかもしれないってのが心配だったよ。そういうの、シゲちゃんなら普通にやりそうだからさ」
「俺はそこまで不良じゃない。まあ、帰っていいなら帰るけどな」
「本当に、帰らなくてよかったよ。そこまでシゲちゃんの性根が腐っていたら、テスト期間なのに遊びに行こうだなんて許さなかったからな」
「なんだ。勉強勉強って言ってた割に、お前も楽しみにしていたのか」
 勉強が恋人なのかと思っていたが、やはり人の子だったようだ。
「当たり前だろ。誰だって遊んで暮らしたいに決まっている。それで、どこに行くつもりなんだ?」
「どこって……。決めてないのか?」
「決めてないって、シゲちゃんがが言いだしっぺだろ?」
「それはそうだけど……」
 大体のことはオカが決めてくれるのだが、娯楽なんかは俺に任せてくる傾向にある。自分でもやりたいことがあるのなら言ってほしいのだが、特にそれがないから任せてくるのだろう。
「まったく……。放課後までにちゃんと決めておいてよ。でないと、図書館に遊びに行くことになるからな」
「流石にそれは嫌だな。勉強が生き抜きとか……」
 オカも楽しみにしているのだから、何としてでも、放課後までに決めなければならない。だが、高校生が遊ぶ場所なんて、限られてくるので問題はないだろう。
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