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体は指一本どころか、視線を動かすこともできない。
最初は恐怖で体が動かなくなったのだと思ったのだが、どうやらそういうわけではないらしい。
固まっているのは僕だけではなく、目の前のゴブリンも棍棒を振り上げたまま固まっていたのだ。
まるで、この場の時間が止まってしまったようだ。でも、時間が止まっていると言っても、自分だけが動けるようなチートみたいなことはできない。
でも、こんな状況でもできることはある。考えるんだ。今、この止まった時間の中で、この盤面をひっくり返す策を!
そう考えた瞬間、体が軽くなった。もちろん、比喩などではない。本当に軽くなり、体が空へ引っ張られるように浮き上がったのだ。
「な、なんだこれ……」
まるで幽体離脱のようだと思ったが、下を見ると、そこには、今にもゴブリンに殺されそうな僕の姿があった。
「あれって……僕……? じゃあ、本当に……」
『まるで』ではなく、本当に幽体離脱してしまったのだ。
「てか、そう言えば、普通に喋れる。それに、体も動く」
幽体離脱する前は視線すら動かなかったのに、今では自由に体が動く。ただ、体は動くが自由に移動することはできない。自分の体を俯瞰して見ているように浮遊するだけだ。
「時間が止まってくれたのはありがたいことだけど、これじゃあ何も解決しない。できることは、これからどうやってこの盤面を切り抜けるか考えることだけか」
できることは考えることだけと思ったのは事実だが、どうせなら、この状況を一発逆転できるようなことが起きれば良かったのだが、それは無い物ねだりと言うものだろう。
「とりあえず、まずはこの盤面を整理しなきゃな」
とは言っても、盤面は至ってシンプルだ。武器を持ったゴブリンと武器も持たない負傷した一般人。改めて、戦力差を痛感する。
「せめて、弱点でも見つけられないかな……」
殴り合いの喧嘩すらしたことがない引きこもりカードゲーマーの僕が人型をしているとは言ってもゴブリンのような未知の生物に対してどんな攻撃が有効かなんて分かりはしないのだが、一応、観察だけはする事にした。
すると、ゴブリンの頭上に先ほどまではなかったものが現れた。
「何だろう、あれ。何かのバーに数字……。これってもしかして、あのゴブリンの体力と攻撃力か!」
僕の予測が正しければ、ゴブリンの体力は100、攻撃力は30だ。それに対して、僕のステータスは……。
「体力10に攻撃力3!? 一撃食らってとは言っても棍棒で殴られただけで瀕死って……。まあ、実際、瀕死なんだけど。それよりも、攻撃力3って……。あのゴブリンを何回攻撃したら倒せるんだよ」
数値化されると、絶望感が増す。しかし、希望がなければ、僕のとれる選択肢も狭まっていく。
「じゃあ、僕が使えるカードは……」
カードもないのに左手から選んだカードを右手で掴もうとしてしまった。これはカードゲーマーの性なのだろう。
しかし、その手の中には本当にカードを握っていた。
最初は恐怖で体が動かなくなったのだと思ったのだが、どうやらそういうわけではないらしい。
固まっているのは僕だけではなく、目の前のゴブリンも棍棒を振り上げたまま固まっていたのだ。
まるで、この場の時間が止まってしまったようだ。でも、時間が止まっていると言っても、自分だけが動けるようなチートみたいなことはできない。
でも、こんな状況でもできることはある。考えるんだ。今、この止まった時間の中で、この盤面をひっくり返す策を!
そう考えた瞬間、体が軽くなった。もちろん、比喩などではない。本当に軽くなり、体が空へ引っ張られるように浮き上がったのだ。
「な、なんだこれ……」
まるで幽体離脱のようだと思ったが、下を見ると、そこには、今にもゴブリンに殺されそうな僕の姿があった。
「あれって……僕……? じゃあ、本当に……」
『まるで』ではなく、本当に幽体離脱してしまったのだ。
「てか、そう言えば、普通に喋れる。それに、体も動く」
幽体離脱する前は視線すら動かなかったのに、今では自由に体が動く。ただ、体は動くが自由に移動することはできない。自分の体を俯瞰して見ているように浮遊するだけだ。
「時間が止まってくれたのはありがたいことだけど、これじゃあ何も解決しない。できることは、これからどうやってこの盤面を切り抜けるか考えることだけか」
できることは考えることだけと思ったのは事実だが、どうせなら、この状況を一発逆転できるようなことが起きれば良かったのだが、それは無い物ねだりと言うものだろう。
「とりあえず、まずはこの盤面を整理しなきゃな」
とは言っても、盤面は至ってシンプルだ。武器を持ったゴブリンと武器も持たない負傷した一般人。改めて、戦力差を痛感する。
「せめて、弱点でも見つけられないかな……」
殴り合いの喧嘩すらしたことがない引きこもりカードゲーマーの僕が人型をしているとは言ってもゴブリンのような未知の生物に対してどんな攻撃が有効かなんて分かりはしないのだが、一応、観察だけはする事にした。
すると、ゴブリンの頭上に先ほどまではなかったものが現れた。
「何だろう、あれ。何かのバーに数字……。これってもしかして、あのゴブリンの体力と攻撃力か!」
僕の予測が正しければ、ゴブリンの体力は100、攻撃力は30だ。それに対して、僕のステータスは……。
「体力10に攻撃力3!? 一撃食らってとは言っても棍棒で殴られただけで瀕死って……。まあ、実際、瀕死なんだけど。それよりも、攻撃力3って……。あのゴブリンを何回攻撃したら倒せるんだよ」
数値化されると、絶望感が増す。しかし、希望がなければ、僕のとれる選択肢も狭まっていく。
「じゃあ、僕が使えるカードは……」
カードもないのに左手から選んだカードを右手で掴もうとしてしまった。これはカードゲーマーの性なのだろう。
しかし、その手の中には本当にカードを握っていた。
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