異世界はカードゲームの様に

小森 輝

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「さぁ! 決勝の舞台もいよいよ大詰めになってきましたぁ! ボンドミ選手の場には『デュラハンジェネシス』『原初のファラオ』『敗者の王 ガシャドクロ』この3体の強力な上級アンデットモンスターが立ちはだかる! どれか1体でも残せばジエンドぉ!」
 とある会場でヒートアップした解説者の声が、マイクを通してスピーカーから響く。その声を聞いて、周りにいる観客たちは地面が揺れるほどの一際大きな歓声を上げた。
 そんな歓声の中心で二人は対峙していた。一人は先ほど解説の声が述べたボンドミ選手。そして、そのボンドミ選手と向き合っているのが僕だ。
「さぁ、この絶体絶命の場をフラットラッシュ選手は覆せるのかぁ!」
 そして、僕は、窮地に立たされていた。
「相手の場には上級アンデットモンスターが3体。いくら回復したり防御を固めたところで1体でも残せば負ける。けど、この盤面を返せるカードは、今、手札には……ない」
 つまり、ターンの開始時にデッキからカード1枚だけドローし、そのカードでこの盤面をひっくり返さなければならないということだ。
「このドローに全てがかかっている。頼む。この場を打開できるカード、きてくれ!」
 デッキに手を置き、瞼を強く閉じ、ひたすら祈る。もちろん、いくら祈ったところでデッキの一番上にあるカードが変わったりしない。もし仮に意図的にデッキの一番上にあるカードを変えたのならば、それはイカサマというやつになってしまう。それでも、祈らずにはいられない。なにせ、このドローに勝敗がかかっているのだから。
「頼む……頼む……」
 カードに触れる指先に全神経を集中させる。解説者の声は遠く薄れていき、心臓の鼓動が感じ取れるほどに集中力が高まる。極限の集中と極度の緊張によるストレスで、吸った空気がまるで肺に入ってこない。そのうち、どうやって呼吸をしていたのかさえ分からなくなってしまった。終いには、頭に靄がかかっていくように、思考がぼやけていく。今にも意識を失ってしまいそうだが、簡単に倒れるわけにはいかない。
(何度も死線を潜り抜けて、やっとの思いで決勝の舞台までたどり着いて、このドローで一発逆転の可能性だってあるのに、それを確かめないままこの勝負を終わらせるわけにはいかない)
 しかし、その思いとは裏腹に、意識が遠退いていく。
(意識を失ってもいい。だから、せめて、このドローしたカードでこの盤面が返せるかどうかだけでも確認したい)
 意識が保てるギリギリの瀬戸際で最後の力を振り絞った。
「ドロォォォー!」
 声を振り絞り、引いたカードを確認しようと重たい瞼を上げた。が、しかし、手にカードは握られていなかった。
「あ……あれ……?」
 息苦しさや頭にかかった靄は消え去っていたが、それと同じように、先ほどまで決勝戦をしていた会場もなくなっていた。
 今、僕が立っているのは、木々に囲まれた薄暗い森の中だった。
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