1 / 19
1
しおりを挟む
「さぁ! 決勝の舞台もいよいよ大詰めになってきましたぁ! ボンドミ選手の場には『デュラハンジェネシス』『原初のファラオ』『敗者の王 ガシャドクロ』この3体の強力な上級アンデットモンスターが立ちはだかる! どれか1体でも残せばジエンドぉ!」
とある会場でヒートアップした解説者の声が、マイクを通してスピーカーから響く。その声を聞いて、周りにいる観客たちは地面が揺れるほどの一際大きな歓声を上げた。
そんな歓声の中心で二人は対峙していた。一人は先ほど解説の声が述べたボンドミ選手。そして、そのボンドミ選手と向き合っているのが僕だ。
「さぁ、この絶体絶命の場をフラットラッシュ選手は覆せるのかぁ!」
そして、僕は、窮地に立たされていた。
「相手の場には上級アンデットモンスターが3体。いくら回復したり防御を固めたところで1体でも残せば負ける。けど、この盤面を返せるカードは、今、手札には……ない」
つまり、ターンの開始時にデッキからカード1枚だけドローし、そのカードでこの盤面をひっくり返さなければならないということだ。
「このドローに全てがかかっている。頼む。この場を打開できるカード、きてくれ!」
デッキに手を置き、瞼を強く閉じ、ひたすら祈る。もちろん、いくら祈ったところでデッキの一番上にあるカードが変わったりしない。もし仮に意図的にデッキの一番上にあるカードを変えたのならば、それはイカサマというやつになってしまう。それでも、祈らずにはいられない。なにせ、このドローに勝敗がかかっているのだから。
「頼む……頼む……」
カードに触れる指先に全神経を集中させる。解説者の声は遠く薄れていき、心臓の鼓動が感じ取れるほどに集中力が高まる。極限の集中と極度の緊張によるストレスで、吸った空気がまるで肺に入ってこない。そのうち、どうやって呼吸をしていたのかさえ分からなくなってしまった。終いには、頭に靄がかかっていくように、思考がぼやけていく。今にも意識を失ってしまいそうだが、簡単に倒れるわけにはいかない。
(何度も死線を潜り抜けて、やっとの思いで決勝の舞台までたどり着いて、このドローで一発逆転の可能性だってあるのに、それを確かめないままこの勝負を終わらせるわけにはいかない)
しかし、その思いとは裏腹に、意識が遠退いていく。
(意識を失ってもいい。だから、せめて、このドローしたカードでこの盤面が返せるかどうかだけでも確認したい)
意識が保てるギリギリの瀬戸際で最後の力を振り絞った。
「ドロォォォー!」
声を振り絞り、引いたカードを確認しようと重たい瞼を上げた。が、しかし、手にカードは握られていなかった。
「あ……あれ……?」
息苦しさや頭にかかった靄は消え去っていたが、それと同じように、先ほどまで決勝戦をしていた会場もなくなっていた。
今、僕が立っているのは、木々に囲まれた薄暗い森の中だった。
とある会場でヒートアップした解説者の声が、マイクを通してスピーカーから響く。その声を聞いて、周りにいる観客たちは地面が揺れるほどの一際大きな歓声を上げた。
そんな歓声の中心で二人は対峙していた。一人は先ほど解説の声が述べたボンドミ選手。そして、そのボンドミ選手と向き合っているのが僕だ。
「さぁ、この絶体絶命の場をフラットラッシュ選手は覆せるのかぁ!」
そして、僕は、窮地に立たされていた。
「相手の場には上級アンデットモンスターが3体。いくら回復したり防御を固めたところで1体でも残せば負ける。けど、この盤面を返せるカードは、今、手札には……ない」
つまり、ターンの開始時にデッキからカード1枚だけドローし、そのカードでこの盤面をひっくり返さなければならないということだ。
「このドローに全てがかかっている。頼む。この場を打開できるカード、きてくれ!」
デッキに手を置き、瞼を強く閉じ、ひたすら祈る。もちろん、いくら祈ったところでデッキの一番上にあるカードが変わったりしない。もし仮に意図的にデッキの一番上にあるカードを変えたのならば、それはイカサマというやつになってしまう。それでも、祈らずにはいられない。なにせ、このドローに勝敗がかかっているのだから。
「頼む……頼む……」
カードに触れる指先に全神経を集中させる。解説者の声は遠く薄れていき、心臓の鼓動が感じ取れるほどに集中力が高まる。極限の集中と極度の緊張によるストレスで、吸った空気がまるで肺に入ってこない。そのうち、どうやって呼吸をしていたのかさえ分からなくなってしまった。終いには、頭に靄がかかっていくように、思考がぼやけていく。今にも意識を失ってしまいそうだが、簡単に倒れるわけにはいかない。
(何度も死線を潜り抜けて、やっとの思いで決勝の舞台までたどり着いて、このドローで一発逆転の可能性だってあるのに、それを確かめないままこの勝負を終わらせるわけにはいかない)
しかし、その思いとは裏腹に、意識が遠退いていく。
(意識を失ってもいい。だから、せめて、このドローしたカードでこの盤面が返せるかどうかだけでも確認したい)
意識が保てるギリギリの瀬戸際で最後の力を振り絞った。
「ドロォォォー!」
声を振り絞り、引いたカードを確認しようと重たい瞼を上げた。が、しかし、手にカードは握られていなかった。
「あ……あれ……?」
息苦しさや頭にかかった靄は消え去っていたが、それと同じように、先ほどまで決勝戦をしていた会場もなくなっていた。
今、僕が立っているのは、木々に囲まれた薄暗い森の中だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる