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5 結婚前夜の悪役令嬢
悪役令嬢は見る専です 63
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結婚前夜。
夜の闇は松明によって照らされ、城には多くの兵士が注意深く辺りを警戒している。
そんな城の一室。誰もいない部屋で空間が揺らめいた。
その揺らめきは、城の一室から飛び出し、兵士の頭上を通り過ぎて、城の塀を軽々と越えていく。
易々と兵士の目から逃れ、城から脱出した揺らめきが徐々に色を帯びていく。
「ヤヨイさんの魔法……すごいな……」
計画通り、私の魔法でアルフは逃げ出すことに成功した。後は、外で待機させてあるベートの馬車に乗るだけなのだが……。
「あれ……馬車が見あたらない……。場所を間違えた? いや、でも、伝えられた場所はここだし……」
そんな困惑をしている。アルフの前に満を持して現れる。
「え……ヤヨイさん? 何でここに……。いや、それよりも、馬車はどこに?」
「残念ながら、馬車はないわ」
そう、ここに馬車はない。
「ど、どういうことですか? 馬車で逃げるって話じゃ……」
「話が変わったのよ。セバス、捕らえなさい」
「かしこまりました」
状況が理解できず、何もできないままアルフはセバスに捕らえられた。
「手荒なことをして、申し訳ありません。これもお嬢様の命令ですので」
セバスが謝ることなんてないのにと思いながら、私は次の行動に移した。
「さ、帰りましょう」
「帰るって、どこに……?」
「もちろん、城に、よ」
セバスに捕らえさせたまま、私は城の正門から堂々と城の中へと入った。
当然、城の中は騒ぎになった。結婚予定の新郎が前日に逃げだそうとしたのだから当たり前だ。
最初に現れたのはアルシュだった。
「ちょっと……ヤヨイ、これはどういうこと?」
「どうもこうも、見ての通りよ。逃げだそうとしたアルフに気づいて、私が捕まえただけ」
「そう……。逃げだそうと……」
アルシュは心配そうに捕らえられたアルフを見つめた。
「心配しなくてもいいわ。私はあなたの親友なんだから」
「そうよね……。信じていいのよね?」
「もちろん」
その言葉に過剰に反応したのは捕らえられたアルフだった。
「信じるだって? 俺を騙しておいて、よくもそんな口を……」
怒りの籠もった声。その声に呼び寄せられたようにヒューブもやってきた。
「アルフ……これは……一体……」
ヒューブの顔は信じられないと言った様子だ。
「ヒューブ! 話が変わったってどういうことなんだ?」
「話が……変わった……?」
そして、私へと視線を向けると、その表情は一気に怒りへと変わった。
「どういうことだ! これは! 私は二人が幸せになれると信じて! あなたは、私たちを理解してくれているのではなかったのですか!」
私に殴りかかってきそうな勢いだったのだが、間にセバスが入り込むことで事なきを得た。
「落ち着いてください、ヒューブさん。お嬢様に危害を加えるのは得策ではないかと」
そんな言葉では怒りは収まりきれず、行き場のない感情が拳を震わせている。
そんな中、アルフがぽつりと呟いた。
「悪役令嬢の噂は本当だったのか……。それなのに、何でこんな人に……」
私は悪役令嬢。こんな裏切り行為をしたところで、その一言で片づいてしまう悪役なのだ。
夜の闇は松明によって照らされ、城には多くの兵士が注意深く辺りを警戒している。
そんな城の一室。誰もいない部屋で空間が揺らめいた。
その揺らめきは、城の一室から飛び出し、兵士の頭上を通り過ぎて、城の塀を軽々と越えていく。
易々と兵士の目から逃れ、城から脱出した揺らめきが徐々に色を帯びていく。
「ヤヨイさんの魔法……すごいな……」
計画通り、私の魔法でアルフは逃げ出すことに成功した。後は、外で待機させてあるベートの馬車に乗るだけなのだが……。
「あれ……馬車が見あたらない……。場所を間違えた? いや、でも、伝えられた場所はここだし……」
そんな困惑をしている。アルフの前に満を持して現れる。
「え……ヤヨイさん? 何でここに……。いや、それよりも、馬車はどこに?」
「残念ながら、馬車はないわ」
そう、ここに馬車はない。
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「話が変わったのよ。セバス、捕らえなさい」
「かしこまりました」
状況が理解できず、何もできないままアルフはセバスに捕らえられた。
「手荒なことをして、申し訳ありません。これもお嬢様の命令ですので」
セバスが謝ることなんてないのにと思いながら、私は次の行動に移した。
「さ、帰りましょう」
「帰るって、どこに……?」
「もちろん、城に、よ」
セバスに捕らえさせたまま、私は城の正門から堂々と城の中へと入った。
当然、城の中は騒ぎになった。結婚予定の新郎が前日に逃げだそうとしたのだから当たり前だ。
最初に現れたのはアルシュだった。
「ちょっと……ヤヨイ、これはどういうこと?」
「どうもこうも、見ての通りよ。逃げだそうとしたアルフに気づいて、私が捕まえただけ」
「そう……。逃げだそうと……」
アルシュは心配そうに捕らえられたアルフを見つめた。
「心配しなくてもいいわ。私はあなたの親友なんだから」
「そうよね……。信じていいのよね?」
「もちろん」
その言葉に過剰に反応したのは捕らえられたアルフだった。
「信じるだって? 俺を騙しておいて、よくもそんな口を……」
怒りの籠もった声。その声に呼び寄せられたようにヒューブもやってきた。
「アルフ……これは……一体……」
ヒューブの顔は信じられないと言った様子だ。
「ヒューブ! 話が変わったってどういうことなんだ?」
「話が……変わった……?」
そして、私へと視線を向けると、その表情は一気に怒りへと変わった。
「どういうことだ! これは! 私は二人が幸せになれると信じて! あなたは、私たちを理解してくれているのではなかったのですか!」
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「落ち着いてください、ヒューブさん。お嬢様に危害を加えるのは得策ではないかと」
そんな言葉では怒りは収まりきれず、行き場のない感情が拳を震わせている。
そんな中、アルフがぽつりと呟いた。
「悪役令嬢の噂は本当だったのか……。それなのに、何でこんな人に……」
私は悪役令嬢。こんな裏切り行為をしたところで、その一言で片づいてしまう悪役なのだ。
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