悪役令嬢は見る専です

小森 輝

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4 若き次期王の悩み

悪役令嬢は見る専です 51

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 そんな趣味も性格も悪いお嬢様のイーラだが、彼女の家は由緒ある貴族の家計だ。
 イーラの家は潮風が香る港町にある。港町から想像は出来るだろうが、彼女、モルソイエ家の生業は海運だ。船を使って人や動物、食べ物や木や鉱石といった資源など、様々なものを運んでいる。その事業展開の規模は、この大陸全ての海運業を担っているほど莫大だ。言ってしまえば、女王である私より資産はあるだろう。なんといっても、モルソイエ家といえば、海運の帝王と呼ばれる名門だ。
 しかし、そんなモルソイエ家の愛娘であるイーラがどうしてグリゼーラ国に? モルソイエ家とグリゼーラ家に接点なんてあっただろうか。
「なんで、あんたがここに来てるの? 海運は海でしかできないのよ? 大陸のど真ん中にあるグリゼーラ国なんかに来て、何の用なのよ」
「もう海の上では敵なしなんて言葉は言わせない。聞いて驚きなさい! 我がモルソイエ家は海運だけじゃない! 陸運にも進出するのよ! 海だけじゃない。我らがモルソイエ家は陸をも支配するのよ!」
「それはまた……」
 海運だけに止まることなく陸運にまで手を伸ばすとは。
 しかし、それほど驚くことでもない。これが陸運ではなく空輸なんて言葉が飛び出していたら私もびっくらこいたのだが。
 ただ、これでようやく、モルソイエ家の愛娘であるイーラがグリゼーラ国へと来た理由が分かった。
「なるほど、それで、この大国のグリゼーラ国に媚びを売りに来たってわけね」
「媚びを売りに来た? 甘い! 甘いわよ、ヤヨイ・フジシオ! そんな段階は、とうの昔に終わっているのよ! 私は明日、この国の王妃になるの! イーラ・グリゼーラ王妃よ! これでもうウェラベルグなんていう小国の女王なんていう肩書き、私には通用しない。ごめんなさいねぇ。私、あなたより先に結婚するの。せいぜい行き遅れないように、どこぞの馬の骨とも知らない庶民と結婚することね。あぁ、でも、安心しなさい。国交に私情なんて挟まないから。小さな小さな隣国とも仲良くしてあげるわ!」
 最後に勝ち誇った高笑いを響かせて言葉を締めくくった。
 終始ご機嫌なイーラだが、私はというと、終始、開いた口が塞がらなかった。
 まさか、アルフくんの結婚相手がこの性悪女のイーラだったなんて。散々、私が「モルソイエ家の娘は性格が悪い」とアルシュに愚痴っていたのだが、それが原因でアルシュが結婚に猛反対していたのか。
 結婚相手がイーラだったなんてことは予想外だったが、親が決めた結婚相手だなんて聞いていたので政略結婚だろうとは思っていたが、こんなにも絵に描いたような政略結婚だとは思わなかった。
 確かに、モルソイエ家が陸運をするなら大国であるグリゼーラ国とは仲良くしなければならない。そして、グリゼーラ国としても、海運の帝王であるモルソイエ家と手を組めば海産物が国内に優先的に入ってくる。これは両家共にメリットがある結婚になりそうだ。ただ、心を無視したら、の話だが。
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