悪役令嬢は見る専です

小森 輝

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4 若き次期王の悩み

悪役令嬢は見る専です 48

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 それは、とても気持ちがいい朝でした。
「はぁ……。よく寝た」
 いつもと違う天井。いつもと違うベッド。いつもと違う部屋。いつもと違う風景。いつもと違う朝。
 ここはいつもと違う場所。
 私が住んでいる国、ウェラベルグ国ではなくその隣の大国、グリゼーラ国にあるグリゼーラ城。その一室で今日という大事な一日を迎えるために私は目を覚ました。
「それにしてもぐっすりだったな……」
 枕が違うだけで寝られなくなるという人もいるというのに、私は国から部屋からベッドまで違うというのに熟睡だった。しかも、昨日、大事な話をして、今日が大変な一日になると分かっていたのにぐっすりだ。昨日の夜に、ベッドに入って寝れなかったらどうしようなんて考えていたのがバカみたいだ。というか、このベッドの寝心地が良すぎたのが予想外だったんだ。ふかふかでまさに雲の上に寝ているような気持ちだったし、掛け布団も暑すぎず寒すぎず体温を適度に保ってくれて、それでいて軽い。夢でも大空をゆらゆらと漂っている夢を見たほどだ。これが大国、グリゼーラ国の本気なのか。
 魔法によって科学技術が発展していないと思っていたが、もしかしたらグリゼーラ国ではいろいろな研究が行われているのかもしれない。
 そんな陰謀論みたいなことを考えて戦々恐々しているところにノックが響いた。
「お嬢様、今、よろしいでしょうか」
 この声はセバスの声だ。いつもとは違う土地でも、なじみの声が聞こえると安心するものだ。
「大丈夫よ。入りなさい」
 しかし、私がちょうど目覚めたタイミングで来るとは、セバスのスキルもここまで進化したか。
 そう思いたかったのだが、流石に私が起きるタイミングまで予測するなんてことは出来ないだろう。その証拠に、入ってきたセバスは少し驚いた顔をしていた。
「起きていたんですか。私はお嬢様を起こしにきたのですが、どうやら不要だったようですね」
「そうでもないわよ。セバスが来ていなければ、きっと私は二度寝をしていたわ」
「いけませんよ。せっかくご自身で自然と起きたんですから」
「仕方ないでしょ。このベッドが気持ちいいんだから」
「ダメですからね。私は寝覚めの紅茶の準備をしてきますんで、それまでに着替えを済ませておいてくださいね」
「分かったわよ。ほら、着替えるから早く出て行きなさい」
「再びベッドに戻ったりしないでくださいよ」
「分かったから。しっしっ」
 しつこく釘を刺すセバスを追い払って、私は寝間着から着替え始めた。
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