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4 妖精の宝物庫

アルスター 39

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「ちょっと待ちなさい」
「なんだ? 妖精女王。いや、元妖精女王だったな」
 メリルを無駄に挑発しているように見える。ベスにぃはそんな人じゃなかったはずなのに……。
 ただ、メリルは挑発に乗ることはなく凛とした声で告げた。
「あなた、バックに誰がいるの?」
 その問いに、ベスにぃの表情がかすかに緊張した。
「さぁ? エルフの宝物庫を守っていたんだから現妖精女王なんじゃないのか?」
 ベスにぃの言葉を思い出す。ベスにぃは「雇われて、今はここの門番をしている」と言っていた。つまり、ベスにぃは門番をさせられるために雇われたわけじゃない。メリルが国から追い出される前から誰かに雇われていた。でも、誰に……?
 そのヒントをメリルは握っていた。
「最後の攻撃。微かに魔力を感じたわ。それも禍々しい呪いのような魔力」
 全く分からなかったが、あの攻撃には魔力が込められていたようだ。
「そんなの、現妖精女王に……」
「それはないわ。エルフの魔法は負の要素を使用しない。その魔力はエルフのものじゃない」
 その答えに、ベスにぃは嫌みたらしく手を叩いている。
「ご名答。これはエルフの魔法じゃない。じゃあ、なんなのかって?」
「無駄口は慎みなさい、ベスター」
 どこからともなく女性の声が聞こえると、ベスにぃの後方に闇の渦が出現した。
 そこから、黒いローブを身に纏った何者かが姿を現した。
「誰……人間? でも、空間転移なんて人間が出来るようには……」
 エルフは魔力で判断するという。つまり、エルフとは違う魔力が流れていたということ。でも、魔法を使えるのはエルフしか……。
「魔法はエルフだけの特権じゃないわ。まあ、私のこれは魔法ではなく陰陽術だけどね」
 そう言って、自慢げに自分の手の内を教えてくれた。
「アルスター、気を付けて。彼女、かなり危険だわ。私の支配下にあるこの王城に一切察知されることなく入ってきた。それに、あの魔力は私を宝石に変えたマーリンという男とにている。あれは、もしかしたら、能力では私を上回っているかもしれない」
 自分の方が有利だから手の内を教えたというのだろうか。
 ベスにぃの不意打ち寄りの攻撃を防ぎきれなかったようなヘマはしない。ゆだんなく、盾と剣を構えた。
「そんなに気を張らなくても大丈夫よ。今はまだ戦うときではないから。それに、ベスター。少し遊ぶだけだと言ったでしょう。殺してしまったらどうするの」
「あの程度で死ぬような奴じゃないだろ。なぁ、アル坊」
 あの人がベスにぃを縛り付けている雇い主だろうか。それともマーリンという男が親玉なのだろうか。そこはまだ分からない。
「それじゃあ、お遊びはここまでまた会いましょう」
 その言葉と同時に、再び闇の渦が出現し、今度は二人の体を飲み込み始めた。
「待ちなさい!」
 メリルの言葉に、僕も動き出した。
 メリルの魔法は全て防がれ、僕がたどり着いたときには、二人の姿はもちろん、闇の渦も消えていた。
「またね、私の勇者様」
 その言葉と共に、あの禍々しい気配は消えた。
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