上 下
38 / 55
4 妖精の宝物庫

アルスター 38

しおりを挟む
「どうした? 防御だけじゃ勝てないぞ!」
 剣戟の途中で前蹴りをされ、後ろへと数歩よろめいた。
 間合いが取れたことで攻撃も止まった。語りかけるなら今しかない。
「なんで僕たちが戦わなくちゃいけないんだよ、ベスにぃ!」
 僕の問いにベスにぃはすぐに答えてくれた。
「そりゃあ、ここにお前がいるからだろ」
 錯乱しているのだろうか。それとも魔法で操られているのか。でも、魔力は感じられないとメリルは言っていた。なら、脅されているのか。大事ななにかを人質にされて……。弟の僕よりも大事なものってなんなんだ。
 なにもかも分からなくて逆にこちらが錯乱してしまいそうだ。
「俺は雇われて、今はここの門番をしているんだ。だから、ここに許可なく入ろうとするやつは、弟だろうと容赦はしない」
「ここの門番……?」
 ここの門番をしていたから村に帰って来れなかった? でも、メリルはベルにぃのことを知らなかった。つまり、ベルにぃが門番として雇われたのは現妖精王になってから。それは3年前などではなく、つい最近の出来事。じゃあ、ベルにぃは何で帰って来なかったのか。
 分からない。何もかもが分からない。
「ベルにぃ! 分からないよ! 説明して!」
「そうか。じゃあ、説明してやるよ」
 そう言うと、ベルにぃの姿が消えた。違う。僕の視界から一瞬にして居なくなっただけ。
「アルスター! 右!」
 動揺しているうちに、もう右から僕の懐に入り込んできていた。
「俺はお前の敵だってことだよ!」
 ベルにぃの剣が振り下ろされる。ダメだ。左の盾じゃ間に合わない。でも、右の剣なら……。
 咄嗟の判断で、ベルにぃの剣を今まで使ってこなかった右の剣で迎撃した。
 ベルにぃの必殺の一閃に、僕の拙い剣筋が重なり合う。
 誰が見ても勝敗は明らか。僕の剣は押し切られ、ベルにぃの刃が僕の首を切り裂く。
 そうなるはずだったのだが、剣が重なり合うと同時に僕の剣が輝きを放ち、爆発のように両者を吹き飛ばした。
「アルスター、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。それより、今のは……」
「宝剣の力よ。あなたの意志に答えてくれたの」
 宝剣の力。
 あんな誰が見ても負けのような状態をひっくり返すことが出来るなんて……。
 でも、そんな有利があったのに、僕の頬からは血が垂れている。
「流石、宝剣。武器能力の差がここまでだなんてな」
 次も同じことをされても、さっきと同じように宝剣の力が都合よく働いてくれるか分からない。
 現状は不利。
 そう思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
「まさか、俺の剣を粉々にするなんてな」
 ベルにぃが持っている剣は柄だけで、刀身はどこかに消えていた。
「ここでお前を殺しておきたかったが、武器がないなら仕方がない。門番の仕事は終わりにして帰るとするよ」
「帰るって、どこにだよ」
「そりゃあ、あの村以外のどこかにだよ」
 そう言って逃げようとしたベルにぃだが、それをメリルが呼び止めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...