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4 妖精の宝物庫

アルスター 36

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「よかった。どうやら成功みたい」
 その言葉を聞いても、一応、油断はせず、盾を構えてキマイラを観察した。
 おとなしく、お座りをしているが、いつ気が変わって襲ってきても不思議ではない。
「大丈夫よ。もう襲ってきたりはしない」
「……本当に? そう言ってガブッなんてことないよね?」
 恐る恐る、剣で突っついて見るが、敵意は感じられない。
「一応、その剣はエルフの国宝なんだからね? そんな汚物をつつく棒みたいな感じで使わないでよ」
「いや、そう言われても……」
 近くに手頃な棒はないので、この剣で様子を見るしかできない。
「それに、本当に大丈夫だから。今、この城は私の支配下にあるの。簡単な話だったのよ。いくら罠を仕掛けていても、私が妖精女王の権限をまだ持っている以上、この城は私の城。私の城が私に牙を剥くなんて本来あり得ないのよ」
 今メリルはこの城の全てを自分の支配下にしたのだろう。調教という言葉で閃いたのはそう言うことだったらしい。
「猛獣を手懐けたのは良いことだけど、先を急ごうか」
「そうね。まあ、もう追っ手を気にする必要はないけど」
「そうなの?」
「ええ。この城を私が乗っ取った時に、道とか部屋とか、いろいろイジったから。今頃、警備は道に迷っててんやわんや。玉座でふんぞり返っている現王は、部屋から出ると目の前にはデモの集団。出来ることなら現王の顔を見てみたかったものね」
「結構、いろいろ嫌がらせをしたみたいね」
「えぇ。結構すっきりしたわ」
 エルフの妖精女王と言っても、案外、人と変わらず性格が悪かったりするみたいだ。
「宝物庫はもうすぐだし、さっさと持って帰っておいしいお茶でも飲んでゆっくりしましょう」
「お茶を飲む暇があるかどうかは分からないけど、早いことに越したことはないからね」
 ここを後にする前に、先ほどまで戦っていたキマイラを恐る恐る一撫でして、先へと急いだ。
 隣の部屋へと移ると、そこは夜空が見える室外だった。
「あれ……もう夜に……」
 綺麗な小石が敷き詰められ、月明かりで出来た影が、まるで波打つ水面のように美しい。
「夜空に見えるけど、これは天井よ。外はまだ日が上っていて、夜じゃないわ」
 これも魔法の力なのだろうか、とても幻想的な空間だ。
「この先に祠があって、そこが宝物庫の入り口なんだけど……誰かいるわね」
 見ると、幻想的な風景の先には、人も住めないような小さな家のようなものがあり、その前には誰かが立っていた。
「まさか、こんなところで会うとはな、アル坊」
 この声、そして、僕をアル坊と呼ぶ人に心当たりがある。
「なんでこんなところに……」
 月光に照らされ、顔が明るみになる。3年前と変わらぬその顔が……。
「3年ぶりだな」
「ベスにぃ……」
 目の前にいたのは、3年前に出稼ぎに行ったっきり帰ってこなくなった僕の兄だった。
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