3 / 55
1 冒険の幕開けは突然で
アルスター 3
しおりを挟む
「それで、アルスターはこんな夜中にこんな場所で何をしていたの?」
「王都の近くの町に向かっていたんだ」
「王都に向かっているの? なによ、それを早く言いなさいよ。目的地も一緒じゃない」
「いや、近くの町で……」
「細かいことは気にしないの」
王都の外れにある町から王都の中心都市までは結構離れている。全く細かいことではない。
だが、今はその話はしないでおこう。
「僕は答えた。次は君が答える番だ」
石が喋るのもおかしいが、石がどうやって王都に向かおうとしていたのかも気になる。
「私はマーリンと名乗る男の魔術師に石にされたの。これは必要なことだとかいって……ハメられたわ。それで、侍女の助けを借りて王都に向かっていたんだけど、途中で賊に襲われてね。侍女は私をここに投げ捨てたってわけ」
「そんな事情が……」
信じられないが、石が喋るよりは信じられる話だ。それに、彼女には家名がある。おそらく、どこかの貴族なのだろう。それで恨みを買ったそのマーリンという者に石にされたのだろう。
「でも、なんで王都に向かっているんだ?」
「王都に行けば、何か元に戻れる情報が手にはいるかも知れないし、人類王なら手を貸してくれると思って」
「じ、人類王って……」
そんな人物に越権しようとしていたなんて驚きだ。
家名があることといい、彼女はいいところのお嬢様なのだろう。まるで、僕が王子で悪い魔法使いから石に彼女を救うおとぎ話みたいだ。
ただ、彼女は守られるような弱い存在ではなさそうだ。
「しっ! お話はここまで。何かくる」
「な、何かって?」
「分からない。けど、なにか」
いち早く、彼女が何かに気づいた。だが、僕には何も分からない。分からないまま、腰の剣に手をかけた。
一時すると、音が聞こえてきた。人間の物ではないリズミカルな足音。その音には聞き覚えがある。
「馬? ということは、誰かが馬で荷車を引いているのか」
「そうみたいね」
僕の予想は当たり、現れたのは荷馬車だ。しかも、僕に気づいて止まってくれた。
「坊主、こんなところで何してんだ?」
「王都に向かう途中で……」
「王都にか……じゃあ、出稼ぎか。親孝行な坊主だな。よし、近くまで乗せていってやるよ」
「いいんですか?」
「あぁ。荷物を運ぶついでだ。ほら、荷台に乗れ」
「あ、ありがとうございます」
幸運とはまさにこのこと。僕は王都方面に向かう荷馬車に乗せてもらった。これなら夜が明けるうちに近くの町に着きそうだ。
「アルスター。気をつけなさい」
「どうしたんだよ、その、トリアーナさん」
「メリルでいいわ」
「あ、うん。メリル。それより、何を気をつけろってなんのことだよ」
「この荷馬車、荷物が乗っていない」
「確かに……」
荷馬車なのに、荷物が一切乗っていない。でも、降ろしたばかりという可能性もある。
「もしかしたら、これは……」
その先の言葉を聞く前に、荷馬車が急停止した。
「な、なんだ?」
慌てて外を見ると、そこに僕を乗せてくれた荷馬車の運転手がいない。それに、外にはさっきまでなかった霧が立ちこめている。
「これは……」
「吸ってはいけない!」
何だろうと臭いを嗅ごうとしたが、メリルが何かに気づいて慌てて止めた。
「これはおそらく催眠ガス。やっぱり、これはただの荷馬車じゃなかった」
ガスと聞き、急いで口に手を当てた。だが、もう吸い込んでしまった。
「たぶん、あれは奴隷商人だったんでしょう。ガスで眠らせ、鎖に繋いでから奴隷市に出す」
いい人だと思って心を許してしまった。メリルが最初に話しかけてきたときは警戒していたのに。
でも、後悔もこれ以上できそうにない。視界がだんだんと霞んでいく。
「でも、大丈夫。あなたは幸運よ。私がいるから。こんなガス、吹き飛ばしてあげる」
そうだ。メリルを隠さなければ。服の中……に隠してもどうせ見つかる。なら、隠す場所は口の中しかない。
手のひらサイズの宝石、メリルを口の中に放り込んだ。
「ちょ、ちょっと何してるのよ!」
メリルが怒っているけれど、それを宥める余力もない。
そこから僕の記憶は途絶えてしまった。
「王都の近くの町に向かっていたんだ」
「王都に向かっているの? なによ、それを早く言いなさいよ。目的地も一緒じゃない」
「いや、近くの町で……」
「細かいことは気にしないの」
王都の外れにある町から王都の中心都市までは結構離れている。全く細かいことではない。
だが、今はその話はしないでおこう。
「僕は答えた。次は君が答える番だ」
石が喋るのもおかしいが、石がどうやって王都に向かおうとしていたのかも気になる。
「私はマーリンと名乗る男の魔術師に石にされたの。これは必要なことだとかいって……ハメられたわ。それで、侍女の助けを借りて王都に向かっていたんだけど、途中で賊に襲われてね。侍女は私をここに投げ捨てたってわけ」
「そんな事情が……」
信じられないが、石が喋るよりは信じられる話だ。それに、彼女には家名がある。おそらく、どこかの貴族なのだろう。それで恨みを買ったそのマーリンという者に石にされたのだろう。
「でも、なんで王都に向かっているんだ?」
「王都に行けば、何か元に戻れる情報が手にはいるかも知れないし、人類王なら手を貸してくれると思って」
「じ、人類王って……」
そんな人物に越権しようとしていたなんて驚きだ。
家名があることといい、彼女はいいところのお嬢様なのだろう。まるで、僕が王子で悪い魔法使いから石に彼女を救うおとぎ話みたいだ。
ただ、彼女は守られるような弱い存在ではなさそうだ。
「しっ! お話はここまで。何かくる」
「な、何かって?」
「分からない。けど、なにか」
いち早く、彼女が何かに気づいた。だが、僕には何も分からない。分からないまま、腰の剣に手をかけた。
一時すると、音が聞こえてきた。人間の物ではないリズミカルな足音。その音には聞き覚えがある。
「馬? ということは、誰かが馬で荷車を引いているのか」
「そうみたいね」
僕の予想は当たり、現れたのは荷馬車だ。しかも、僕に気づいて止まってくれた。
「坊主、こんなところで何してんだ?」
「王都に向かう途中で……」
「王都にか……じゃあ、出稼ぎか。親孝行な坊主だな。よし、近くまで乗せていってやるよ」
「いいんですか?」
「あぁ。荷物を運ぶついでだ。ほら、荷台に乗れ」
「あ、ありがとうございます」
幸運とはまさにこのこと。僕は王都方面に向かう荷馬車に乗せてもらった。これなら夜が明けるうちに近くの町に着きそうだ。
「アルスター。気をつけなさい」
「どうしたんだよ、その、トリアーナさん」
「メリルでいいわ」
「あ、うん。メリル。それより、何を気をつけろってなんのことだよ」
「この荷馬車、荷物が乗っていない」
「確かに……」
荷馬車なのに、荷物が一切乗っていない。でも、降ろしたばかりという可能性もある。
「もしかしたら、これは……」
その先の言葉を聞く前に、荷馬車が急停止した。
「な、なんだ?」
慌てて外を見ると、そこに僕を乗せてくれた荷馬車の運転手がいない。それに、外にはさっきまでなかった霧が立ちこめている。
「これは……」
「吸ってはいけない!」
何だろうと臭いを嗅ごうとしたが、メリルが何かに気づいて慌てて止めた。
「これはおそらく催眠ガス。やっぱり、これはただの荷馬車じゃなかった」
ガスと聞き、急いで口に手を当てた。だが、もう吸い込んでしまった。
「たぶん、あれは奴隷商人だったんでしょう。ガスで眠らせ、鎖に繋いでから奴隷市に出す」
いい人だと思って心を許してしまった。メリルが最初に話しかけてきたときは警戒していたのに。
でも、後悔もこれ以上できそうにない。視界がだんだんと霞んでいく。
「でも、大丈夫。あなたは幸運よ。私がいるから。こんなガス、吹き飛ばしてあげる」
そうだ。メリルを隠さなければ。服の中……に隠してもどうせ見つかる。なら、隠す場所は口の中しかない。
手のひらサイズの宝石、メリルを口の中に放り込んだ。
「ちょ、ちょっと何してるのよ!」
メリルが怒っているけれど、それを宥める余力もない。
そこから僕の記憶は途絶えてしまった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる